コーヒーをめぐる冒険(2012)

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原題は「Oh Boy

フランソワ・トリュフォーのような映像と

ウディ・アレンのような鬱陶しさと

ジム・ジャームッシュのような時間の使い方

 

コーヒー、煙草、ウォッカという小物使いがうまく

全編に流れるジプシー・ジャズもいい

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早朝、ガールフレンドが寝ている間に

こっそりアパートを抜け出そうとする若い男

目覚めた彼女が予定を聞いても、漠然としか答えられず

コーヒーをすすめても、急いでいると自分のアパートに帰る

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これだけで、いかに曖昧な性格で

はっきり断れない男なのかがわかります

それは優しさのようにも見えるけど

臆病で自分の気持ちを伝える勇気がないだけ

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このあともこのニコという名の青年が

苦手なシチュエーションになるたびに

その人から逃げようとする展開が繰り返されます

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2年前にロースクールを退学したことを父親に教えず仕送りだけ受け取ってる

一方の父親は仕切りたがり屋で、ひとり息子の将来のために

レールを敷いてきました

それが原因の全てとは思いませんが、ニコは自分で考えようとせず

幼い頃から何をやっても長続きしませんでした

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しかも、もう息子がダメだと期待することを諦めた瞬間

優秀な部下を連れてきて、ぐうたらなニコと比較する

それでもニコは父親に反論できないし、お金が欲しいと正直に言えない

ニコはどこでも争いを避けている

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昔太っていて虐めた同級生の女の子が、今は痩せてダンサーとなり

「好きだった」と告白されても、太っていた頃のトラウマを話されると

はっきりしない態度で相手を怒らせてしまう

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そんな彼にとって気持ちを落ち着かせるアイテムのひとつが

コーヒーなんでしょうね

だけどコーヒーマシンが故障していたり

高級カフェでお金が足りなくて買えなかったり

無料サービスのポットのコーヒーが切れていたり

なんらかの事情でどうしてもコーヒーが飲めないストレス

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最後にニコは、バーで老人と出会い

幼い頃ナチスの敬礼の練習をさせられたり

父親と石を投げて窓ガラスを割ったという話を聞きます

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最初は鬱陶しいと思っていた老人でしたが

次第に話に引き込まれ

店を出て老人が倒れた時には、病院まで付き添いました

翌朝、看護師から老人が亡くなったと聞き

彼には身寄りがなく、名前はフリードヒだと知りました

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ひとりぽっちで死んでしまったフリードヒ

はじめてニコが最後まで逃げず、向き合うことができた人間がフリードヒ

その時、何かがニコを変えました

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日本では戦後75年で、戦争の記憶が薄れつつあると言われていますが

ドイツではイマドキの洒落たモノクロ映画の中でも

戦争や、ナチスや、A級戦犯の話題をさらりと入れてくる

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朝の食堂でやっとありつけたコーヒーには

「責任」という

今まで味わったことのない、大人の味がしたのではないでしょうか

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これはもう、私好みでお気に入り寸前(笑)

 

ただ、どうしてもトリュフォーと、ウディ・アレンと、ジャームッシュ

二番煎じ感が拭えないという新しさのなさ

 

とはいえ、この作品が長編デビュー作という若い監督(1978生)

この抜群のセンスに、さらなる活躍を期待したいと思います

 

 

【あらすじとネタバレ】

最初にニコが向かったのは州が任命する心理学者のところでした

ニコは飲酒運転で運転免許を取り上げられ、免許を取り戻すためには

ドイツでは適性検査を受けなければならないようです

検査員は飲酒だけでなくロースクールを中退したことや

両親との関係、恋人のこと、ニコが触れたくないことばかり質問

ニコの情緒が不安定だと免許の返却は却下されました

 

次にニコはコーヒー専門店で店員とのやり取りの末

コロンビアを注文しますがお金が足りません

お金を下ろそうとATMに行くとカードが吸い込まれ

眠ってるホームレスからお金を取り戻そうも通行人が見ている

 

引っ越したばかりの自分のアパートに戻り

父親に助けてもらおうと電話をします

そこに上の階に住んでいる男が妻の手料理を持ってやってきて

さっさと帰って欲しいが、うまく断れない

結局酒を持っていたので部屋に入れ

男の妻が乳がんの手術をした話まで聞かされ

妻との関係に泣く見知らぬ隣人を慰めますが

男の帰った後に、差し入れのミートボールをトイレに流す衝撃

 

そのあとニコは車で迎えに来た友人、マッツエとレストランに行き

好みの女の子が店に入って来たので笑顔を送りました

すると女の子が近づいてきて(昔太っていた)同級生のユリカだと名乗り

ダンサーをしているので舞台を見に来てほしいとふたりを誘いました

 

