原題も「The Yellow Rolls-Royce」
これは隠れた傑作でした
恋して、お洒落で、楽しくて、だけどシニカル
心躍るテーマ曲が、ここぞというときに盛り上げてくれる
1台の黄色いロールスロイスが持ち主の手から手に渡る
オムニバス形式で紡ぐ3つの時代の3つの物語
【第1話】
1930年代初期のロンドン
国務大臣フリントン侯爵(レックス・ハリソン)は
結婚10年目の記念日のお祝いに黄色いロールス・ロイスを
愛する妻のエロイズ(ジャンヌ・モロー)に贈ります
しかし妻は侯爵が最も信頼する部下
フェーン(エドマンド・パードム)と不倫していました
しかし(浮気に気づいた)フェーンの妻の要望で、彼の転勤は決定しており
アスコット競馬で男爵の馬のレースの最中、黄色いロールス・ロイスの中で
最後のお別れをしたいと約束するふたり
競馬場には、もうひとりフェーンに気があるご婦人がいて侯爵に
駐車場で逢引きすることは「たいしたことじゃない」と耳打ちします
競馬どころではなくなった侯爵は駐車場に向かい
カーテンの閉まった黄色いロールス・ロイスの後部ドアを開ける
そこには抱き合うふたりがいました
侯爵は自分の馬が優勝しても、ショックで歓びどころではありません
開き直った妻は強い、周りに愛想笑いまでしています
相手がジャンヌ・モローだから余計図太く見える(笑)
金持ちのご婦人が若い男のパトロンになるのは、よくある話なのか
立場上離婚はできないと話し合う侯爵とエロイズ
エロイズはフェーンと別れる決意をします
侯爵は黄色いロールスロイスを「忌まわしい」と返品してしまいます
恋と結婚は別物、私だって浮気だけで離婚しません(笑)
ただ元の夫婦の関係を取り戻すのは困難でしょう
【第2話】
それから数年後のイタリア
アル・カポネの子分パオロ(ジョージ・C・スコット)は
右腕のジョーイ(アート・カーニー)と
情婦のメイ(シャーリー・マクレーン)をつれて旅行中
不機嫌なメイが気にいった黄色いロールスロイスを購入して
ピサの斜塔や、大聖堂といった観光地を巡ります
そこでもメイは「柱ばかり」と不機嫌
そこに観光客相手のカメラマンで、口が巧くお調子者の美男子
ステファーノ(アラン・ドロン)が現れ
パオロは黄色いロールスロイスで彼をローマまで送ることにします
とにかくこの男、女を口説くのが天性(笑)
不機嫌なメイもやがて彼を意識するようになります
面白くないパオロはローマに着く前にステファーノを車から降ろしてしまいます
その頃マイアミでマフィア同士の紛争が勃発したという電報が届き
パオロは縄張りを守るため、メイを置いて一時アメリカに帰国します
メイは早速ステファーノのいる町に向かうようジョーイに言いつけ
青の洞窟に行ったとき、ステファーノと恋に落ち
黄色いロールス・ロイスの中でふたりきり、情事を繰り返すようになるのです
「博士の異常な愛情」(1964)でキューブリックから
高い演技力を評価されたという ジョージ・C・スコット
同じ年の公開ですが、ここでは本物のイタリア系のマフィアにしか見えない
シャーリー・マクレーンはめっちゃ、めっちゃ、めちゃくちゃキュート
シャーリー・マクレーン史上最高に可愛い
ドロンさまはハリウッドデビュー作
かなり陽気で真の女ったらしは、どんな女性にもその時は本気
だからモテる(水着姿はダサかったけど 笑)
でもいちばんよかったのは 運転手のアート・カーニー
とにかく頭がいいし、人間ができているし、口が堅い
信頼できる男とはこういう男のこと
パオロは凄腕の殺し屋
ジョーイはメイに、ステファーノを愛しているのなら
