チャンブラにて(2017)



イタリア南部のジョイア・タウロと呼ばれるコムーネ(共同体)にある

チャンブラというスラム通り


監督と撮影隊が過去にこの場所で

撮影機材一式を積んだ車を盗まれたのをきっかけに

その返還交渉で制作機会を得たそうです




主人公のピオ少年はじめ、家族や親戚一同、ご近所一同

主演者のほとんどは、そのとき出会った泥棒一味の関係者

しかも実名でリアリティの強度は半端ありません

そして彼らはロマ族でした


ロマ(ジプシー)とは、もともとは定住しない移動型の民族
国籍を持たないこともあり

ヨーロッパ各地で差別や迫害されてきた歴史をもち

イタリアでも政府から公認されず、定職につくことは難しいそうです




男たちは盗みによって家族を支え、電気も公共の電線から盗む

ピオもそんな兄たちのような

「大人」の男仲間入りをしたくてしょうがない

泥棒することは一家の大黒柱になることと

誇りに思っているのです




こう書くと私も「差別」していると批判されそうですが

ロマが忌み嫌われる理由がよくわかります


5歳くらいの幼い子たちが汚い言葉を吐き、タバコを回し吸い

ピオは14歳、中学校の年頃ですが

まともに学校に行っていないのか字も読めません

だけど大人と一緒に酒を呑み、バイクも車も運転する




夜はナイトクラブのような場所に行き

女の子にも興味が出てくる年頃

たぶん早くに結婚し、たくさん子どもを持つのでしょう


ピオの母親を見ればわかる

幼い子どもがいるとは思えない、見た目もうババア

早熟な女性は早く老ける




ある日父親と兄が、盗難の容疑で警察に拘留されてしまい

ピオは金銭的に窮地に追い込まれている母親を助けるため

旅行者のバッグを盗み、友人のアフリカ移民アイヴァに協力を求めます


アイヴァはアフリカ難民キャンプのコミュニティーで商売していて

仲間から信頼されているようです

いつかは故郷で商売したいという夢も抱いています




お金に困っているピオに頼まれて

同じ貧困街で生きる者同士ということもあるのでしょう

お金の工面をしてあげるのです


しかしマフィアに落とし前をつけるため

刑務所から出所してきた兄貴たちは

アイヴァの倉庫から商売道具をすべて盗むといいます

長い間、差別され続けてきた人間が

さらに弱い立場にある人間を差別するのです




家族や、自分たちの民族を大切にするということは確かに大切です

だけどそのためには、他人を突き落としてもいいなんて

困らせても関係ないなんて


こんな人たちとは関わり合いを持ちたくない

親切になんかしたくないと、誰だって思ってしまう

裏切ることが大人の証なんて、友情が芽生えるわけがない




ピオには馬が見えていた

それに乗れば、外の世界に行けたのかも知れない


だけどこの馬は大人になったらもう見ることはできないのです

視線の先にはまだ幼い従弟たち

彼らの中にも、もう戻れない




ピオが大人になる前の最後の涙

これほど濃い涙があるでしょうか


この世界から子どもたちが抜け出す方法は
やはり教育しかないのでしょう
そして教育の質を上げることこそが
最優先で必要なのだと思います



【作品情報】MovieWalkerより

アカデミー賞外国語映画賞イタリア代表選出作品。イタリアのレッジョ・カラブリア県にあるスラム、チャンブラには、大昔から差別を受けているロマが住んでいる。14歳で酒も煙草もたしなむ少年ピオは、アフリカの移民アイヴァの協力で金を稼ぎ始めるが……。監督は、「地中海」のジョナス・カルピニャーノ。ノルウェーベルゲン国際映画祭CinemaExtraordinaire Awardほか国際映画祭で受賞