それからマッツエはニコを連れ、映画の撮影現場を訪れます

演劇学校時代の友人に仕事がないか頼みに来たのです

友人は売れっ子俳優のようで

ナチスの将校と書店で働くユダヤ人娘の恋愛映画の撮影中でした

撮影を見せてもらうふたりでしたが

肝心のクライマックスの撮影時にニコの携帯が鳴る(笑)

電話は父親からで、ゴルフ場にいるので

一緒にゴルフをやろうというものでした

 

ゴルフコースで父親は、ニコに新しい若くて優秀なアシスタントを紹介し

      クラブハウスではシュナップスの3ショットを注文しました
ニコがATMにカードを吸い込まれた話をすると
父親は学会で偶然、ロースクールの教授に会い
ニコが2年前に中退したことを知ったと言います

2年間毎月送っていた大金を何に使ったという父親の質問に
ただ「考えていた」と答えるニコ
口座は「お前のために」解約したと「髪を切って靴を買え」と
父親はいくらかの現金を渡し去って行きました
      ショットを飲み、森の中を歩くニコ

 

駅に行くと切符の販売機が故障していて

(自称)地下鉄切符検査官と名乗る怪しい男2人組に捕まり

無銭乗車の罰金を払えと詰め寄られました

ニコは2人組の隙をみて別の電車に乗って逃げ

父親から貰ったお金で買い物してアパートに戻りました

 

夜になりユリカの演劇を見に行くため再びマッツエが迎えに来ます

途中(クスリを買うため)マルセルという男の家に寄ったマッツエ

マルセルのおばあちゃんのマッサージチェアで寝てしまうニコ

(サンドイッチおばあちゃんが可愛い)

 

      ニコとマッツエはユリカの舞台の開場に遅れ、ひんしゅくを買ったうえ
ユリカが自分の体を食べて嘔吐し混乱するという
前衛的なダンスシーンにマッツェが大笑い
ユリカが招待してくれた公演後のキャスト・パーティーでは
劇を笑ったことを激怒しているライター兼監督と
コメディだと思ったと弁明するマッツェが口論になります

煙草を吸うために路上にやって来たニコのもとに
ユリカが心配してやって来ました
そこに酔っ払った3人の男が、ユリカにからみ
ニコが止めるのも聞かず、ユリカも負けじとやり返す
とばっちりを受けたニコは鼻を殴られ、ユリカは楽屋で彼を看護します

ここまではユリカはニコに対し、大人の対応で頑張ってきたのですが(笑)
イイ感じになり、キスをしセックスが始まると
「太っているエリカを好きと言って」と何度も強要
やがてセックスすることを不快感を隠し切れないニコに
(太り過ぎで虐められた過去がすり込まれている)エリカは激怒し
「相手には困っていない」とニコを楽屋から追い出したのでした

ニコがバーに行きウォッカとビールを注文すると

酔っ払いの老人がやって来て、ニコにも飲み物を注文し

「人が言っていることが理解できないと」話を始めます

そして彼が幼い頃、父親に自転車の乗り方を教わったこと

ヒトラーに敬礼する厳しい訓練を受けたこと

父親と石で、バーの窓ガラスを割ったこと

道路がガラスの破片だらけで、自転車に乗れないと思って泣いたこと

ニコに戦時中の思い出を語ってきかせました

 

そして老人がバーを出たとたん、倒れてしまい救急車で運ばれます

老人を心配したニコは病院まで付き添い

あくる朝老人が亡くなったと知らされます

看護師は彼に家族はなく、ひとりきりだったこと

そして名前はフリードヒだと教えてくれました

 

思えばニコが人の話を最後まで聞きことが出来たのは

この老人が初めででした

病院を去ったニコは食堂に入り

やっと1杯の温かいコーヒーを飲むことができました

 

【解説】映画.comより

ベルリンの街をさまよう青年の災難続きの1日をモノクロ映像で描き、新人監督ヤン・オーレ・ゲルスターの長編デビュー作にしてドイツ・アカデミー賞主要6部門を総なめしたオフビート・コメディ。ベルリンで暮らす青年ニコは、2年前に大学を中退して以来、自堕落な毎日を送っていた。ある朝、恋人の家でコーヒーを飲み損ねた彼は、車の免許が停止になったり同じアパートの住人に絡まれたりと散々な目に遭う。気を取り直して親友マッツェと街へ繰り出したニコの前に、ひとクセもふたクセもある人々が次から次へと現われ……。主演は「素粒子」のトム・シリング。