原題は「In den Gängen 」(通路にて)
ざっくりとしたあらすじは巨大スーパーマーケットに入った新人従業員が
周りのスタッフと触れ合いながら、一人前になる話
アキ・カウリスマキやジム・ジャームッシュ作品のような
繰り返す日常を淡々と描いていて
そんな中でも小さな事件が起こりますが
何もなかったように再びもとの生活に戻るというもの
(だからといってカウリスマキをパクったこの邦題はいただけない)
映画は三人の主人公にちなんだ、大きく3つの章に分かれています
第一章クリスティアン
旧東ドイツの僻地にある西ドイツ資本で建てられた
倉庫型の巨大スーパーマーケット
「コストコ」のような、といえばわかりやすい
そこに建設現場をクビになった全身刺青の青年
クリスティアンが面接にきます
上司は刺青を隠すように指示し(でも見えている 笑)
彼を飲料売り場のブルーノに預けます
ブルーノはクリスティアンに職場のいろいろなことを教え
クリスティアンは黙々と、時には失敗しそうになりながら仕事をこなします
隣の通路は菓子部門で、フォークリフトの運転をこなしている年上の女性
マリオンに一惹かれてしまいます
寂しいひとり暮らしのアパートに持ち帰る
第二章 マリオン
クリスティアンの気持ちに気付いているのか
マリオンはコーヒーマシンの前のクリスチャンを「新入クン」と呼び
「コーヒーを奢ってくれないの?」と声を掛けます
そして作業服の下に隠された彼の腕の入れ墨を賞賛するのです
(授業で見るビデオがギャグホラー 笑)免許を所得
ブルーノの指導の下、高度な技も身につけていきます
マリオンの誕生日には(処分する予定の賞味期限切れの)
ろうそくを灯し、ふたりで楽しく食べます
やがて同僚たちもクリスティアンとマリオンが
お互い好意をもっていると感付いてくるわけですが
そこでクリスティアンはマリオンが結婚していることを
初めて聞かされるのです
シフトのせいでマリオンとなかなか会えませんでしたが
会社のクリスマスパーティーでマリオンを見つけたクリスティアンは
建設現場で働いていた頃の話などして再びふたりの距離は縮まります
しかし年が明けるとマリオンはクリスティアンを避けるようになります
彼が理由を聞くと、彼女は泣いてクリスティアンのせいではないと言う
そして突然、病気休暇で会社にこなくなります
ショックを受けたクリスティアンは昔の悪い仲間に会って酔っ払い
翌日の仕事を遅刻してしまい、上司から警告を受けます
ブルーノはクリスティアンに、マリオンの夫は「ろくでなし」で
マリオンはDVを受けている
彼女が好きなら付き合うべきではないと教えます
クリスティアンは花束を持ってマリオンの家を訪問します
ドアは開いていて家に入ると、マリオンがお風呂に入るところを見てしまう
そして彼女に気づかれ、花束を置いて逃げ出し
自分のしたことを後悔したのか、バーに行って酒を飲む
第三章 ブルーノ
ブルーノは東ドイツ時代はトラックの運転手をしていてました
昔の仕事や、社会主義政権を懐かしんでいて
それを隠そうとしません
西ドイツは世界中に高級車や電化製品を売る
資本主義経済体制で成功した代表のような国
東ドイツ国営のトラック会社など利益にもならない
そこに巨大スーパーマーケットを建て
元の従業員たちに西側的な教育をして再就職させたのです
だから従業員たちは、お互い助け合い慰め合う
しかし新しいスタートは、彼らにとって得るべきものより
多くのものを失いました
ブルーノはクリスティアンがかって刑務所にいたと知っても
咎めることはありませんでした
ここではみんなが負け組なのです
(マリオンの家が豪邸なのは、夫が西ドイツの人間だと思う)
マリオンが仕事に戻ることになり、クリスティアンに花束のお礼を言います
ふたりは冷凍庫でお互いの鼻をこすりあわせる
ささやかな幸せもつかの間、ブルーノが自殺したという知らせが入ります
彼に家族がいるというのは嘘で、ひとり暮らしの家は荒れていました
従業員たちは彼の死を哀しみ葬儀に出席します
クリスティアンは飲料部門でブルーノの代わりを務めることになりました
そこでマリオンはかつてブルーノから学んだ
(空のフォークリフトを上昇させ、再びゆっくり下降させると
フォークリフトの油圧で海の騒音のような音がする)
右袖、左袖、手首の刺青を隠す
フォークリフト、煙草、食品ロス、バス停、自宅
毎日同じ繰り返し
ブルーノが死んでも何も起こらない
昔の不良仲間とも何も起こらない
マリオンとも何も起こらない
結局何も起こらない
【解説】allcinema より
東西統一後のドイツを舞台に、“負け組”とされた旧東ドイツ出身の人々のままならない日常と小さな幸せを綴ったクレメンス・マイヤーの短編『通路にて』を映画化したヒューマン・ドラマ。主演は「ハッピーエンド」「未来を乗り換えた男」のフランツ・ロゴフスキ、共演にザンドラ・ヒュラー、ペーター・クルト。監督は長編2作目のトーマス・ステューバー。
深夜の巨大スーパーマーケット。内気な青年クリスティアンは、ここで在庫管理担当として働き始める。未知の世界に戸惑うクリスティアンに、上司の中年男ブルーノは父親のような包容力で接し、仕事のイロハを教えていく。そんな頼りがいのあるブルーノだったが、東ドイツ時代への郷愁に囚われている。ある時クリスティアンは、菓子部門で働く年上の女性マリオンと出会い、心惹かれていくのだったが…。