「若い女は愛されることを愛す 」
原題も「Cleo de 5 a 7 」(クレオ5~7)
なかなか見ることの出来ない、ヌーヴェルヴァーグ左岸派の傑作を
まさか無料配信で見れる時代がやってくるとは(笑)
不思議で、密度が濃く、文学的で、洒落ている
さらに、本作ではふたつのお宝映像を見ることができます
ひとつは作曲家のミシェル・ルグランが俳優として出演した唯一のもので
ミュージカルのようにピアノを弾きながら歌います
ふたつめは作中の(女を人形として扱ってるという痛烈なイヤミの )
サイレント映画に出演している
しかもこの映画自体が、リュミエール兄弟へのオマージュということ
シネフィルなら思わずニヤリとすることでしょう
1961年6月21日17時、パリ
若い女性が占い師にタロット占いをしてもらっています
占い師は、まず最初に彼女に献身的な未亡人がいるといい
次に紳士的な大人の恋人、だけど彼には頻繁に会えない
次に彼女を笑わせてくれる男性の存在
医者という邪悪な存在は病気を現わし
救世主は、おしゃべりな若者
だけど最後には死を予告するような死神のカード
女性は占い師に手相も見てくれと要求しますが
占い師は一瞬手のひらを見て鑑定を拒否します
そして女性が立ち去った後、占い師は彼女の死を宣言するのです
タロットカードだけカラー、あとはモノクロ映像で
物語はタロットカードの予言通り進行していきます
マネージャー?メイド?の中年女
アンジェールが身の回りの世話をしてくれています
クレオは健康診断を受け、その結果がわかるのが19時
きっと癌で死ぬんだと不安でなりません
恋人も、作曲家も、気にしすぎだと慰めますが
クレオの心は晴れない
出かけた先のカフェのジュークボックス
カエルを飲み込み、水を吐き出す大道芸人
怖いもの知らずの女性ドライバーのタクシーに乗る
なにをしても、何を見てもクレオの心は晴れない
ヌードモデルをしている古い友人と映画を見ても
クレオの心は晴れない
クレオはタクシーの運転手にモンソー公園の中を走れと頼みます
日本でいえば上野公園にタクシーが入り込むようなもの(笑)
川の橋にぶつかり、タクシーを降りたクレオはひとりの男に声を掛けられます
男はアントワーヌと名乗り、お調子者で、背も高くないし、すきっ歯
当然こんな男を相手にするつもりはありません
だけどアントワーヌから、自分はアルジェリア戦争に参戦している兵士で
今日が最後の休暇日だ聞くと、彼に心を開いていきました
癌で死ぬか、戦争で死ぬか、人間はいつどこで死ぬかわからない
クレオはアントワーヌに自分と同じ境遇を感じたのです
クレオは本名はフロランスだと教えます
するとアントワーヌは、権高く毒蛇で死ぬクレオパトラよりも
春の女神フロランスの名の方が君に相応しいと伝えます
ふたりは病院に検査結果を聞きに行くためにバスに乗ります
アントワーヌが花売りから抜き取った白い一輪の花が
クレオを死というトラウマから解放する
19時、クレオは病をカラリと受け入れ
少なくとも2時間ぶりに、幸せを感じていました
が、突然画面は真っ黒になり(笑)
ヒロインの未来を、否定も肯定もしないラスト
この切り捨ての消化不良こそヌーヴェルヴァーグ(笑)
細かいチャプターでの時間指定は
今の映画やドラマに多くの影響を与えていますし
鏡の使い方や、猫の湯たんぽ、女性の職業人など
作り手が女性ならではの小道具の使い方や、感性に優れています
また街でゲリラ撮影しているため、カメラの方を見る人々がたくさんいて
それがヒロインの被害妄想を効果的に表現するという試みに
成功しています
深いこと考えずに、この洒落た雰囲気を楽しむだけでも良し
ジャン=リュック・ゴダールをこんなに可愛く撮れるのは
世界中でアニエス・ヴァルダしかいません(笑)
【解説】KINENOTEより
新進女流監督アニエス・ヴァルダがみずから脚本を書き演出した心理ドラマ。撮影はジャン・ラビエ、音楽は「新・七つの大罪」のミシェル・ルグラン。出演者は新人女優コリンヌ・マルシャン、アントワーヌ・ブルセイユ、ミシェル・ルグラン、特別出演としてジャン・クロード・ブリアリ、サミー・フレー、ジャン・リュック・ゴダールなど。A・T・G第十二回上映作品。黒白・部分カラー・スタンダードサイズ。特集『ドゥミとヴァルダ、幸福についての5つの物語』にて2017年7月22日より再上映(配給:ザジフィルムズ)。