「私を愛していたんじゃないの?」
「そうかもしれないし、そうでないかもしれない」
これは何度見ても面白い
アクションではなく、会話の戦いというハードボイルド
皆が嘘つきで、何が真実なのか最後まで全く分からない
愛しているのかいないのか、金を出すのか出さないのか
それさえも曖昧のまま
正直者はたぶん、死んだスペードの相棒と
探偵事務所の秘書の女性だけでしょう
だからスペードも絶対的な信頼をおいていたのです
嘘と嘘の糸をつなぎ合わせた結末はさすがで
原作からセリフと動作だけ抜き取って書き上げたそうですが
よく考えた脚本だと思います
謎の「美女」(それほど美人でない 失礼)から
「男と家出した妹を探してほしい」と
依頼を受けたスペードの探偵事務所
捜査をしたその夜「男」と相棒が射殺されてしまいます
スペードが相棒の妻と不倫関係であったことから
警察は彼が犯人だと疑います
こんどは謎の「小男」が現れ鷹の像を探してくれといいます
そして「小男」は「太っちょ」に雇われた「若い男」に尾行されていました
登場人物の喋りだけでストーリーを展開させるという
フィルム・ノアール特有の作劇法なのだそうで
最初の2/3は誰が何者で、何がしたいのかわかりません(笑)
「太っちょ」が登場したあとから、鷹の像の存在と
それぞれの役割が明らかになってきます
結局は鷹は偽物で
話はまたふりだしに戻ってしまうわけですが
「相棒が殺されたら男は黙っちゃいない」
「やけに重いな」
「夢が詰まっているのさ」
決め台詞がたまらない
ボギーだからこそ、こんな台詞が似合う
不愛想というかっこよさを天から与えられた特権
そしてもうひとつ特筆すべきは「M」(1931)のピーター・ローレ
ここでは全く違う個性を発揮していて
やはり存在感があります
これもハードボイルド映画の傑作の1本
でも最後に「太っちょ」から巻き上げた1000ドルを警察に渡すのは
本当のスペードは正義感のほうが強いんだよと
ヒューストン監督からのメッセージではないでしょうか
【解説】allcinemaより
31年の「マルタの鷹」(監督ロイ・デル・ルース、“SATAN MET A LADY”(監督ウィリアム・ディターレ)に次ぐ、ダシール・ハメットのミステリー3度目の映画化で、J・ヒューストンの初監督作品。“マルタの鷹”と呼ばれる彫像をめぐる争いに巻き込まれた私立探偵サム・スペードの活躍を描く。謎の美女(M・アスター)、不気味な風貌の小男(P・ローレ)、巨体の悪漢(S・グリーンストリート)らが入り乱れる中、ボギー扮するスペードの鮮やかな存在感が作品を名状しがたい域に昇華させている。そしてヒューストンのタイトな演出は、強烈なインパクトを各シーンに与えながら、ひとつの至宝を形作った。誕生した瞬間から、ハードボイルド映画の代名詞となるべき運命であった逸品。これ以降に製作されたこのジャンルのあらゆる作品の雛型と言っても過言ではなかろう。