原題は「LE REDOUTABLE」(リダウタブル =フィルム)
アンヌ・ヴィアゼムスキーは、ロシア貴族の血を引き
ノーベル賞作家フランソワ・モーリヤックを祖父に持つセレブ
おまけにソルボンヌ大学哲学科に通うインテリ
16歳のとき、ロベール・ブレッソンの
「バルタザールどこへ行く」(1964)で女優としてデビュー
19歳でジャン=リュック・ゴダールの「中国女」(1967)に抜擢
ゴダールは車の免許も持っていないアンヌに
いきなり車をプレゼントをしたり、猛アプローチしたそうですが(笑)
なぜ若いアンヌがこんな面倒臭い中年男に惚れたのか
そのことを冒頭で、アンヌ自身が告白していました
それは「彼がゴダールだから」
【ここからネタバレあらすじ】
1968年、パリでは「五月革命」の嵐が吹き荒れ
ゴダールはデモや学生討論会に参加し、過激な政治思想に傾倒していくものの
思考回路が違いすぎて、話が誰ともかみ合わない(笑)
一方的に議論をふっかけてケンカになることもしばしば
映画関係者や親しい友人にも同じで、相手をとことん侮辱しないと気が済まない
はじめは刺激的だったゴダールとの生活が、しだいに窮屈になってくる
レストランやパーティーでは、アンヌをほったらかし議論に夢中
過去の映画を全否定し、映画ファンを敵に回すような言動の繰り返し
それでもアンヌは甲斐甲斐しく夫に付き添っている
デモの最前線で警官たちに投石するゴダールに寄り添い
追われれば一緒に逃げる(笑)まだ幼いのです
ゴダールの前では難しい本を読むふりをしているけど
彼がいなくなったとたんにファッション雑誌を取り出す(笑)
公園でデートしたいと子どもっぽいおねだりもする
アンヌはゴダールに反抗して、友人たちとカンヌ映画祭に参加することにします
海で泳いだり、好きな本を読んだのびのびとエンジョイ
そこにカンヌ映画祭を休止に追い込んだ( カンヌ国際映画祭粉砕事件)
ゴダールがやってきて、アンヌも友人たちも不機嫌な話題を吹っ掛けられ
帰りの窮屈な車内でもかみ合わない激論は続きます(笑)
アンヌが裸で横たわるシーンは、「軽蔑」(1963)の
ブリジット・バルドーのオマージュのようだけど
30代だったバルドーの熟れた身体と比べると
アンヌ・ヴィアゼムスキーの肉体は、まだ青い果実
その青さがより若さを際立たせ、ゴダールと対比させているのは
うまいなと思います
夫婦の会話で建前と本音を同時に表記するという
お遊び的演出も面白い
ローマでの映画会議ではベルナルド・ベルトリッチと口論となり絶交
古くからの友人を傷つけ、ますます孤立していくゴダール
そんなとき、イタリアの奇才マルコ・フェレーリ監督から
アンヌを主役に映画を撮りたいと脚本が送られてきます
ゴダールはル・モンド誌のジャン=ピエール・ゴランらと結成した
“ジガ・ヴェルトフ集団”の撮影にアンヌを連れて行きたがりますが
アンヌの意思を尊重し、ふたりはそれぞれの撮影に入ります
ジャン=ピエール・ゴランの撮影現場はスタッフ一同陽気で
アンヌは撮影を楽しんでいましたが「いつ電話しても出ない」と
ゴダールがやってきて
主演男優と「浮気しているのか」と疑い、アンヌに罵詈雑言を浴びせます
アンヌは涙を流しますが、泣くことさえ否定され
アンヌは安定剤を飲み「もう愛していない」と先に寝てしまいます
翌朝目を覚ますとゴダールが動かない、助けを呼ぶアンヌ
一命はとりとめましたが、自殺騒動を起こしたゴダールを
アンヌは許すことができませんでした
その後、アンヌは“ジガ・ヴェルトフ集団”の「東風」(1969)に参加
“ジガ・ヴェルトフ集団”の撮影は、全て合議制で
午前中に全員が話し合い、それによって午後から撮影を進めていくのです
しかしここでもゴダールは自分の特論を振りかざして譲らない
するとひとりの女性が「政治か、映画か、どちらかを選んで」と質問します
答えられないゴダール
多数決でゴダールは負け、妥協するしかありませんでした
ゴダールは呟く
「どこで間違ったのだろう?」
【ネタバレあらすじ終了】
何度も人に踏みつけられ壊され
その都度新品に買い換えられるゴダールの眼鏡は
彼自身の生き方の象徴なのかもしれません
その後、ゴダールは商業映画から完全に決別し
より政治色の強い作品を制作することになります
1979年にはアンヌと正式に離婚
革命かぶれで理屈屋で、嫉妬深く独占欲が強い
おまけに口先だけで、仕事をしている姿が見えてこない
しかも今でも評価されている作品のほとんどは初期作品ばかり
それでも映画はゴダールを批判的な目で見てはいません
公開後アンヌは亡くなったけれど(70歳没)
ゴダールがこの映画を見たとしたらどう評価したのだろう
今でもやっぱりグダグダと文句ばかり言ってるのかしら(笑)
【解説】allcinemaより
世界的映画監督ジャン=リュック・ゴダールの「中国女」のヒロインに抜擢され、彼の2人目の妻となったアンヌ・ヴィアゼムスキーの自伝的小説『それからの彼女』を「アーティスト」「あの日の声を探して」のミシェル・アザナヴィシウス監督が映画化した伝記コメディ。1968年の五月革命に揺れるパリを背景に、世界が尊敬するゴダールと恋に落ちた学生アンヌの視点から、次第に思想的に先鋭化していくゴダールとの刺激的な結婚生活の顛末をユーモラスなタッチで生き生きと描き出していく。出演はゴダール役に「ドリーマーズ」「恋人たちの失われた革命」のルイ・ガレル、アンヌ役に「ニンフォマニアック」のステイシー・マーティン。
1968年、パリ。世界中から注目される気鋭の映画監督ジャン=リュック・ゴダールと恋に落ち、彼の新作「中国女」のヒロインに大抜擢された哲学科の学生アンヌ。刺激的な映画制作の現場を体験し、やがてゴダールのプロポーズを受け結婚した。メディアに追いかけられながらも甘い新婚生活に幸せを感じるアンヌ。しかし折しも街では革命の機運が高まっていた。ゴダールも映画よりも社会運動に傾倒していき、そんな彼に戸惑いを隠せないアンヌだったが…。