「いいではないか」
はじめは「祖国」というタイトルだったそうです
でも「祖国」だと民族分断みたいですものね(笑)
原作は椎名 誠の「倉庫作業員」
仕事のため都会に出ていく若者と、田舎に残ったひとり暮らしの老人
山田洋次らしく家族のあり方を丁寧に描写した秀作
【ここからネタバレあらすじ】
昭男(三國連太郎)は岩手で農業を営む高齢者で妻に先立たれひとり暮らし
地元に嫁いだ長女が同居を提案しても頑なに拒否しています
妻の1周忌にアロハシャツで帰ってきた
定職にも就かない次男の哲夫(永瀬正敏)が心配の種
東京に帰った哲夫は鉄工所でアルバイトすることにしますが
あまりのキツさにすぐ辞める決意をしていました
ところが納品先の受付の女の子があまりに可愛くて一目惚れ
征子(和久井映見)は聾唖者でしたが
彼女に会うため仕事を続け、彼女のために手話を勉強します(笑)
意外にも仕事を頑張る哲夫のことを職場の仲間も認め始め
哲夫は臨時社員に昇格しました
いっぽう戦友会の集まりのため上京した昭男は
結婚して孫もでき、マンションを買った長男のところに泊まりに行きます
長男は一流大学を卒業し、大企業に勤める自慢の息子
なのに突然やってきた父親をどうするか
ふすまの向こうで夫婦喧嘩する声が聞こえる居心地の悪さ
昭男は岩手に帰る決意をし
その前に哲夫のアパートにも寄ることにしました
哲夫がやっと落ち着いて仕事をしていることを知り安心し
しかも結婚したい女性までいるという
そして次の日、哲夫と征子からファックス電話をプレゼントされるのです
社会から偏見を受けたことがある者同士だからわかる、孤独、苦しさ
感謝を言葉で口で言うのは難しいけれど、文字でなら伝えることができる
できそこないだからできた親孝行
立派だと思っていた長男は仕事で疲れ、楽しそうでなく
バカ息子だった次男のほうが、6畳一間のボロアパートでも幸せに暮らしている
将来はどうなるかわからない
だけど今は家族が増えることがただただ嬉しい
その気持ちを思わず歌にする
これは言わずとも歓びを感じる見事なシーン
さすが三國連太郎と思ってしまう
田舎に帰れば「息子に会って幸せだなお前は」と迎えられ自慢
そして雪深い中、玄関までたどり着いくと
妻が生きていたころの、家族の温かい団らんが見える
ここで昭男は夢を見ながら雪に埋もれて死んだな
と思ったのですが、そうではなく(笑)
我に返ると、いつも通りの孤独な暮らしに戻っていました
違うのはわが家にファックスがついたこと
【ネタバレあらすじ終了】
老いや家族をテーマに作品を作ると、説教臭くなりそうなものだけど
山田洋次はそういうのが一切ないのがいい
昭和から平成、令和になってもダメ男を撮り続けていくんだな
きっと
【解説】allcinemaより
「男はつらいよ」の山田洋次監督が、椎名誠の『倉庫作業員』を基に、田舎に住む父親と都会でフリーアルバイターを続ける息子との葛藤を描いた感動ドラマ。三國をはじめ、永瀬、和久井ら出演者たちの抑えた演技が冴え渡る。
東京でフリーアルバイターとして生活を送る哲夫。母の一周忌に岩手の田舎に帰るが、フラフラした生活に不満を持つ父・昭男とはギクシャクしたままだった。東京へ戻った哲夫は、下町の鉄工場で働き始める。そこで取引先の倉庫で働く征子と出会う。やがて、哲夫は征子が聾唖であることを知る……。