鑑定士と顔のない依頼人(2013)

原題はLa migliore offerta」(最高のオファー)

世界的に有名な超一流の鑑定士が、若い女性に恋をしてしまい

貴重なコレクションを盗まれる・・というもの

しかも主犯者は予想だにしなかった意外な人物

 

ラストの伏線回収に驚かされるとともに

思わずもういちど再見して内容を確かめたくなる

ジュゼッペ・トルナトーレ監督の脚本が天才すぎる恋愛サスペンス

でもどん底に堕ちた男、あるいは(「マレーナ」のように)女性が

不幸なだけかというとそうではありません

愛を失う苦しみより、本当に愛する人を見つけられないまま生きるほうが

不幸な人生だというのがトルナトーレ流

オークショニアとして成功している美術品鑑定士

ヴァージル・オールドマン(ジェフリー・ラッシュ)は

友人のビリー(ドナルド・サザーランド)と組んで落札価格を誘導し

有名画家による女性像を手に入れていました

彼の自宅のパスワード付きの隠し部屋に壁一面飾られた美人画たち

ヴァージルは重度の接触恐怖症で常に手袋をはめており

結婚どころか一度の恋愛経験もありません

さらに「迷信深い方なので」

レストランで誕生日を祝うケーキを出されたときも

1日早いという理由だけで、決して手をつけることはありません

(誕生日の前祝は不幸な出来事が起こるという迷信がある)

翌日60歳の誕生日を迎えたヴァージルは

事務所の電話が鳴ると「誕生日の最初の電話は幸福を呼ぶ」と秘書に言われ

(自分を一番大切に思っている人からの祝福、という意味らしい)

いつもは秘書が受ける電話に出ることにします

そしてこのヴァージルの「迷信」、ジンクスを信じるという

こだわりが彼を狂わせていくのです

それはクレア・イベットソンと名乗る女性から、死んだ両親が残した美術品を

競売にかけて欲しいというありふれたものでした

しかしヴァージルほどの鑑定士に直接仕事を依頼するのはよほどの人物

「オールドマン氏はあなたを知っていますか?」

「いいえ、でも私は彼をよく知っています」

最初の電話は幸福を呼ぶ・・この瞬間からヴァージルは罠に嵌ってしまうのです

 

クレアに教えられたヴィラに向かうヴァージル

一棟貸しの別荘、あるいは郊外にある大邸宅のこと)

しかしクレアは現れず、雨の中門扉の前で40分も待ちぼうけをくらい

事務所に戻ったヴァージルは

事故にあったと言い訳するクレアからの謝罪の電話にどなりつける

 

2度目にヴァージルが訪ねると、やはりクレアは現れず

管理人だという足を引きずった男がヴィラが屋敷を案内します

中にはアンティークな家具や美術品が多く置かれていましたが

ヴァージルが目を付けたのは地下室に転がっていた小さな歯車でした

ヴァージルは馴染みで腕利きの修理屋(機械技師)

ロバート(ジム・スタージェス)にその錆びた歯車を見せると

彼は歯車を磨きジャック・ド・ヴォーカンソンという刻印を見つけます

これはたぶんオートマタ(自ら動く機械人形)の部品で、もの凄い発見であり

他の部品も見つけて組み立てれば高額で取り引きされることは間違いない

ヴァージルのオークショニア魂に火がつきます

 

しかしクレアとは電話の会話だけで、彼女の度重なるキャンセルに苛立つヴァージル

一方でどこかからクレアはヴァージルを覗き見していて

彼が白髪染めしてい(=本物でなくニセモノがっかり咎め

いそいそと白髪に戻すヴァージル

次の電話の会話では「そのほうが素敵」と言われ有頂天

ところが突然クレアが電話に出なくなり

管理人によるとクレアは現在27歳で、15歳のとき奇病(広場恐怖症)を患い

(彼女の両親に雇われたという)管理人もその姿を見たことがないと言います

やがて壁越しに(作家として生計を立てているという)彼女が

ヴィラの1室に閉じこもっていることがわかります

 

