原題は「Le fils de l'Autre 」(他の子)
名前も作品も知らない監督でしたが(笑)
主人公と同じ年頃の息子がいるせいか、その感性にはとても共感しました
大まかなストーリーは、よくある赤ちゃん取り違えもの
しかしあろうことかユダヤ人とアラブ人の子どもが間違えられ
憎しみ合う敵国同士の国境をまたいで育てられたのです
そんな家族の心境が痛いほど伝わる
父親はイスラエルの軍人、母親は医師の
17歳の息子の兵役検査で、血液型が両親と異なることが判明します
口には出さないけれどまず父親が疑ったのは母親の浮気
そこで母親が出産した病院に確認すると、本当の息子は
パレスチナのイスラエル占領区に住むアラブ人夫妻によって育てられていたのです
こういうとき母親は強いな
大切に育てた息子を決して手放さないと心に誓っていても
会ったことのない実の息子にも同じ愛情を抱くことができる
男は全くダメだ(笑)
認められない、認められない、認められない
親戚に、近所の人間に、実の子が敵国の人間の子と間違われ
育てられていたと知られたらどうする
顕著にその態度を露わにするのがパレスチナ側の息子ヤシンの兄
フランスに留学し医大に合格した自慢の弟が
ユダヤ人だと知ったとたん酷い態度を取るようになるのです
この兄がこのまま自爆テロにでもなるんじゃないかと思った私は
自分でも気付かぬうちにアラブ人に偏見を持っていたんだな
そういう映画ではありませんでした(笑)
イスラエル側の息子、ヨセフは自分が何者なのか悩んでいました
ラビ(ユダヤ教の指導者)に相談すると
「ユダヤ教は単なる信仰でなく、生まれが重要」と
ラビの言葉をきっかけに、親友たちにも心を開けなくなり
好きな女の子には最低な行為をして嫌われてしまう
ヨセフの母親はパレスチナの家族を
イスラエルに招待する決意をします
ヤシンは父親似の顔で、母親と同じ医者を目指しているという
こりゃ間違いなく俺たちの子だ
ミュージシャンを目指すヨセフは、死んだヤシンの弟とうりふたつ
こりゃ間違いなく俺たちの子だ
と、相手の息子を自分の息子と認めざる得ない気持ちなりますが
お互いの父親はお互いの民族を罵倒しあってしまいます
でもどちらの父親も、不器用だけど息子を愛してる
イスラエルへの通行証を渡していたのです
ヤシンはヨセフのアイスクリーム売りのバイトを手伝って貰った日給が
パレスチナの1か月分の給料だといいます
(使える通貨が同じなのは占領区だから?)
それだけイスラエルへの通行証は、パレスチナ人にとって手に入れるにが難しく
仕事をするにも買い物にもあれば重宝するのでしょう
やがてヨセフはひとり、パレスチナ(ウエストバンク)の両親の家を訪ねます
「アル・ベザス」しか話せないヨセフに手を差し伸べて道案内する
パレスチナのおばあちゃんの親切が心温まる
出迎えたのは、ヤシンを認めることが出来なくなってしまった実兄でした
言葉の挑戦でヨセフの中からパレスチナ人を見出そうとします
それを救ったのがヨセフの歌でした
ヨセフの部屋にレッド・ツェッペリンや
ビートルズのポスターが貼ってあったことでもわかるように
ミュージシャンを目指すものに国境はない(笑)
パレスチナの家族にとって、ヨセフは取り違えられた子というより
病気で死んでしまった末弟が戻って来てくれた
そんな気持ちになったのだと思います
末弟が死んだとき、ヤシンは医者になることを誓い
兄とふたりでパレスチナに病院を建てることを約束した
兄にとってヤシンもヨセフもどちらも大切な弟には変わりない
そのことに気付く
そして兄が初めてイスラエルに渡った日
ヨセフが酔っ払いに絡まれて刺されてしまう
死んだ末弟の悪夢が蘇る瞬間
だけどその事件は、兄弟の絆をより深めるきっかけになったのです
もとは同じ国に住んでいて、見た目はユダヤ人かアラブ人か区別さえつかないのに
国境に壁を作るというのは、こういうことかと哀しくなる
でも、どんな険しい道のりでも未来は変えられるはず
そんなメッセージを若者に伝えているように感じました
【解説】映画.COMより
2012年・第25回東京国際映画祭で、最高賞の東京サクラグランプリと優秀監督賞の2冠に輝いたドラマ。兵役用健康検査の結果、両親の実子でないことを知ったイスラエル人の青年。出生の際の手違いが明らかになり、やがてイスラエルとパレスチナふたつの家庭のアイデンティティと信念とが、大きく揺さぶられる事態に発展する。根深い憎しみからの解放を描く。