線は、僕を描く(2022)

「真っ白な紙にある無限の可能性を 僕はそこに線を描く」
「そして 線は(僕を描く)」

原作は水墨画家でもある砥上裕將(とがみ ひろまさ)の

2019年に発表された同名小説で小説家デビュー作

映画化に当たって内容にはかなり手を加えているようですが

見事に起承転結、なにより映像的センスが抜群にいい

 

趣のある和モダンなインテリアに小物が美しいですし

特にヒロインを勤めた清原果耶さんが素敵

和装を含めた衣装がとにかくお洒落なうえ

わざとらしさを全く感じないストイックさ

決して安易な恋愛には発展しない、ありそうでなかった映画

法学部の大学生、青山霜介(あおやま そうすけ/横浜流星)は

神社の境内で行われる美術イベント設営のアルバイトで

一枚の椿の水墨画に魅せられ、思わず涙を流してしまいます

作者の名前は「千瑛 」

 

現場を仕切っている西濱湖峰(にしはま こほう/江口洋介) から

弁当を食べていくよう声をかけられ休憩場所に向かうと

初老の紳士がスタッフ用に用意された弁当でなく

来賓用のステーキ弁当を食べようと誘います

 

そこで紳士が展示している水墨画の感想を求めると

霜介は「千瑛 」という作家の画について「黒一色なのに 色を感じる」

「真っ赤です 近寄りがたい美女です」 と答えます

紳士の正体は水墨画の巨匠、篠田湖山しのだ こざん/三浦友和)でした

湖山イベントで大きな水墨画を描き上げると

舞台下にる霜介に「私の弟子にならないか」と声をかけま

 

西濱の車で湖山の家にやってきた霜介は

(書の制作中に配慮して音を消すという細やかさよ)

湖山の勧めで弟子がおおげさならば、生徒でという提案で

水墨画を教わることにします

湖山の書いた手本にたちまち魅了されてしまう霜介

その日の練習を終え、筆を洗おうと水場を探していると

バラの画を描いている女性を見つけます

(ここでも制作に配慮し物音を立てない)

霜介に気付いた女性は「湖山の新しい弟子ね」とそっけない態度

彼女こそ「千瑛 」であり、湖山の孫娘

水墨画界で若く美しき天才絵師と称えられている篠田千瑛(清原果耶)でした

 

霜介は大学で同じゼミの、親友古前巧(こまえたくみ/細田佳央太) と

美術界隈に詳しい川岸美嘉(かわぎしみか/河合優実) にそのことを話すと

ふたりは水墨画界の美人でカリスマの千瑛に会いたい!と

水墨画サークルを立ち上げることを思いつきます

とはいえ、現実は甘くない

霜介が次に訪問したときには、何度も墨をすり直させられるだけ

「墨の粒子が違う」と説明されても、何が何だかわからなく悩む霜介に

千瑛は「湖山先生は人に教えることが苦手だから」

墨色の濃さをコントロールすることを教えます

 

そこに西濱が食事が出来たと、4人食卓を囲むことになり

霜介は大学のサークル水墨画の講師をしてもらえないか

千瑛に頼みます

湖山「いい話じゃないか」と言い、しぶしぶ承諾する千瑛

サークルには、古前と川岸によって多くの学生が集まり

千瑛はまず、水墨画には「四君子」という

「 蘭、竹、梅、菊」の4つの基本の画題があることを解説し

まずは初心者でも濃淡の描きやすい、竹から練習することにします

 

どんなに短くても、わかりやすく丁寧

水墨画を全く知らない人でもとっつきやすい

やってみようかという気持ちにさえなります(笑)

サークル仲間と打ち上げに参加した千瑛

そこで霜介が、誤って千瑛のウーロン・ハイ(お酒)を飲んで倒れてしまい

古前と川岸とともに霜介のアパートまで送って行くことになります

千瑛が練習した紙で埋め尽くされた部屋を見回していると

(ここは上質な紙でなく新聞紙とかのほうがよかったと思う)

いきなり「霜介を頼みます」と頭を下げる古前に

なんのことか分からず戸惑う千瑛

 

その夜、霜介は実家の庭に咲いている椿の花の夢を見て

目覚めると泣いていました

霜介は西濱の(料理などの)手伝いをしながら

千瑛からの指導も熱心に受け

湖山から「君の線じゃない」とダメ出しされてもめげることなく

湖山は霜介に落款印(らっかいん)を贈ることにします

 

ついに霜介の菊の画が、フランスの大臣を招いた

揮毫会(きごうかい=書のデモンストレーション)の展覧会出品され

それを見た女性が(散々けなしたあと)「けど、とてもやさしい」と称えます

彼女こそ四季賞の審査員長藤堂翠山(とうどう すいざん/富田靖子でした

ところが揮毫会が始まる時間になっても湖山の姿はありません

会場はざわつき、主催者は大慌て、フランス大臣がいらつく中

舞台に現れたのは湖山でなく西濱でした

 

