旅役者(1940)

 
 
最初は地味で古臭い
ただの昔の映画だな、などと思いながら
鑑賞していたのですけれど。
 
だけど、次第に引き込まれました。
男性の些細なこだわりが、プライドが
活き活きと伝わります。
さすがの名匠、成瀬巳喜男監督作品。
 
田舎町にやってきた旅芸人の「六代目菊五郎一座」は
狂言「塩原多助」を演じています。
その中で、馬の役を務める前脚の俵六と後ろ脚の仙平。
 
顔さえも見えない着ぐるみの馬。
だけど俵六は熱心に馬の研究をし
自分の仕事に誇りをもっているのです。
 
だけどいいのが、引き立て役の後ろ脚の仙平。
 
仙平は今でいうおとなしめ草食系癒し男子(笑)
とても先輩をたてるんですね。
かといって正しいこともちゃんと言う。
そして誰とでもちょうどいい距離感。
 
この時代にこういうピュアな男性を生み出していたなんて
まさしく先見の明です(笑)
 
馬の着ぐるみの顔が、酔っぱらいのせいでつぶされてしまい
本物の馬に役を取られてしまった俵六と仙平。
そして本物の馬のほうが人気になってしまうのです。
 
真面目で、一筋に役に取り組んできたのに
仕事を奪われ、お金も尽きてしまう・・
 
英雄でもない、有名人でもない、庶民の物語。
人からなんでもないと思われている仕事をしている人にだって
たくさんの喜びや哀愁があるのですよね。
 
馬の着ぐるみで逃げた馬を追う二人。
コケティッシュだけど切ない、そんな名作でしょう。
 

 
【解説】キネマ写真館より
ユーモア作家の宇井無愁の小説「きつね馬」を、成瀬巳喜男が脚色・監督した。名脇役である藤原鶏太(釜足)と柳谷寛を主役に配し、ほろ苦いユーモアに溢れた物語が、地方ロケの効果を生かした背景とともに描かれる。