浮草(1959)

 
素晴らしいですね。
映画を超えています。
これはもう芸術の世界でしょう。
 
すべてのショットが完璧。
美しく落ち着いた色彩の映像はうっとりするくらい
見ていて心地が良い。
 
ストリーのほうは男と女のぶつかり合いを描いていて
小津監督にしては異色の作品ということです。
 
あまり客もこないような田舎町にやってきた旅芸人の一座。
それは12年ぶりに座長の駒十郎が昔の女お芳と
その女に産ませた息子の清に逢うためでした。
清が立派な青年に育っていたのが何より嬉しい駒十郎。
 
小津作品では強烈なオバサン役が多い杉村春子さんですが。笑
座長の妾であるお芳役では、抑えた演技をしていて
男性には頼らない、そんな自立した強い女性像を
うまく表現していたと思います、さすがです。
 
一方の一座のおかみであるすみ子はそんなお芳に嫉妬します
自分のほうが若くて色っぽくていい女
なのに旦那は年増の女の家にせっせと通っている。
しかもお堅い仕事をしている立派な息子までいる。
 
こんな醜女に完全な敗北・・
悔しい、悔しい、悔しい。
憎い、憎い、憎い。
なんとか痛い目にあわせてやりたい・・・
 
京マチ子さんも女性の嫉妬心をうまく演じていました。
殿方のみなさん、もし浮気をしたら
奥さんにこんなふうに乗り込んでこられますよ?笑
 
そんなふたりの女の間を行ったり来たりする
もしかしたらもっと大勢の女性と簡単に関係をもってきた
優柔不断な男に二代目中村鴈治郎さん。
さすがの貫録でございます。
 
一座のひとりひとりまでが個性的で
みなさんが印象に残る素晴らしい演技です。
床屋のお母さんなんて一瞬しか出番がないのにインパクト強!笑
 
お芳と清と三人で真面目に暮らそうと決心する駒十郎。
しかし結局すみ子とふたり汽車に乗ります。
 
煙草に火をつける
日本酒を飲む
何もかもが画になる。
何もかもが美しい・・・
 
男は誰しもが「浮草」なのでしょう。
 
撮影はさすがの宮川和夫さん。
本当に素晴らしい映像に感激です。
お気に入りで。
 

 
【あらすじ】ウィキペディアより
旅回りの駒十郎一座の乗った船が港に着いた。駒十郎は一膳飯屋にお芳を訪ね、その昔二人がもうけた清も今では郵便局に勤めていると知って安心する。清には駒十郎はお芳の兄ということになっていた。駒十郎の連れ合いのすみ子は、清のことを不審に思い加代に清を誘惑してくれるよう頼む。加代と清は恋仲になり、それを知った駒十郎は加代とすみ子を激しく叱りつける。客入りの悪くなった一座は解散することになり、駒十郎と清は加代を巡って対立する。お芳は清に駒十郎が実の父親だと打ち明けるが、清は許さず、駒十郎は気が抜けたように立ち去る。駅に行くとすみ子が待っていて、二人は車中の人となるのだった。