息もできない(2010)


 
 
「人を殴る野郎は、自分は殴られないと思っている。
 でも痛い目に遭う日がくる。
 そのサイテーの日が今日で、殴るのもサイテーの奴だ」
 
思い返してみると、私は一度も親に叩かれた経験がありません。
きょうだい喧嘩も年齢が離れているせいか、した記憶がなく
すぐ「キレ」る人間の心情というのは、正直分りかねます。

暴力と生まれ育った環境とは
やはり大きく関係するものなのでしょうか。

 
高利貸の金を回収するのが仕事のサンフン(ヤン・イクチュン)。
殴る、蹴る、殴る、蹴る、それも一方的に。
いつでもどこでも罵り、ツバを吐く。

彼には、父親の暴力によって妹が殺され、母が事故死をするという
過去がありました。
 
そんなサンフンと知り合った女子高生のヨニ(キム・コッピ)。
彼女には認知症の父親と、学校にも行かず金ばかりせびる弟がいました。
そんな彼女の父親も、かっては母親に暴力を振るう男でした。

ヨニの母親はすでに死んでいました。
それは、かってサンフンによって殺されたからです。
 
そんな残虐なサンフンなのに、彼から連絡があれば
学校をサボってでも会いに行くヨニ。
殺されるかも知れないくらい凶暴な男だというのに。

これは恋なのか。
それとも憐れみなのか。
ただ、同類の匂いを感じただけなのか。
 
70年代のアメリカン・ニューシネマのテイストを感じますし
暴力描写は、北野武監督作品にも似ています。
 
主人公にインパクトがあり、見応えのある作品。
しかし料理にたとえると、なにかひとつだけ調味料が足りない。

納得するなにかが抜け落ちている。

雰囲気はなかなかのものだっただけ
傑作に近いのに。惜しかったと思います。
 

 
【解説】allcinemaより
韓国インディー映画界で俳優として活躍してきたヤン・イクチュンの長編初監督にして世界各地の映画祭でセンセーションを巻き起こした衝撃作。韓国の若者の父親世代との葛藤を背景に、愛を知らずに社会の底辺で生きるヤクザな男と心に傷を抱えた勝気な女子高生が繰り広げる魂と魂のぶつかり合いが、剥き出しの暴力描写とリアルな感情表現で、赤裸々かつ緊張感いっぱいに綴られる。主演はヤン・イクチュン自身と本作の演技が絶賛された韓国期待の若手キム・コッピ。
 借金の取り立て屋をしているサンフンは、母と妹を死なせた父親に対する激しい怒りと憎しみを抱えて生きていた。常に苛立ち、情け容赦ない暴力を振るっては周囲を怖がらせていた。ある日サンフンは、道端で唾を吐き、偶然通りかかった女子高生ヨニのネクタイを汚してしまう。見るからに強面のサンフンに対しても怯むことなく突っかかっていくヨニ。最悪な出会いを果たした2人だったが、不思議とウマが合い、奇妙な交流が始まる。ヨニもまた、ベトナム戦争の後遺症で精神を病んだ父親との間に確執を抱えていたのだった。そんな中、ヨニの弟ヨンジェが偶然にもサンフンの手下となり取り立ての仕事を始めるのだが…。