フルメタル・ジャケット(1987)

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FULL METAL JACKET(完全被甲弾頭)とは

拳銃や小銃弾の一種で、弾体の鉛をなどの硬い金属

ほぼ完全に覆った弾丸のこと

 

最初に見たときは、私もうら若き乙女だったので(笑)

あまりにお下品なセリフに辟易しましたが

いま改めて見るとやはりキューブリックは天才ですね

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前半は、鬼軍曹のハートマンによる

「ほほえみデブ」への「かわいがり」が物語の中心になります

 

確かに次々やってくる訓練生の長い名前をいちいち覚えるより

個性や特徴をあだ名にしたほうがわかりやすいし効果的

結果、そのことが後半で生きてきて

現地の戦場に向かった兵士たちもあだ名で呼び合い

下品なジョークと下ネタのオンパレード

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いつ弾や爆弾が飛んでくるか判らない状況で

難しくて遠回りなことに頭を使う暇はない

食って、クソして、女とヤることだけが楽しみ

だから命がけの戦闘シーンでも、どこかのどか感じてしまう

 

問題の前半は「ほほえみデブ」への訓練というより、虐めですね

「ほほえみデブ」は、社会不適合か発達障害タイプ

でもそのことを自分では気付いていない

現在では危険な仕事はさせないことになっていますが

この時代のアメリカは男は戦場に行ってなんぼのもの

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なにをやっても人並みに出来ない「ほほえみ」の世話を

軍曹は「ジョーカー(おふざけ野郎)」に頼みます

(そこらへんはマトモな考えを持っている)

そして皆と同じスピードではついていけないけれど

「ジョーカー」の丁寧な教えで、徐々に訓練をこなすようになります

特に射撃の腕前は相当なもので

軍曹が与えられた銃(M14)を「恋人だと思え」という教えの通り

「ほほえみ」は M14を愛し、やがて話しかけるようになります

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卒業前夜、「ほほえみ」のせいで

共同責任を負わされてきた訓練生たちは「ほほえみ」をリンチ

ジョーカーでさえ最後に「ほほえみ」を殴ります

 

こういう無力でおとなしい人間ほどキレたら怖い

気弱でやさしかった青年の心が、今や硬い金属で覆われ何も感じない

フルメタル・ジャケット

トイレに立てこもりM14を装填した「ほほえみ」は

止めに入った軍曹を射殺し、自らの命も絶つのです

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時は過ぎ、ヴェトナム戦線も終盤に近づいた19681

ダナン基地で報道隊員をしていたジョーカーはのんびり生活していましたが

北ヴェトナム軍の激烈なテト(旧正月)攻撃が始まったという知らせを受け

カメラマンのラフターマンと最前線のフエ市へ向かいます

 

そこではタッチダウン軍曹の指揮のもと

自称、殺人機械のアニマル・マザー(好い)

黒人のエイトボール、クレイジー・アールという海兵隊員が集まり

訓練校で一緒だったカウボーイとも再会します

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戦闘が激しくなってもやはり緊迫感はあまりなく

戦車の出動を要請しても、ちょっと出払ってるけど都合つけてみる、とか

タクシー会社かよ(笑)

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そして偵察中、廃ビルにひそむ凄腕の狙撃兵に

エイトボールとドクが撃たれ、カウボーイが殺されてしまう

アニマル・マザーとジョーカーたちは廃ビルに侵入

狙撃兵を見つけると、それはまだ年端もいかない

たったひとりの少女でした

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瀕死の少女は「私を 撃って」と懇願する

ジョーカーは震える手でとどめを刺したあと

ミッキーマウス・マーチを唱和(アメリカの産軍共同体への皮肉)しながら

前進するのでした

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後半はマッチョでアタマ空っぽ(褒めています)のアニマル・マザーと

少女兵以外で、特筆すべきものはあまりないのですが(笑)

市街戦、というのがベトナム戦争ものでは珍しい

そして悲惨を笑う、ギリギリコメディ(笑)と

選曲のセンスの良さ

エンド・クレジットにストーンズを持ってくるとは!

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それでは「Paint It Black 」でお別れしましょう

黒くぬれ!1966

作詞作曲:ジャガー/リチャーズ

(なんかの特集みたいな終わりかた 笑)

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I see a red door

and I want it painted black

No colors anymore

I want them to turn black

I see the girls walk by

dressed in their summer clothes

I have to turn my head

until my darkness goes

 

赤いドアを見ると

黒く塗りつぶしてやりたくなる

色なんていらない

全部黒くしたいんだ

夏服を着た女の子達が

そばを通りすぎていった

俺は見ないように反対を向いた

俺の中の闇が通りすぎるまで

 

I see a line of cars

and they're all painted black

With flowers and my love

both never to come back

I see people turn their heads

and quickly look away

Like a newborn baby

it just happens ev'ryday

 

車が列になっていた

すべて黒い車だった

花束と俺の恋人

両方とももう戻らない

通行人は何かと思って見てたけど

すぐにあっちを向いてしまう

赤ん坊が生まれるのと同じ

毎日どこかで起こってること

 

I look inside myself

and see my heart is black

I see my red door

and it has been painted black

Maybe then I'll fade away

and not have to face the facts

It's not easy facing up

when your whole world is black

 

自分の心の中を覗いたら

俺の心も黒だった

赤いドアを見かけたけど

それも黒く塗りつぶされていた

俺がいなくなれば

事実に目を向けなくてもいいかな

俺の世界がすべて真っ黒になったのを

見つめるのは辛すぎる

 

No more will my green sea

go turn a deeper blue

I could not forsee

this thing happening to you

If I look hard enough

into the setting sun

My love will laugh with me

before the morning comes

 

俺の緑色の海が 深い青色になることは

もうないだろう

こんなことお前にも降りかかるなんて

俺には想像できなかった

もし沈む夕陽をじっと見つめてたら

となりで笑いかけてだけくれないか

朝が来るまでの間でいいから

 

I wanna see it painted black

painted black

Black as night

black as coal

I wanna see the sun

blotted out from the sky

I wanna see it painted

painted, painted

painted black

 

全部黒くしたい

塗りつぶしたい

夜のようにまっ黒に

炭のようにまっ黒に

太陽なんか空から

消えてなくなればいい

塗っちまえ塗っちまえ

みんな真っ黒に

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【解説】KININOTEより

ヴェトナム戦争を舞台に、新兵の厳しい訓練と彼らが赴いた戦場での体験を描く。「シャイニング」以来7年ぶりのスタンリー・キューブリック製作・監督作品。エグゼクティヴ・プロデューサーはヤン・ハーラン、共同製作にフィリップ・ホブス。グスタフ・ハスフォードの原作をハスフォード自らとキューブリックおよびマイケル・ハーが脚色。撮影はダグラス・ミルサム、プロダクション・デザイナーはアントン・ファースト、音楽はアビゲイル・ミード、編集はマーティン・ハンター、録音はエドワード・タイズが担当。出演は「ビジョン・クエスト 青春の賭け」のマシュー・モディン、「地獄の黙示録」のリー・アーメイ、「俺達の明日」のアダム・ボールドウィンヴィンセント・ドノフリオほか。