彼のために別れるべきだと教えます
ステファーノに観光案内の礼を言い、写真の代金を渡すメイ
しかしステファーノは「売り物ではない」とお金を返し
メイが去ったあとメイの写真を破り捨てるのです
いくら好きでもマフィアの女と付き合ったらどうなるか
彼もわかっているはず
そしてジョーイとメイは何事もなかったように
パオロと再会し旅を続けるのです
【第3話】
1941年、イタリア
アメリカのミレット夫人(イングリッド・バーグマン)は
ユーゴスラビア皇后に国境を越えて会いにいくため
黄色いロールス・ロイスを手に入れます
お側付きの女性があちこちで戦争が始まって
危険だと言っても聞く耳をもちません
その話を傍で聞いていたダビッチ(オマー・シャリフ)と名乗る男が
自分も新しい王に会うためにユーゴスラビアに行く用があるので
同乗させてくれと願いでるのです
しかし国境付近になって彼はパスポートを投げ捨て
どうにか国境警備隊を切り抜け、国境を渡ってほしいと
トランクに身を隠します
このミレット夫人の愛犬が馬鹿でねえ(笑)
危機を助けるんじゃなくて、危機を誘ってしまう
国境でダビッチが隠れているトランクに向かって吠える、吠える
国境警備隊がトランクを開けろと言った瞬間
空襲がはじまり、運転手は逃げてしまいましたが難を逃れます
ダビッチは国外追放された対ドイツのパルチザンでした
ドイツの侵略の危機にさらされている祖国を救うため戻ってきたのです
ミレット夫人はダビッチを村で降ろし、ホテルに向かいます
ところがディナーの最中にまたもや空襲されてしまいます
このイングリッド・バーグマン、すごくいい
大げさな演技は相変わらずだけど(笑)
吠えてばかりいる愛犬を放り投げたり
爆撃中でも逃げもせず、シャンパンを開け食事をするという大雑把さ
被害の大きさを知り、レストランのテーブルクロスをひっぱがし
負傷者の包帯にして、豪華なドレス姿で人命救助
ダビッチの同志を集めるため、何度も黄色いロールスロイスを走らせる
タフで男勝りで、私が見たバーグマンの主演作の中で一番カッコイイ
アンソニー・アスキス作品はお初なんですけど(笑)
俳優の長所を最大限に引き出せる監督だと感じます
大物俳優たちが、これだけ活き活きと光り輝いて
楽しそうに演じる姿はそう見れるものではありません
ダビッチはミレット夫人に感謝しつつ、同時に愛も芽生えます
で、ここまできたらもうおわかり(笑)
やっぱり黄色いロールスロイスの中で結ばれます
ミレット夫人はナチの非道を訴えるため
ダビッチと別れ、アメリカに帰国する決意をします
船に積まれる黄色いロールスロイスは傷だらけで埃だらけでしたが
ミレット夫人にとっては、何よりの誇りになったことでしょう
好きな人との別れは辛いけど、次の新たな人生がある
だから前を向いて胸を張って進もう
そんな気持ちにさせてくれる
ドロンさまの出番は多くないものの(笑)
こんなフルコースを楽しめる映画はそうありません
お薦めです
【解説】KINENOTEより
「予期せぬ出来事」のコンビ、テレンス・ラティガンの脚本を、アンソニー・アスキスが監督したオムニバス・ドラマ。撮影は「サーカスの世界」のジャック・ヒルドヤード、音楽は「第7の暁」のリズ・オルトラーニが担当した。出演は「マイ・フェア・レディ」のレックス・ハリソン、「大列車作戦」のジャンヌ・モロー、「何という行き方!」のシャーリー・マクレーン、「さすらいの狼」のアラン・ドロン、「訪れ」のイングリッド・バーグマン、「日曜日には鼠を殺せ」のオマー・シャリフほか。製作はアナトール・デ・グランウォルド