これが私たちの「アメリカン・グラフィティ」
卒業、友情、恋が、音楽とともにあった
青春の邂逅(かいこう)
原題は「SHOPLIFTERS OF THE WORLD 」(世界中の万引者よ)で
ザ・スミスのヒット曲のタイトル
今思うと「万引き犯たちよ、どんどん万引きしよう」という
まことに不謹慎な歌詞なのですが(笑)
若い時はこういう過激な表現に憧れたりするもの
1988年、ザ・スミスの突然の解散を知ったデンバーの18歳の少年が
ヘビーメタル専門のY108局をラジオジャックしDJに銃口を向け
ザ・スミスの曲を朝まで流させる、という実話に基づいたもの
そこに同じくザ・スミスの熱烈なファンで
軍隊入りする友人のため朝まで飲んで送別会をしようとする
仲良し4人組の物語が加わります
何もない田舎の若者の楽しみといえば
飲み会、ディスコ、ナンパ、深夜のドライブ
友だちの友だちは皆友だち
MTV、「プリティ・イン・ピンク」
貸しレコード、何度もダビングしたカセットテープ
万引きしている子もいました
私たちは「やめろ」と言うけれど
それは万引きが悪いことだと思って注意していたわけじゃない
もし捕まって、親にばれたり、退学にでもなったら本人が困ると思ったから
バンドを組んで化粧している男の子もいました
男子の間ではパンク・ロックが人気だった
ロングコートに、中折れ帽、ボディコン、肩パット
煙草を吸いながら路上で騒ぎ、安い酒を吐くまで飲む
私はいつ大人になったんだろう
気が付いたら大人になっていた
ディーン(エラー・コルトレーン)
レコードショップの店員
クレオに好意を寄せ彼女が万引きするのを見逃している
ザ・スミスの解散を知り、スミスファンのため
何か音楽的に歴史に残ることをしたいと思いつきラジオジャックする
クレオ(ヘレナ・ハワード)
スーパーのレジ係でザ・スミスの熱狂的なファン
万引き癖があり、仲間には大学生と嘘をついている
モッズ、パンクといったストリートカルチャーを意識しているが
それ以外はジャネット・ジャクソン風(笑)
シーラ(エレナ・カンプーリス)
クレオの親友でパトリックの彼女、欲求不満
マドンナを完コピしたファッションをしている
幼馴染のデヴィッドとなりゆきでセックスするが
相手がヘタなうえ早漏で、寝たことをひどく後悔する
ビリー(ニック・クラウス)
クレオの元彼氏で米軍陸軍に入隊することが決まっている
クレオのことが未だに好きだが、一方でパトリックにも好意を感じてる
パトリック(ジェームズ・ブロア)
シーラの彼氏、シーラのことは好きだがセックスが嫌いなセックスレス
ロンドンの大学に進学が決まっている
自他ともに可能性を疑っていたゲイに目覚めていく
ファッションはデビッド・ボウイ
フルメタルミッキー(ジョー・マンガニエロ)
ヘビメタ専門のラジオ局のDJ
ディーンに銃を突き付けられ、延々とザ・スミスを聞かされるハメになる
ニルヴァーナがロックを破壊したと信じてるあるある(笑)
(が、ジョニー・マーのギターに反応するところはさすが)
ディーンにジーン・シモンズ(キッスのベーシスト)のマグカップを割られ
ポール・スタンレイ(キッスのボーカル)のマグカップを出すというご愛敬
徐々に若者の共感を得ていく「アメリカン・グラフティ」の
ウルフマン・ジャックのような役割
セリア・オー(スージー・チュウ)
ビリーのブラックメタルな元カノ
ひとめで何の音楽が好きかわかりやすい(笑)
ブライアン(トナティウ)
パーティの仕切り屋、誰にでもやさしい
パトリックも思わず惹かれてしまうが、ことなく撃沈
デヴィッド(キャメロン・ムレーヌ)
シーラの元ベビーシッターで、シーラが幼い頃から憧れていた年上の男性
パーティで再会し、思いが再燃するものの理想と現実のギャップを知ることになる
「さらば青春の光」でも描かれている
往年のモッズ対、ロッカーズみたいなもの(笑)
または「横浜銀蝿」(暴走族)対、山下達郎(丘サーファー)のようなもの(笑)
ヘビメタ派とオルタナティブ・ロック派もお互い毛嫌いして認めないものの
ジャケットに付けているのが、ワッペンか缶バッジなだけで(笑)
案外蓋をあけたら共通点が多いのかも知れない
真に音楽を愛する者に、悪い人間はいないのだ(笑)
警察がやって来て「最後の曲」をディーンが何にするか迷ったとき
「俺だったら好きな女の子に捧げる曲にする」とアドバイスするミッキー
そしてそれはハートの矢となって、クレオの心に突き刺さります
最後はハッピーエンドでよかったけれど
ただ、ディーンとクレオだけでなく
ビリー、シーラ、パトリック、それぞれの朝も描いて欲しかった
作品的には「あの頃、ペニーレインと」や
「500日のサマー」までは至らなかったけど
ド・ストライクでリアルタイム世代なので(笑)
見事に80年代にタイムスリップできました
そして私はミッキーのような大人になれたのだろうか
でも今からでも遅くない
未完成な若者には理解と共感が必要なのだ
ロックと同じように
【解説】映画.COMより
1980年代後半のアメリカを舞台に、イギリスのロックバンド「ザ・スミス」の名曲の数々と貴重なインタビュー映像を全編に散りばめながら描いた青春音楽映画。「WE ARE X」などの音楽ドキュメンタリーで知られるスティーブン・キジャクが監督・脚本を手がけ、長年語り継がれてきた「ザ・スミスファンのラジオ局ジャック事件」に着想を得て描いた。1987年、コロラド州デンバー。スーパーで働くクレオは、大好きな「ザ・スミス」解散のニュースにショックを受け、レコードショップの店員ディーンに「この町の連中に一大事だと分からせたい」と訴える。ディーンはクレオをデートに誘うが、彼女は仲間たちとパーティへ出かけてしまう。1人になったディーンは地元のヘビメタ専門ラジオ局を訪れ、DJに銃を突きつけて「ザ・スミス」の曲を流すよう脅す。一方、クレオと3人の仲間たちはパーティでバカ騒ぎをしながらも、それぞれ悩みを抱えていた。ディーン役に「6才のボクが、大人になるまで。」のエラー・コルトレーン。