パーフェクト・ネイバー:正当防衛法はどこへ向かうのか(2025)

原題はThe Perfect Neighbor」(完璧な隣人)

フロリダ州オカラで4人の子供を育てるシングル・マザー

アジケ・“AJ” オーウェンズ(当時35歳) が

隣人のスーザン・ロリンツ(当時58歳)通称「カレン」に

(カレン=自分の特権を振りかざし要求を押し通す白人女性を指す俗語)

(アジケがロリンツ宅のドアを叩き)射殺された事件で

リンツの行動は正当防衛(無実)に値したかどうか問うもの

 

タイトルの「パーフェクト・ネイバー」とは

リンツが自分で自身のことを「完璧な隣人」と表現したことから

子どもの声がうるさい、音がうるさいという近隣トラブルはよくありますね

私がPTAの役員をやっていた頃も

休み時間や体育の授業など、子どもたちがグラウンドに出た時の

「声がうるさい」とか

「赤ちゃんが音に驚いて泣いてしまうのでやめてほしい」とか

近隣の住民から苦情が入っていました

(アンタのそこ子もすぐ大声出して駆け回るようになるんだがな)

おかげで運動会の練習は体育館で行うようになり

鼓笛隊なんてほとんどの学校でなくなったのではないでしょうか

静かに暮らしたいのに、外でワーワー・ギャーギャー子どもの声がしたら

確かにイラつくこともわかります

野球やサッカーのボールが飛んで来たら

窓ガラスが割れたりの危険もあるかも知れません

ただアメリカと違うのは、ご近所トラブルで命の危険にまでさらされることは

めったにないということ

映画のほとんどは2022年から2023年のロリンツが警察に通報したときの

警察官のボディカメラによる映像で構成されており

 

リンツからの通報で現場に向かうと

リンツは子どもたちが自宅の庭に不法侵入して遊んでいるとか

犬の散歩をせていて糞害があると申し立てます

警官が近隣の住民からも話を聞いてみると

ここは集合住宅で私有地ではない

子どもたちが自由に遊んでいい場所だと主張します

(ロリンツ以外の住民は助け合いの絆で結ばれているらしい)

 

日本だったら、近所にそんなクレームおばさんがいたら

子どもたちに近寄らないよう教える親がほとんどだと思うのですが

アメリカ人はとにかく権利を主張するんですね

そのたびに駆け付けつけて

双方の話を聞かなければならない警察官も大変ですね

できるだけロリンツの家の前に近づかないよう子どもたちや保護者に促しますが

リンツも家から出てきて子どもたちに向って

「ニガー」「ファック」「プッシー」という悪態をついてくるということ

アジケはどっちが非常識かと警官に訴えます

さらにロリンツは自動車修理業者のゲートに

自分のトラックを何度も突っ込んで修理業者から通報された時も

(本人曰くレイプされた経験がありゲートに閉じ込められたと思って怖かった)

自分はあくまで被害者であることを主張します

近所のお兄さんはロリンツの行動をイカれてる

総合失調症に違いないと警官に話しますが

私もそんな被害妄想がひどいのならば心療内科に行くべきだと思う

アメリカって医療費や薬代がべらぼうに高いことも社会問題よね)

20236

アジケの長男アイザック と次男イスラエルがロリンツの自宅前に

ローラースケートとタブレットを置き忘れ

リンツは傘を振り回し子どもたちに近づくと、ローラースケートを投げつけ

タブレットは持ち帰ってしまいます

アジケはイスラエルと一緒にタブレットを返して欲しいと

リンツの自宅のドアをノック

(ロリンツは長い時間にわたり部屋が揺れるほど激しくドアを叩かれたと主張)

カレンは警察に通報し

その直後、半べそをかいたイスラエルが「911に電話して!」と

近隣の家に駆け込んできます

「母さんが撃たれた!」

隣人が必死に心肺蘇生を試み、間もなくしてパトカーと救急車が到着

ドア越しに右肩を撃たれたアジケは病院に運ばれ

警官はアジケの元パートナー(子どもたちの父親)を呼びます

しかし皆の祈りは届かず、アジケの訃報が伝えられます

「アジケの母親に何と伝えれば・・」と頭を抱える父親

元妻の死よりよりそっちの心配かよって話なのですが

やがてその理由がわかります

リンツは保安官事務所に連行され事情徴収こそされますが

拘留されることもなくすぐさま自宅に戻されます

え?なんで?ですよね

 

アジケの母、パメラ・ディアスは

4人の孫(アイザックイスラエル、アフリカ、タイタス)を預かり

撃ったのが黒人だったら逮捕されるのにと

アジケの葬儀ではアジケの顔がプリントされたTシャツを来て

(不当な暴力の隠れ蓑になっていると)正当防衛法の見直しと銃規制の強化を訴え

その活動はムーブメントとなっていきます

さらに娘の死は単なる悲劇ではなく社会を変えるためのレガシー(遺産) だと

Standing in the Gap Fund」(隙間に立つ基金)という非営利団体

人種差別に基づく暴力による被害にあった家族の

絶望や喪失感といった「隙間」を経済的支援やカウンセリングで

サポート(隙間を埋める)することが目的の寄付基金を設立

本作の製作もパメラの同意と後押しによって可能になったそうです

(さらにアジケは監督ギータ・ガンドビールの義理の妹の親友でもあった)

202411月、ロリンツ側の弁護士は、ロリンツが「命の危険を感じた」として

自己防衛のための殺人を行使したとして

フロリダ州の正当防衛法(スタンド・ユア・グラウンド法)を主張しますが

リンツがアジケ殺害の前に正当防衛法をネットで調べていたこと

さらにアジケが自宅のドアを叩いたと通報したわずか2分後に

リンツは(施錠していてアジケが入れるわけない=不法侵入ではない)

ドア越しにアジケを射殺していたことがわかります

裁判時の加害者がロリンツが別人の様に痩せていたことは

多少は罪の重を感じたからなのか

それとも拘留中の食事や生活習慣のおかげで

健康的になったのかは不明ですが

 

判事はロリンツに過失致死罪で禁錮25年の有罪判決を言い渡します

殺人罪でないことをパメラは司法に訴えますが

それでもロリンツが「無罪」で釈放にならなかったことは

パメラの全米を巻き込んだ活動のおかげだと思います

フロリダ州(など特に南部の州)では

正当防衛法(スタンド・ユア・グラウンド法)制定後、殺人が増加し

全米でも年間約700人正当防衛を語る殺人が発生

しかも白人が黒人を殺害したケースで「正当防衛法」が認められる確率は

逆のケース(黒人が白人を殺害した場合)に比べて11倍高いそうです

 

 

【解説】映画.COMより

Netflix20251017日から配信。第98回アカデミー長編ドキュメンタリー賞ノミネート。

2025年製作/98分/アメリ
原題または英題:The Perfect Neighbor
配信:Netflix