5時から7時までのクレオ(1962)

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若い女は愛されることを愛す 」


原題も「Cleo de 5 a 7 」(クレオ5~7)

なかなか見ることの出来ない、ヌーヴェルヴァーグ左岸派の傑作を

まさか無料配信で見れる時代がやってくるとは(笑)

不思議で、密度が濃く、文学的で、洒落ている

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さらに、本作ではふたつのお宝映像を見ることができます

ひとつは作曲家のミシェル・ルグランが俳優として出演した唯一のもので

ミュージカルのようにピアノを弾きながら歌います


ふたつめは作中の(女を人形として扱ってるという痛烈なイヤミの )

サイレント映画に出演している

ジャン=リュック・ゴダールアンナ・カリーナ

ジャン=クロード・ブリアリエディ・コンスタンティーヌ

しかもこの映画自体が、リュミエール兄弟へのオマージュということ

シネフィルなら思わずニヤリとすることでしょう

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196162117時、パリ

若い女性が占い師にタロット占いをしてもらっています

占い師は、まず最初に彼女に献身的な未亡人がいるといい

次に紳士的な大人の恋人、だけど彼には頻繁に会えない

次に彼女を笑わせてくれる男性の存在

医者という邪悪な存在は病気を現わし

救世主は、おしゃべりな若者

だけど最後には死を予告するような死神のカード

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女性は占い師に手相も見てくれと要求しますが

占い師は一瞬手のひらを見て鑑定を拒否します

そして女性が立ち去った後、占い師は彼女の死を宣言するのです


タロットカードだけカラー、あとはモノクロ映像で

物語はタロットカードの予言通り進行していきます

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クレオは売れっ子のシャンソン歌手

マネージャー?メイド?の中年女

アンジェールが身の回りの世話をしてくれています


クレオは健康診断を受け、その結果がわかるのが19

きっと癌で死ぬんだと不安でなりません

恋人も、作曲家も、気にしすぎだと慰めますが

クレオの心は晴れない

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出かけた先のカフェのジュークボックス

カエルを飲み込み、水を吐き出す大道芸人

怖いもの知らずの女性ドライバーのタクシーに乗る

なにをしても、何を見てもクレオの心は晴れない

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ヌードモデルをしている古い友人と映画を見ても

クレオの心は晴れない


クレオはタクシーの運転手にモンソー公園の中を走れと頼みます

日本でいえば上野公園にタクシーが入り込むようなもの(笑)

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川の橋にぶつかり、タクシーを降りたクレオはひとりの男に声を掛けられます

男はアントワーヌと名乗り、お調子者で、背も高くないし、すきっ歯

当然こんな男を相手にするつもりはありません


だけどアントワーヌから、自分はアルジェリア戦争に参戦している兵士で

今日が最後の休暇日だ聞くと、彼に心を開いていきました

癌で死ぬか、戦争で死ぬか、人間はいつどこで死ぬかわからない

クレオはアントワーヌに自分と同じ境遇を感じたのです

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クレオは本名はフロランスだと教えます

するとアントワーヌは、権高く毒蛇で死ぬクレオパトラよりも

春の女神フロランスの名の方が君に相応しいと伝えます

 

ふたりは病院に検査結果を聞きに行くためにバスに乗ります

アントワーヌが花売りから抜き取った白い一輪の花が

クレオを死というトラウマから解放する

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医師は放射線治療は辛いが、必ず回復するとクレオに告げます

19時、クレオは病をカラリと受け入れ

少なくとも2時間ぶりに、幸せを感じていました

 

が、突然画面は真っ黒になり(笑)

ヒロインの未来を、否定も肯定もしないラスト

この切り捨ての消化不良こそヌーヴェルヴァーグ(笑)

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細かいチャプターでの時間指定は

今の映画やドラマに多くの影響を与えていますし

鏡の使い方や、猫の湯たんぽ、女性の職業人など

作り手が女性ならではの小道具の使い方や、感性に優れています

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また街でゲリラ撮影しているため、カメラの方を見る人々がたくさんいて

それがヒロインの被害妄想を効果的に表現するという試みに

成功しています

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深いこと考えずに、この洒落た雰囲気を楽しむだけでも良し

 

ジャン=リュック・ゴダールをこんなに可愛く撮れるのは

世界中でアニエス・ヴァルダしかいません(笑)

 

 

【解説】KINENOTEより

新進女流監督アニエス・ヴァルダがみずから脚本を書き演出した心理ドラマ。撮影はジャン・ラビエ、音楽は「新・七つの大罪」のミシェル・ルグラン。出演者は新人女優コリンヌ・マルシャン、アントワーヌ・ブルセイユ、ミシェル・ルグラン、特別出演としてジャン・クロード・ブリアリ、サミー・フレー、ジャン・リュック・ゴダールなど。A・T・G第十二回上映作品。黒白・部分カラー・スタンダードサイズ。特集『ドゥミとヴァルダ、幸福についての5つの物語』にて2017722日より再上映(配給:ザジフィルムズ)。