華麗なる激情(1965)



「いつ出来る」
「完成したら」


原題はTheAgony and the Ecstasy(苦悩と歓喜)
ベートーベンが主役みたいなタイトルですが()
システィーナ礼拝堂の天井画の制作過程を描く
ミケランジェロ伝記映画

まず序盤ミケランジェロの作品を紹介してくれるので
芸術の歴史初心者にもわかりやすいですし
時折ユーモアも交えた力作になっています
そして何より超巨大セットに驚きます



1508
時のローマ教皇ユリウス2世(レックス・ハリソン)は
イタリアから外国の影響を排除することを目指し
自ら鎧兜に身を固めて戦争を指揮していました

しかしそのことが、かえってイタリアの分裂を深めることになりま
しかも当時は宗教改革が始まる前で
人々が教会に対する不信感が頂点に達していました



そこでユリウス2世は人々の信頼を取り戻すため多くの芸術家を雇い
ブラマンテ(ハリー・アンドリュース)にはサン・ピエトロ大聖堂の建築を
ミケランジェロ(ヘストン)には見栄えのしない
フレスコ画を描くことを命じたのです



気が乗らないミケランジェロは仕方なく製作に乗り出すものの
ブラマンテと対立し仕事から逃げてしまいます
ブラマンテは後任ラファエロ(トーマス・ミリアン)を推薦しますが
ユリウス2世はミケランジェロ諦めることができません

一方のミケランジェロはカララの石切り場大理石を切り出していた時
捜索隊から逃れた山の頂で突然インスピレーションが閃きます

それは天井画を旧約聖書創世記」にすることでした
ミケランジェロはローマに戻りそれからは
人が変わったように作業に没頭するようになるのです



偉大な芸術が生まれるまでには、宗教信仰、戦争
資金や期間の問題、後援者(パトロン)との意見の対立
いろいろな問題があるもの

その中で、ミケランジェロに壁画を描かせるという発想は
まさにユリウス2世の炯眼としかいいようがありません
「後世に残るのは私の武勲ではなくミケランジェロに絵を描かせた功績だ」
と自らが言うように
ユリウス2世こそミケランジェロの最もよき理解者なのです



かたやミケランジェロのほうは掘り下げが足りない気がしました
芸術に対する異常なまでの執着心や
信仰とは、神とは、人間とは何かという苦悩と
それをどう描き出すという産みの苦しさがイマイチ伝わらない

天井にへばりついて画を描く姿はなかなかのものでしたが
ヘストンには芸術家より、やっぱり大きな刀を振り回すような
強くて逞しい男の方が似合います(笑)



システィーナ礼拝堂の天井画は1980年から14年かけて修復されました
現代の技術をもっても14年もかかるものを
4年間で、それもほとんどひとりで描いたというミケランジェロ
もしかして彼は神様からの使いだったのかも知れません