めし(1951)

「無限な宇宙の広さの中に 人間の哀れな営々とした いとなみが

 わたしはたまらなく好きだ」 林芙美子

林芙美子が急逝して未完の絶筆となった同名小説

川端康成を監修に迎え、成瀬巳喜男脚本の田中澄江井手俊郎らにによって

離婚するという)独自の結末が付けられたものの

東宝から興行的に結末が離婚は困ると

妻が夫のもとに戻るという要望を成瀬が承諾

当時スランプだった成瀬妥協するしかなかったそうです

結果、林芙美子ファンからは不評で

「この夫婦は別れるべきだった」 と批判されたということ

 

私的にもハッピーエンドよりは、バッドエンド

夫はもっと痛い目に合うべきだったと思いますが

夫がこの先、一生妻に気を使い

尻に敷かれる人生を送ることになることを考えれば、どっちもどっちかなと(笑)

大恋愛の末、駆け落ち同然で結婚して5

大阪で暮らす岡本初之輔(上原謙)と三千代(原節子

今では夫婦の会話もなく、三千代が話す相手といえば飼い猫だけ

三千代が猫にごはんをあたえていると、初之輔が「俺のめしは?」

新聞を読みながら煙草を吸い、妻を見るわけでもなく催促する

三千代はあたりまえのように食事を出し

初之輔は出されたものを黙って食べるだけ

まるでウチの食卓かと思ったわ(笑)

成瀬の作品って古いんだけど、現代にも通じるものがある

 

とはいえ証券会社に勤める夫と、専業主婦

向かいの息子の芳太郎大泉滉)はいい年をして定職にも就いていない

これが平凡で幸せな夫婦なんだと自分に言い聞かせていました

姪の里子(島崎雪子)が(縁談相手が気に入らないと)おじの初之輔を頼って

家出してくるまでは

若くて、お洒落で、スタイルが良くて、元気ハツラツな20歳

こっちは少ない給料で、あれもこれも我慢してやりくりしているのに

自由奔放でわがままいっぱいな里子に初之輔は甘い甘い

休日には里子のため大阪観光のバスツアーに行こうという

(当時のバスガイドさんが女性の花形職業だったことがわかる)

自分とは結婚してから、一度もどこにも連れて行ったことなんかないくせに!

なのに三千代が不機嫌な理由も

急にバスツアーに行かないと言い出したことも

初之輔は何でなのか全く気がつかない(笑)

 

(里子に一目惚れしメロメロの)芳太郎とも里子は遊びまわり

(大阪の男性は東京は嫌いだけど、東京の女の子は好きらしい 笑)

三千代が同窓会で出かけた日には、三千代の靴がなくなっていたり

2階に(夫と寝ていたと勘違いしてしまいそうな)毛布が敷かれていたり

里子がふしだらな女という、三千代の妄想は止まりません

それは(周りからは美人の奥さんと呼ばれているにもかかわらず)

三十路になった三千代の、若さに対するひがみと嫉妬にほかなりません

里子に決して悪気がないにもかかわらず

里子を憎む女心をわからせる原節子さんの巧さと凄さよ

三千代は里子を東京に戻るよう促し、 自分も一緒に東京に帰ります

東京といってるのに、着いた先は矢向駅

この頃は川崎も東京と呼んでいたのかしら(笑)

大阪に駆け落ちしたくらいの娘なので

母親(杉村春子)は三千代の頑固さを知っているのでしょう

仕事を探すという三千代が納得するまで預かるしかない

三千代が帰ってきたという知らせを聞いた従兄弟の一夫(二本柳寛)は

親切に仕事を探す手伝いを申し出たり、三千代を箱根に誘ったりします

一夫は幼いころからずっと三千代のことが好きだったんですね

大阪の三千代のいなくなった家では、初之輔が慣れない家事に苦戦

まともに料理もできないし、部屋は散らかり放題

だけど簡単に迎えに行くのは男のプライドが許さない

出張にかこつけてに三千代の実家に向かったものの

三千代だってプライドがある

(玄関で夫の靴を見ると)実家から消えてしまいます

でも実家では、妹の光子(杉葉子)の夫、義弟(小林桂樹)にとっては

三千代も里子と同じ、自由奔放でわがままいっぱいの女

しかも出戻りでしかないことを気付かされます

さらにかっての級友で戦争未亡人、シングルマザーのけい子(中北千枝子)が

線路際で必死に新聞を売っている姿を見て胸を突かれます

祭でにぎわう町中で、ばったりと初之輔と会った三千代は

気まずい思いをしながらも

(自分がいないと)「Yシャツ、ずいぶんよごれているのね

そして「猫、います?」(猫は人質だったのか 笑)と尋ねます
「谷口さんにあずけてきた、あの息子さん就職したそうだ」

「そう、あなた、あたしがすぐ帰るとお思いになって?」
「ああ、だから手紙書かなかった・・ぼくの仕事は明日すむんだ」

「一緒に帰るかい?」

 

その一言に三千代は大阪に戻る決意をします

欲しかったのは優しい言葉

そして自分が必要だという確信

腹が減ったという初之輔と料理屋に言った三千代は

「わたし東京に来て2500円も使っちゃった」と告白すると

初之輔は親戚の叔父から、今より給料のいい商社を紹介されていることを伝えます

「きみに相談して返事するっていっておいた」

三千代は「あなたがお決めになって」 と

少しだけ口をつけたビールを「お飲みになって」と渡します

大阪に向かう列車で「女の幸福とは、そんなものではないだろうか」

(という結論的なナレーションが入り)

車窓から、出せなかった離縁の手紙を破り捨てる三千代

それは「妻」「主婦」という地位こそ

女の勝ちだと宣言したものだったのかも知れません

 

 

【解説】映画.COMより

製作は「哀愁の夜(1951)」の藤本真澄朝日新聞連載中絶筆となった林芙美子の原作から「哀愁の夜(1951)」の井手俊郎と「少年期」の田中澄江とが共同で脚本を執筆、「舞姫(1951)」の成瀬巳喜男が監督に当っている。撮影は「武蔵野夫人」の玉井正夫である。出演者は、「死の断崖」の上原謙島崎雪子、「麦秋」の原節子杉村春子、二本柳寛、「赤道祭」の杉葉子と山根壽子、「平手造酒(1951)」の山村聡、花井蘭子などの他に、進藤英太郎大泉滉、風見章子、中北千枝子小林桂樹などである。

1951年製作/97分/日本
原題または英題:A Married Life
配給:東宝