黒部の太陽【完全版】(1968)





幻の大作と謳われていた名作ですね。

1956年、戦後の高度経済成長の夜明け
関西電力黒部川上流の第四発電所建設に向け行われた
トンネル彫りに挑む作業員たちの苦労を描いています。

狭く暗い地下での作業
いつ岩盤が崩れ下敷きになってしまうのか
あふれ出る湧き水にのまれてしまうのか
爆破の巻き添えになってしまうのか
死ととなりあわせの現場。
事実、工事では170人以上の死者が出たそうです。

インテリな工事責任者と現場で働く作業員との
考え方の違いや温度差も多くありました。
棒で作業員を叩き狂人かと思うくらいの親方。
だけど作業員たちは親方のほうの味方なのでしょう。
大手ゼネコンのお偉いさんは金を払うだけ
理屈ばかり捏ねるヤツと
命がけで働いている自分たちとは違うのです。

それでもトンネルが貫通した時の歓喜
すべての働く人間の気持ちがひとつになった時なのでしょう。
振る舞われる日本酒をヘルメットですくう。
汚いだの不衛生だのいう言葉は存在しません。

細かいことはどうでもいい
働くこと、生きること、達成すること
ただがむしゃらでそして熱い。

トンネルが開通し、道路ができ、線路ができる
今ではあたりまえの生活が
過去の地獄のような作業によって完成されたものなのです。

公開当時は授業の一環として小中学校でも鑑賞したそうです。
懸命に働くお父さん、すべての土木従事者に感謝をする
敬意をはらう、そういう意味もあったのでしょう。

現在は「土方」「労務者」などは放送禁止用語なのだそうです。
学校や地上波で見ることはできないのでしょうが
すべての頑張って働く人々に
感謝、敬意の気持ちを忘れてはいけない
そんな気持ちになる作品でした。



【解説】allcinemaより
木本正次による同名原作をもとに「日本列島」の熊井啓が脚本・監督を務めた。共同脚本は「喜劇 競馬必勝法」の井手雅人、撮影は「情炎」の金宇満司、音楽は「禁じられた情事の森」の黛敏郎がそれぞれ担当。三船敏郎石原裕次郎という、日本を代表する二大スターが共演を果たしている。
 富山県黒部川上流に関西電力が建設する第四発電所。現場責任者には北川が任命され、資材運搬用のトンネル掘削は熊谷組が担当することになった。熊谷組の岩岡源三の息子である剛は父の強硬なやり方に反発し設計技師となっていた。現場に赴いた剛はそこで体力が衰えてしまった父と、熱心に工事に打ち込む北川の姿を見て、工事に参加することにする。やがて工事現場では山崩れが起こり大量の水が流れ込んだ。北川は自分の娘が白血病に冒されたことを知るが、工事現場を離れることができなかった。