ヴァージルはいつクレアから連絡がきてもわかるようにスマホデビューしたり

彼女のため食料を買って届けたり

女性経験豊富なモテ男ロバートに「知り合いの話」として相談します

すぐに「知り合い」がヴァージルのことだとわかったロバートは

「まずは花束と」アドバイスします

鑑定が進み、競売の契約書個人情報が抜けていたため記入するよう頼むと

彼女はドアのすきまから幼児期のパスポートを差し出します(誕生日がわかる)

契約後(いちど部屋を出たふりをして)彫刻の隠れ

クレアが現れるのを待つヴァージル

現れたのは長い黒髪に質素な服、物憂げな表情の痩せた美女

そのときヴァージルのスマホが鳴り、異変に気づいたクレア

とっさに逃げ出してしまうヴァージル

でもクレアは(電話で)ヴァージルのことはお見通しだと話し

クレアの誕生日、彼女の誕生年ワインと花束を持ち訪ねるヴァージル

なのにクレアは突然鑑定の結果が安すぎるとヴァージルを罵ります

一流の鑑定士として屈辱を受けたヴァージルは

お前など消えてしまえ」とクレアに罵り返すと

自宅に戻り彼女のために用意したワインを開けて飲む

 

そこにクレアから謝罪の電話が入り、まともや呼び出され

ドアの覗き穴から部屋を覗いたヴァージルと彼女の目があう

クレアは自らドアを開けて姿を現し、ヴァージルは彼女の頬にそっと手を触れる

しかも手袋なしで

ヴァージル部屋に招き入れ口づけを交わすクレア

そこに飾られていたケースには

オートマタを完成させるための最後のパーツが詰まっていました

 

その後クレアとヴァージルは急速に親しくなり

ヴァージルは彼女に(美人画のような自分好みの女性にするため)

高価なドレスや化粧品をプレゼントするようになります

なのにまたクレアが姿をくらましてしまう

そのことでオークションに集中できず

ビリーが贋作の美人画(実は本物)を競り落とし損ねたり

(その後ビリーが買い戻してくれる)

紹介作品の順序を間違えるという失態を繰り返すヴァージル

 

ロバートに助けを求めクレアを探すことにするヴァージル

ロバートは他にも隠し部屋があるのではないかと言い

ヴァージルが屋根裏を探すと、そこにクレアは身を潜めていました

冷え切った身体の彼女を風呂に入れるヴァージル

そこで彼女は15歳の時初恋の人を亡くしたこと

唯一の楽しい思い出がプラハにあるカフェ

「ナイト・アンド・デイ」に行ったときだと話します

クレアを抱きしめ、自分こそが彼女を過去の痛みから救うと誓うヴァージル

さらにヴァージルがクレアに会いに行こうと(ヴィラの前で)暴漢に襲われたとき

広場恐怖症のクレアが自らのパニックを克服し

クレアが門扉から飛び出し助けを呼びにきてくれたことで

(実際に救急車を呼んだのは偶然窓から見ていた小人症の女性)

彼女の今までの不可解な行動さえ全て赦してしまいます

それはクレアも自分と同じ、恐怖症ゆえの不器用さだったのだと

ロバートの後押しにより、クレアにプロポーズするヴァージル

結婚を前提にクレアは両親の遺した美術品を競売にかけるのをやめると言うと

ヴァージルは快諾し(遺品を売らなくても彼女の生活を保証できるため)

クレアを自宅のクローゼットの裏に隠されたコレクション部屋に案内します

名画のあまりの素晴らしさに圧倒され、ヴァージルを抱きしめるクレア

結婚を機にヴァージルはオークショニアから引退することを決め

最後の競売となった会場では拍手が沸き起こります

ビリーからは俺の絵の才能を認めてくれなかったのが残念だったが

代わりに「お祝いに絵画を送ったよ」と祝福され

「捨てたりしないよ」と笑うヴァージル

しかしヴァージルが自宅に戻るとクレアの姿はな

不安を漢字隠し部屋に向かうと、コレクションすべて消え

ロバートの再現したオートマタが(かってロバートが録音したヴァージルの声で)

