「FULL METAL JACKET(完全被甲弾頭)とは
拳銃や小銃弾の一種で、弾体の鉛を銅などの硬い金属で
ほぼ完全に覆った弾丸のこと
最初に見たときは、私もうら若き乙女だったので(笑)
あまりにお下品なセリフに辟易しましたが
いま改めて見るとやはりキューブリックは天才ですね
前半は、鬼軍曹のハートマンによる
「ほほえみデブ」への「かわいがり」が物語の中心になります
確かに次々やってくる訓練生の長い名前をいちいち覚えるより
個性や特徴をあだ名にしたほうがわかりやすいし効果的
結果、そのことが後半で生きてきて
現地の戦場に向かった兵士たちもあだ名で呼び合い
下品なジョークと下ネタのオンパレード
いつ弾や爆弾が飛んでくるか判らない状況で
難しくて遠回りなことに頭を使う暇はない
食って、クソして、女とヤることだけが楽しみ
だから命がけの戦闘シーンでも、どこかのどか感じてしまう
問題の前半は「ほほえみデブ」への訓練というより、虐めですね
「ほほえみデブ」は、社会不適合か発達障害タイプ
でもそのことを自分では気付いていない
現在では危険な仕事はさせないことになっていますが
この時代のアメリカは男は戦場に行ってなんぼのもの
なにをやっても人並みに出来ない「ほほえみ」の世話を
軍曹は「ジョーカー(おふざけ野郎)」に頼みます
(そこらへんはマトモな考えを持っている)
そして皆と同じスピードではついていけないけれど
「ジョーカー」の丁寧な教えで、徐々に訓練をこなすようになります
特に射撃の腕前は相当なもので
軍曹が与えられた銃(M14)を「恋人だと思え」という教えの通り
「ほほえみ」は M14を愛し、やがて話しかけるようになります
卒業前夜、「ほほえみ」のせいで
共同責任を負わされてきた訓練生たちは「ほほえみ」をリンチ
ジョーカーでさえ最後に「ほほえみ」を殴ります
こういう無力でおとなしい人間ほどキレたら怖い
気弱でやさしかった青年の心が、今や硬い金属で覆われ何も感じない
トイレに立てこもりM14を装填した「ほほえみ」は
止めに入った軍曹を射殺し、自らの命も絶つのです
時は過ぎ、ヴェトナム戦線も終盤に近づいた1968年1月
ダナン基地で報道隊員をしていたジョーカーはのんびり生活していましたが
北ヴェトナム軍の激烈なテト(旧正月)攻撃が始まったという知らせを受け
カメラマンのラフターマンと最前線のフエ市へ向かいます
そこではタッチダウン軍曹の指揮のもと
自称、殺人機械のアニマル・マザー(好い)
黒人のエイトボール、クレイジー・アールという海兵隊員が集まり
訓練校で一緒だったカウボーイとも再会します
戦闘が激しくなってもやはり緊迫感はあまりなく
戦車の出動を要請しても、ちょっと出払ってるけど都合つけてみる、とか
タクシー会社かよ(笑)
そして偵察中、廃ビルにひそむ凄腕の狙撃兵に
エイトボールとドクが撃たれ、カウボーイが殺されてしまう
アニマル・マザーとジョーカーたちは廃ビルに侵入
狙撃兵を見つけると、それはまだ年端もいかない
たったひとりの少女でした
瀕死の少女は「私を 撃って」と懇願する
ジョーカーは震える手でとどめを刺したあと
ミッキーマウス・マーチを唱和(アメリカの産軍共同体への皮肉)しながら
前進するのでした
後半はマッチョでアタマ空っぽ(褒めています)のアニマル・マザーと
少女兵以外で、特筆すべきものはあまりないのですが(笑)
市街戦、というのがベトナム戦争ものでは珍しい
そして悲惨を笑う、ギリギリコメディ(笑)と
選曲のセンスの良さ
エンド・クレジットにストーンズを持ってくるとは!
それでは「Paint It Black 」でお別れしましょう
黒くぬれ!(1966)
作詞作曲:ジャガー/リチャーズ
(なんかの特集みたいな終わりかた 笑)
I see a red door
and I want it painted black
No colors anymore
I want them to turn black
I see the girls walk by
dressed in their summer clothes
I have to turn my head
until my darkness goes
赤いドアを見ると
黒く塗りつぶしてやりたくなる
色なんていらない
全部黒くしたいんだ
夏服を着た女の子達が
そばを通りすぎていった
俺は見ないように反対を向いた
俺の中の闇が通りすぎるまで
I see a line of cars
and they're all painted black
With flowers and my love
both never to come back
I see people turn their heads
and quickly look away
Like a newborn baby
it just happens ev'ryday
車が列になっていた
すべて黒い車だった
花束と俺の恋人
両方とももう戻らない
通行人は何かと思って見てたけど
すぐにあっちを向いてしまう
赤ん坊が生まれるのと同じ
毎日どこかで起こってること
I look inside myself
and see my heart is black
I see my red door
and it has been painted black
Maybe then I'll fade away
and not have to face the facts
It's not easy facing up
when your whole world is black
自分の心の中を覗いたら
俺の心も黒だった
赤いドアを見かけたけど
それも黒く塗りつぶされていた
俺がいなくなれば
事実に目を向けなくてもいいかな
俺の世界がすべて真っ黒になったのを
見つめるのは辛すぎる
No more will my green sea
go turn a deeper blue
I could not forsee
this thing happening to you
If I look hard enough
into the setting sun
My love will laugh with me
before the morning comes
俺の緑色の海が 深い青色になることは
もうないだろう
こんなことがお前にも降りかかるなんて
俺には想像できなかった
もし沈む夕陽をじっと見つめてたら
となりで笑いかけてだけくれないか
朝が来るまでの間でいいから
I wanna see it painted black
painted black
Black as night
black as coal
I wanna see the sun
blotted out from the sky
I wanna see it painted
painted, painted
painted black
全部黒くしたい
塗りつぶしたい
夜のようにまっ黒に
炭のようにまっ黒に
太陽なんか空から
消えてなくなればいい
塗っちまえ、塗っちまえ
みんな真っ黒に
【解説】KININOTEより
ヴェトナム戦争を舞台に、新兵の厳しい訓練と彼らが赴いた戦場での体験を描く。「シャイニング」以来7年ぶりのスタンリー・キューブリック製作・監督作品。エグゼクティヴ・プロデューサーはヤン・ハーラン、共同製作にフィリップ・ホブス。グスタフ・ハスフォードの原作をハスフォード自らとキューブリックおよびマイケル・ハーが脚色。撮影はダグラス・ミルサム、プロダクション・デザイナーはアントン・ファースト、音楽はアビゲイル・ミード、編集はマーティン・ハンター、録音はエドワード・タイズが担当。出演は「ビジョン・クエスト 青春の賭け」のマシュー・モディン、「地獄の黙示録」のリー・アーメイ、「俺達の明日」のアダム・ボールドウィン、ヴィンセント・ドノフリオほか。