時の翼にのって/ファラウェイ・ソー・クロース!(1993)

原題はIn weiter Ferneso nah!」(遠くて、とても近い)

ベルリン・天使の詩」(1987)の続編で

ヴェンダースは続編というより、統一後のベルリンを探索したかったらしい)

46カンヌ国際映画祭審査員特別グランプリ受賞

主題歌はU2の名曲「en:Stay (Faraway, So Close!)」

しかも本物のゴルバチョフ大統領が特別出演(笑)

批評性や商業的には成功しなかったそうですが

前作とは違った意味で、いい映画だと思います

 

ウィレム・デフォー演じる「時間(の擬人化)」

”ファーザー・タイム”に馴染みがなく

悪人か善人なのか、わかりにくいところはありましたが(笑)

人間になった天使カシエルが(東側だった人間に例えているのだろう)

真面目に仕事をして、お金を稼いで、普通に生活する

それだけのことをするのが、いかに難しいかがシンプルに伝わります

だけどちょっとユーモラス

そして人間ってやっぱり温かい

 

天使カシエル(オットー・ザンダー)は新しいパートナーとなった

(女性の姿の)天使ラファエル(ナスターシャ・キンスキー)と

壁の消えたベルリンを見下ろしてます

天使ラファエルはこんなにも人間を愛し、近くに居るのに

人間たちは見る目も持たず、声を聞く耳をも持たなくなった

「時の見張り役に疲れてしまったわ」と嘆きます

ナスターシャ・キンスキーが(当時32歳)

相変わらず神秘的で美しく、見惚れてしまいます

女性を魅力的に撮れるというのは、名監督の証のひとつですね

天使カシエルはサーカス団のマリオン(ソルヴェーグ・ドマルタン)に恋し

地上に降りた元相棒のダミエル(ブルーノ・ガンツ)がピザ屋として働き

マリオンと結婚し娘のドーリアを授かり幸せに暮らす姿に

ときどき寄り添っています

カシエルは、旧東ベルリンに住む 11 歳の少女ライッサも観察します

運送会社を経営するアメリカ人のベイカー(ホルスト・ブッフホルツ)は

探偵のウィンター(リュディガー・フォーグラー)を雇い

ライッサと彼女の母親ハンナ・ベッカーを調査しています

カシエルとラファエルはブランデンブルク門の上に座り

ハンナ(とウィンター)が東ベルリン郊外の廃墟ビルへ向かうのを見ます

ライッサはアパートのバルコニーの手すりにもたれかかっていました

ライッサがバルコニーから落ちると

カシエルはとっさに彼女を抱きかかえて救ってしまいます

ベルリン・天使の詩」同様、天使が人間に関与することは禁忌

天使が見る世界はモノクロで、人間が見る世界はカラー

 

その瞬間カシエルは人間になっていました

(天使の翼が鉄の鎧となって身体から剥がれる)

古い予言を武器にするエミット・フレスティ(ウィレム・デフォー

またの名をスピーディ・ゴンザレスと出会うとギャンブルに巻き込まれ

有り金も鎧も失ってしまいます

ラファエルはフレスティに

カシエルが人間を理解する時間を与えてほしいと頼むと

フレスティは同意したものの約束はしませんでした

身分証明書を求められ警察に連行されたカシエルは

(自分の名前や住所を言うことができない)ダミエルのピザ屋を教えます

カシエルを迎えに来たダミエルは彼を家に連れて帰り

マリオンとドーリアも温かくカシエルを迎えてくれます

カシエルはまたもやフレスティに騙され、今度は酒を飲みアル中なり

(継父を殺そうとした少年から)奪った銃で強盗に入るも失敗

しかしベイカーを(偽装した)交通事故から救ったことで

イカーに偽造パスポートと出生証明書の費用を払わさせ

さらに秘書として雇ってもらいます

カシエルは一張羅のスーツを仕立て(センスはよろしくない)

ダミエルから借りていたものを返すためピザ屋にいくと

そこにもフレスティがいて

フレスティはダミエルに事業を立ち上げる資金を貸し付けていて

利益を巻き上げていたのです

さらにベイカーの裏の仕事が

違法ダビングしたポルノビデオの販売と、武器の密輸だと知り

カシエルはベイカーの手伝いを止めることにします

 

さらにハンナがベイカーの探していた妹だと知った

ウィンターがフレスティに殺され

カシエルはベイカーを善い人間にさせるため、説得をする決意をします

♪なぜ善良になれない♪なぜいっぱしの男になれない♪

(この歌詞がカシエルの座右の銘となる 笑)

ロック歌手(ルー・リード)がカシエルに言う

「君ならできる”you can do it”」

戦争で家族が離散してしまったベイカーは

ドイツ敗戦後アメリカに渡り成功しましたが

ベルリンに残した妹ハンナをずっと探していました

ハンナは元ドイツ軍の運転手

コンラート爺(ハインツ・リューマン)に育てられました

(サイレント時代からのドイツ映画の名優でこのとき御年91歳)

しかもカシエルが助けたのがハンナの娘ライッサ

そのことを知ったベイカーは改心し

カシエルは(個展でベルリンを訪れていた)ピーター・フォークの力を借り

ダミエルと「コロンボ」の撮影だと嘘をつき保管庫に侵入すると

マリオンとサーカス団が(海に捨てるため)武器を運びだし

カシエルはポルノビデオとダビング機に火をつけ破壊することに成功します

はしけ(推進器のない浅瀬用の船)に武器を積む

ダミエルとサーカス団の仲間たち

ハンナと再会するベイカ

これで善良な人間として生きられると、カシエルがひとり歩き出すと

バイクに乗ったフレスティがやって来て

イカーのライバルのギャング、パツケ一味に船を乗っ取られたうえ

ライッサを人質にとられた言います

フレスティに連れられ、ボートリフト(船舶昇降機)にやって来たカシエルは

バンジージャンプして、はしけからライッサを救うと

フレスティは、自分こそが「時間」であることを明らかにし

予言通り死期の近づいたカシエルに矢を射ちます

ラファエルの腕に抱かれながら、死んでしまうカシエル

しかし耳鳴りを聞いたダミエルだけは、カシエルが天使に戻ったことを知り

嬉しそうに笑うのでした

 

そしてこの映画の公開から30年

いまやあちこちの国境で、ベルリン壁よりもっと高く長い壁が設立されています

あのとき確かに世界中で、ベルリンの壁崩壊に歓喜を上げたはずなのに

 

 

【解説】映画.COMより

ベンダースのヒット作「ベルリン・天使の詩」の続編。天使カシエルは、親友ダミエルが去っていったベルリンの街で、壁崩壊後に様々な思いに揺れる人々の心を覗いて過ごしていた。ある日、ふとしたことから人間世界に降りることがかなったカシエルはダミエルを訪ねるが、自分にはそんな幸せな生活は想像できなかった。天使や堕天使たちに見守られながら、人間としては無力なカシエルの苦悩の日々が始まる……。

1993年製作/147分/ドイツ
原題:Faraway, So Close!
配給:ギャガ・コミュニケーションズ
劇場公開日:1994年5月