「どの贋作の中にも本物は隠されている」と繰り返していたのです

 

精神病棟に入院したヴァージル

今もヴァージルに仕え新聞や手紙を届けている秘書

リハビリ中のヴァージルはその後のことを思い出していました

ヴィラに向かうと門扉には何重ものチェーン

ヴィラを真正面に見ることが出来るカフェに入りマスターに

ヴィラの所有者である「クレア・イベットソン」を知ってるかと聞くと

「クレア・イベットソン」なら窓際にいる彼女だと教えられます

車いすサヴァン症候群(「レインマン」的数学と数の暗記とが得意)の

その女性に、ヴィラに住んでいた自称クレアの特徴を話すと

彼女やそのほかの人物が「何百回」もヴィラを出入りしていて

その正確な数をヴァージルを教えます

さらに現在のヴィラは主に映画の撮影などに使われていて

ここ2年はある映画プロデューサーに貸していたこと

(ロバートと思わしき)彼はハンサムでなんでも修理出来て

花束をくれて、キスまでしてくれるのよと嬉しそうに語る本物のクレア

ロバートの店に向かうも、すでにもぬけの殻

残されていたのはヴァージルが「たいした絵ではないが」と評したものの

クレアが大切にしていた「母の肖像」だという美人画1枚

その裏には「愛と感謝とともに」のメッセージとビリーのサイン

さらにヴァージルの車のトランクには

かってロバートが女性客に修理を頼まれていたのと同じ徘徊老人向けのGPS

 

ビリーも、クレアも、ロバートも、ロバートのガールフレンドも

ヴィラの管理人も皆グルだったのか

ビリーは画家としての道が塞がれたのは

ヴァージルに酷評されたためだと恨んでいました

それからは画を描くことを捨て、ヴァージルと組み

オークションで彼の審美眼にかなった美人画を競り落としてきた人生

何十年の付き合いで彼の性格や好みも熟知している

そしてビリーに絵画のすべてを盗まれたとしても

訴え出ることが出来ないことも

なぜなら彼のコレクションすべてビリーが入札したものだから

 

それでもまだヴァージルは

クレアの「何が起こっても私の愛は真実」という言葉を信じていました

どの贋作の中にも本物は隠されている

退院したヴァージルは、歯車だらけのカフェ「ナイト&デイ」を訪れ

ウェイターの「おひとりさまですか」の問いに

「人を待っている」と入り口が見える席に座ります

いつかクレアが現れることを信じて

いつまでも、いつまでも

 

愛で死ぬという本望

映画における純文学

 

 

【解説】映画.COMより

ニュー・シネマ・パラダイス」「海の上のピアニスト」の名匠ジュゼッペ・トルナトーレ監督が、ジェフリー・ラッシュを主演に迎えて描くミステリー。天才的な審美眼を誇る鑑定士バージル・オドマンは、資産家の両親が残した絵画や家具を査定してほしいという依頼を受け、ある屋敷にやってくる。しかし、依頼人の女性クレアは屋敷内のどこかにある隠し部屋にこもったまま姿を現さない。その場所を突き止めたバージルは我慢できずに部屋をのぞき見し、クレアの美しさに心を奪われる。さらにバージルは、美術品の中に歴史的発見ともいえる美術品を見つけるが……。音楽はトルナトーレ作品常連のエンニオ・モリコーネ。イタリアのアカデミー賞と言われるダビッド・ディ・ドナテッロ賞で、作品賞、監督賞、音楽賞をはじめ6部門を受賞。

2013年製作/131分/PG12/イタリア
原題または英題:La migliore offerta
配給:ギャガ