西濱は湖山の付き人ではなく(笑)

水墨画界のナンバー2だったのです

西濱のパフォーマンスに満足し、喜ぶ大臣と翠山

同時に西濱から湖山倒れ病院に運ばれてたと知った千瑛と霜介は

病院に向かい、待合室で処置を待つことをします

やがて眠ってしまう

 

ふたりの目が覚め、慌てて病室へ向かうと

湖山は1週間ほどで退院できるらしい、笑い

霜介には(菊の画の)「花の向こうに何が見える?本質に目を向けなさい」

千瑛には「こんなところにいていいのか」と厳しく言い離します

 

病室を飛び出したうえ、追いかけてきた霜介にまで

「ついてこないで」と拒絶してしまう千瑛

千瑛のことにも、湖山の言葉にも悩み

画を描けなくなった日々を過ご霜介

西濱は牧場で牛乳を、農家で野菜を、養鶏場で卵を、漁港で魚を

食材の調達につき合わせることにします

 

そして生きている姿を見ることは

食べるときもその姿を思い出せる、ことだといいます

湖山退院祝いのごちそうを用意した夜も、千瑛は現れませんでした

湖山が左手で食べているのを見た霜介

湖山は制作が遅れている襖絵の)手伝ってほしいと頼み

 

霜介が「どうしてあの時、声をかけたのか」と尋ねると

真っ白い紙がそこにあったから 描いてみたくなったとだけ

微笑むのでした

大学では、進路も何も決まっていない霜介に

スーツ姿で就活中の古前が「そろそろ前に進むべきだ」と言い放ちます

 

アパートに戻ると、千瑛が階段に座り込んでいました

椿の絵に心を動かされた、と言う霜介

千瑛はあのは楽しんで描いた最後の絵

あのときの気持ちが思い出せないと弱音を吐きます

霜介は湖山の正式な弟子になろうと思っていることを打ち明け

実家に帰り自分と向き合うつもりだと話します

一緒に行っていい?

そして高速バスの中で「何があったの?」と聞く千瑛に、霜介は

 

大学生になひとり暮らしを始める日、両親とケンカしたこと

友だちとカラオケの最中、妹から電話がかかってきたけど無視したこと

あとで実家が震災に巻き込まれたことを知ったこと

 

妹からの最後のメッセージ

「・・・お兄ちゃん 助けて」

妹が生まれたとき、椿の花庭に植えた

妹の名前は椿

 

霜介の家のあった場所にやってきたふたり

千瑛は「そうすけ」「つばき」と名前の書いてある柱を見つけます

でも何も言いません

ただ小さな椿の木のそばに落ちていた、枯れた花を霜介に渡

「描いてみない?あなたの思い出の花」と尋ねるのでした

 

湖山の家に帰ると、玄関に立つふたりを

何もなかったように「おかえり」と迎える湖山

霜介が湖山に「もっと知りたいです 水墨画のこと」と言うと

「私も」と千瑛が続きます

千瑛はついに目標にしていた四季賞を授賞

椿を描いた霜介新人賞を授賞しま

 

しかし霜介は授賞式には参加せず、水墨画サークルが企画したイベント

初の揮毫会を行っていました

湖山は左手で襖絵を完成させます

それぞれの、スタートライン

 

「ついに見つけたな 自分の線を」

約100分という見やすさに

エンドクレジットのアニメーションまで凝っている

 

私が(近年の邦画で)ここまで褒めるのは、珍しいこと(笑)

こういう映画こそ、国際映画祭に出品してほしいなと思いました

 

 

【解説】映画.COMより

水墨画の世界を題材にした砥上裕將の青春小説「線は、僕を描く」を、横浜流星の主演、「ちはやふる」の小泉徳宏監督のメガホンで映画化。
大学生の青山霜介はアルバイト先の絵画展設営現場で水墨画と運命的な出会いを果たす。白と黒のみで表現された水墨画は霜介の前に色鮮やかに広がり、家族を不慮の事故で失ったことで深い喪失感を抱えていた彼の世界は一変する。巨匠・篠田湖山に声を掛けられて水墨画を学ぶことになった霜介は、初めての世界に戸惑いながらも魅了されていく。
篠田湖山の孫で霜介にライバル心を抱く篠田千瑛を「護られなかった者たちへ」の清原果耶、霜介の親友・古前を「町田くんの世界」の細田佳央太、霜介に触発されて古前と共に水墨画サークルを立ち上げる川岸を「サマーフィルムにのって」の河合優実が演じ、三浦友和江口洋介富田靖子らが脇を固める。

2022年製作/106分/日本
配給:東宝
劇場公開日:2022年10月21日