ラルジャン(1986)


 
 
 
「もはや善は通りすぎた。」
 
不運にも偽札をつかまされた男性が、冤罪で有罪となり
どん底まで転落して行く物語。
この作品、登場人物の心理描写が皆無で、怒りや喜びや悲しみが
一切表現されていません。
そして、物語を説明するような映像もありません。
徹底した省略・・
 
なぜ主人公は、無償の愛で食事と寝床をあたえてくれる心優しい女性を
殺したのか・・
 
このような、想像することでしか完成されない作品は
あまり得意ではないのですが
私の解釈としては、この作品は「絶望」を描いたのではないかと思います。
絶望という暗闇の中では、すべてが無意味なのです・・お金も、
やさしさも、人の命さえ。
 
真面目に働き、家族を愛し、やさしい男だったのに・・・
 
不運や不幸、理不尽さを受け入れるという作風のヨーロッパ映画って
結構ありますよね。
不運や不幸も現実なのです、受け入れなければ生きてはいけない。
 
関係ないですけど、主人公の男性が若い頃のスティングに顔が似ていましたね。
スティング信者なので、ちょっと嬉しい気がしました。
 

 
【あらすじ】allcinemaより
小遣いに不足したブルジョワ少年が親に無心して断られ、借金のある友人に弁解に行くが、友人は彼に偽札を使ってお釣りをくれればいいと唆す。彼らはその札を写真店で使い、まんまと企ては成功。偽札をつかまされた店の主人夫婦は、これを燃料店への支払いに使う。結果、その従業員イヴォンが気付かず食堂で使って告発された。彼は写真店を訴えるが、店員ルシアンの偽証で責任を負わされ失職する。ルシアンは商品の値札を貼り替えて、差額をかすめ取っていたが、見つかって解雇される。だが、その掌中には店の合鍵が。一方、イヴォンは知人の強盗の運び屋をし、未然に逮捕され三年の実刑を受ける。その間に愛娘が病死、妻の心は彼を離れる。それを中傷した同房の者を殴ろうとしてやめるイヴォン。独房送りで毎夜支給される睡眠薬を溜め、自殺を図るが未遂に終わる。やがて、写真店を荒し逃げ回っていたルシアンが入所してきて、赦しを乞い、見返りに脱獄の誘いをするが、イヴォンはこれに乗らず、おとなしく刑期を終える。出所して泊まった安ホテル。ここで彼は主人夫妻を惨殺し、はした金を奪って逃走。ある村の裕福な農家の家事一切を引き受ける中年の女の世話になる。夫を失い、車椅子の息子と老いた元ピアノ教師の父と、姉夫婦一家と暮らしている健気な彼女は、事情を知ってもひたすら彼をいつくしみ、彼との語らいの時を持つが……。たぶんに『罪と罰』への傾斜を感じさせる内容で、現代の神、交換の魔法--金(ラルジャン)の真意を探る。