ケイン号の叛乱(1954)


 
 
これは面白かったですね。
死人こそ出ませんが、ホンモノの悪者は誰だ?という展開で
予想外の結末に、全く想像がつきませんでした。
 
海軍のはみ出し者が集まったような古い軍艦に配属された
新米エリート中尉は船員たちの堕落ぶりにあきれています。
そこに新しい艦長がやってきて厳格な態度で規律を厳しくしようとします。
しかし神経質な艦長に船員たちは言うことを聞きません。
そしてついにガミガミと口うるさい艦長が偏執症で精神を病んでいると
船員たちは考えます。
 
たとえ軍隊でなく、日本の官公庁でも民間企業に勤める人間でも
この作品の上司と部下、または先輩後輩の関係には
ものすごく共感できる部分が多いと思います。
 
どこの職場にも艦長のように
過去には偉業を残したのかもしれないけれど(残していないかもしれないけど)
仕事もしないくせに威張ってばかりのお偉いさんっているのではないでしょうか。
理不尽ないいがかりをつけ、余計な仕事をさせ、自分のミスは決してみとめません。
そのため部下との関係はすれ違い、空回りするばかりになっていきます。
 
現在では上司を内部告発しても仕事は保障されるのかもしれませんが
(実際には職場に居づらくなるでしょうけど)
当時の海軍では艦長に反抗するなど絞首刑だったのです。
台風で船が転覆しそうになったとき、艦長に逆らい舵をにぎった副官。
そのおかげで船の沈没を免れることはできましたが
副官は軍法会議にかけられることになります。
 
心を病んでいるクイーグ艦長にハンフリー・ボガード
ハードボイルド映画といったらこの人というくらいのボギーが
英雄の堂々とした姿から、だんだんと偏執的に変わっていく姿は秀逸。
彼の作品の中では一番の演技かもしれません。
 
ザコン、から自分の意志で決断できる大人の男に成長していく
キース中尉にロバート・フランシス、二枚目でした。
真面目で素直な副官マリク大尉にヴァン・ジョンソン。
職場にはまた、こういう損な役回りを引き受けてしまうお人好しがいますよね。
そのマリク大尉を弁護する弁護人グリーンウォルド中尉にホセフェラー。
 
そしてインテリの小説家キーファー大尉をフレッド・マクレイ。
彼はいくら罵倒されようと、軽蔑されようと
したたかに世に中をうまく渡って成功する男でしょう。
 
古き良き傑作。
ラストのキースの転属先の艦長が!というオチも効いています。
 
上司は選べないのです・・・苦笑
 

【解説】allcinemaより
 『戦争の嵐』等でも有名な作家ハーマン・ウォークのピューリッツァ賞受賞の同名小説を映画化。第二次大戦中、嵐の海上で艦隊からはぐれてしまった軍艦ケイン。それまで威張り散らしていた艦長が沈没の恐怖から精神錯乱に陥った。副長は緊急に艦長を解任、自ら嵐を乗りきり無事帰港するが、彼らを待っていたのは艦長解任の是非を巡る激しい軍事裁判だった……。映画は、前半を洋上における乗組員たちの確執と暴風雨のスペクタクル描写、後半を帰還後の軍事法廷に描き分け、動と静とのコントラストが鮮やかである。精神的な弱さを露呈してしまう艦長をH・ボガートが好演、法廷で彼を極限まで追及していくクールな検察官に扮したJ・ファーラー等も見事な演技を見せる。紛れもなくアメリカ映画史上に残る傑作。後年、TVムービー「軍事法廷駆逐艦ケイン号の叛乱」としてリメイク