ラスト・ショー(1971)





今でもあの女がここへ来ればおれはノボせる
 バカと思うだろ
 でもないのさ
 あんな女にノボせるのが一番利口なんだ
 一番バカなのは何もしないで老いぼれる事さ」



ピーター・ボグダノビッチ監督のノスタルジックで心に染み入る秀作

次のペーパー・ムーン」(1973)の温かみのあるモノクロと少し違う

冷たさ寂しさ感じる色合いが印象的です


時代の先端ではない、後方に停滞しているもどかしさ

度重なる「喪失感」とあやふやで不確かな 「救い」

流れているのはカントリーミュージック






テキサスの裏ぶれた小さな

スポーツも恋愛もうだつの上がらない

高校生ソニー(ティモシー・ボトムズ

精神薄弱で口のきけないビリー(サム・ボトムズ弟のように可愛が

親友のデュアン(ジェフ・ブリッジス)とその恋人で

町一番の美人であるジェイシー(シビル・シェパード)と

ビリヤードをやり、映画を見ることが日課


ソニーは映画館とビリヤード場とスナックを経営する

サム(ベン・ションソン)のことを父親のように慕っていました

一方ではフットボールのコーチの妻ルース(クロリス・リーチマン)

不倫の関係をしてしまいます






貧しさと、そして何より退屈が人々を狂わしていく

ソニーは人妻と関係をもってしまいますが

たぶんこの町の多くの住民が密かに

誰かと浮気をしているのではないでしょうか

酷い話、それしか楽しみがないのです


そんな町で、唯一正気を保っているのがサムでした

そのサムが突然死んでしまいます

そのことでソニーの人生も変わってしまいます



処女を捧げるというジェイシーとうまくセックスが出来なかったデュアン

そのせいでジェイシーはデュアンに愛想を尽かし

ママの恋人と寝たり、ソニーに好意を持つようになります

ソニーとデュアンはなぐり合いの喧嘩をし

ソニーとジェイシーは駆け落ちをして町を出ていこうとしますが失敗

デュアンは朝鮮戦争へ出征する決心をします


ジェイシーの気まぐれで親友を失い

ビリーは交通事故で死んでしまう

そして映画館は閉鎖されることになります






上映されたのは「赤い河」1948)

夢も希望もある雄大な西部劇

デュークこそ、古き良き時代の最も偉大な象徴

そして映画館の閉館は、映画好きにとって万感の思いがありますね


性への関心に満ち、自己中心的な若者たちは

浅はかに見えるけど、決して悪い人間ではありません

ただ不満とエネルギーをどうにもできず

解決を男女の肉体関係に求めてしまうのです


それは決して褒めらる行為ではありませんが

人間の持つ本質や性(さが)を飾らずに描く勇気

それがこの作品の魅力なのでしょう


高校卒業によって仲間が離れ離れとなる物語といえば

アメリカン・グラフィティ」(1973)と見比べてみるのも面白いですね



ベン・ジョンソンとクロリス・リーチマンがそれぞれ助演賞を受賞

青春映画の傑作のひとつに間違いありません






【解説】allcinemaより

テキサスの小さな町アナリーンに、若者の社交場となっている映画館があった。そこに集まってくる若者、ソニーとデュアンはある日、恋人のことが原因で喧嘩別れしてしまう。そして数年後、朝鮮戦争に出征するために故郷に戻ったデュアンは、ソニーとの友情を取り戻し、かつての遊び場だった映画館へ赴くが……。「殺人者はライフルを持っている!」で正式にデビューしたP・ボグダノヴィッチの監督第2作で、古き良き西部の姿を背景に、田舎町に生きる二人の若者の青春をペシミスティックに描く。彼らが最後に観る映画が「赤い河」というのが何とも切ない。