
レイの映画を見ていないということは
太陽も月も見ずにこの世に生きているのと同じことだ
黒澤明
原題は「Mahanagar」(強大な都市)
今から60年以上前の映画で、真のフェミズム
(女性に対する差別や不平等の解消を主張する考え方)とは何か
女性が自ら仕事を選択する権利を描いていることが、まず凄い
それでいて正統派のホームドラマとして成り立っている

日本の総合順位は148国中118位(2025年)ということですが(笑)
日本では根本的にフェミズムに対する考え方そのものが
国際的に最初から違っているのでしょうね
ラストで大都会がフォーカスされるシーンは
女性(主婦)にも無限の可能性があるのだと
(「風と共に去りぬ」の如き 笑)女性の持つパワーを感じました

1950年のインド
幼い息子ピントゥと狭いアパートで暮らしていた主婦のアラティでしたが
夫の両親と10代の義妹バニも同居することになり
夫の給料だけではとても生活費も学費もまかなえません
そんな時知り合いの奥さんが働きだしたと聞き
アラティは自分も仕事をしたいと夫に相談します
「男は外で働き、女は家を守る」が当たり前の時代
妻に稼いでもらうなど夫の恥、だけど背を腹には代えられない
夫は銀行の他に副職が見つかるまで、の条件でアラティの仕事探しを手伝います
そうして夫が見つけたのが、家庭用編み機のセールスレディでした

そこで知り合ったのが白人女性のエディス
エディスはバリバリのフェミニスト
(女性の権利や男女平等や多様性を志向する人のこと) で
(女性が仕事するには)内面だけでなく外見も大事だと
アラティに口紅をプレゼントしてくれたり
(口紅が主婦から働く女性への切り替えのアイテムになっている)
自分だけではなく、同僚の女性たちのためにも
上司のムケルジー氏に固定給以外にも、売り上げに相当する
マージン(手数料)の請求を交渉します
エディスの影響もあって、やがて会社のトップセールスになるアラティ

母親が仕事に出かけることで、ぐずつく息子でしたが
新しい玩具を買ってもらうたびに機嫌を直し
(こういうとこ、男の子は単純でいいね 笑)
義妹バニはサリーをプレゼントされ大喜び
義母は食費の援助と、家政婦を雇ってもらい大助かり

でもそれでは夫のメンツが立たない
エディスからもらった口紅も男からのプレゼントだと勝手に勘違いし
嫉妬に燃えるありさま
友人に副職先を頼み(それが決まったわけでもないのに)
妻に仕事を辞めるよう頼みます

さらに舅は嫁に面倒を見てもらうなど、とんでもないこと
バイトでもするならまだしも、賞金付きのクロスワードにのめり込み
元教師だった舅は、かっての教え子たちの元を訪れ
眼鏡を作ってもらったり
金銭をめぐんでもらうというありさま
私ならそっちのほうがよっぽど惨めだと思いますけどね(笑)
教え子たちも「あの自助論を熱心に教えた先生がね」と哀れみます
(自助論=サミュエル・スマイルズ著の成功談を集めて論じた自己啓発本のこと)

仕事が面白くなってきたアラティでしたが、やはり家庭が優先
退職を伝えるため上司の元に向かったとき夫から電話が入ります
勤め先の銀行が破綻したため、辞めないでほしいと

その頃エディスが体調不良で会社を休んでおり
アラティは彼女の営業地区も担当していて
上司からの信頼も厚くセールスレディのリーダーとして
教育係も命じられます

さらにアラティが知人の男性(友人の夫)に会った時
「夫は会社経営で成功している」と嘘をついているのを偶然目撃してしまった夫は
(求職のため)アラティの上司に面会に行きます
すぐに事情を察した上司は、同郷だという理由で快く仕事を紹介するのでした

一方エディスを心配したアラティは彼女の家に見舞いに行くと
彼氏の野球の応援で雨に降られ高熱を出してしまったということ
仕事で助けてもらったことをアラティに感謝し
サングラスをプレゼントしてくれます
アラティにとってエディスはいつでも粋で素敵な女性

しかし上司は、エディスをイギリス植民地時代の置き土産だと
(体調不良で休むことを連絡していたにもかかわらず)
エディスが「サボった」のだと決め込み、クビにしてしまいます

エディスに謝罪し復職させるよう上司に頼みにいくアラティ
しかし上司は聞く耳を持ちません
エディスの形相はみるみる鬼のように変わり
エディスが辞めるなら自分も辞めると啖呵をきり
(夫が用意していた)辞表を出してしまいます

会社を飛び出すと、そこには夫の姿
(仕事のことで上司に会いに来たのかもだけど、彼女はそのことは知らない)
アラティは「迎えに来てくれたのね」と泣き出してしまいます
ただ、正しいことを主張しただけ
でも仕事がなくなったら明日からの生活はどうしたらいい?
そのときビルが立ち並ぶ街並みがズームアップされると
アラティは夫に頬を寄せ
この大都会ではいくらでも仕事は見つかるはずだと呟くのでした
たとえ無職になっても、なんと男とは違うことか(笑)

この不景気だとか、物価高だとか騒いでいる今の日本の
子育て世代の女性や、仕事を持つ主婦にもぜひ見てほしい
歌わないし踊らない、古典インド映画の傑作でした
【解説】映画.COMより
「大地のうた」をはじめとする「オプー3部作」で知られるインドの世界的名匠サタジット・レイが1963年に発表した代表作のひとつで、大都会カルカッタを舞台に共働き夫婦の暮らしを描いたドラマ。
1953年、カルカッタ。薄給の銀行員シュブラトの妻アラチは、家計を助けるために訪問販売の仕事を始める。やがて彼女は社長に能力を認められるようになり家計も楽になるが、夫としての立場を失ったシュブラトは仕事をやめさせようとする。日本では「大都会」のタイトルで76年に岩波ホールで公開。
2015年9月、レイ監督のデビュー60周年を記念した特集上映「Season of Ray シーズン・オブ・レイ」でリバイバル公開。2025年7月にもレイ監督のデビュー70周年を記念した特集上映「サタジット・レイ レトロスペクティブ2025」でリバイバル公開。
1963年製作/131分/G/インド
原題または英題:Mahanagar
配給:グッチーズ・フリースクール