海の沈黙(2024)

倉本聰(89)が1960年に起こった「永仁の壺事件」をきっかけに構想し

約60年の時を経て脚本を手がけたという作品

鎌倉時代重要文化財の壺が明治生まれの陶芸家の贋作と判明

重要文化財指定が取り消しになったとたん

それまで価値を認めていた評論家も世間の人々も

見かたを変えてしまったというもの

この「手のひら返し」的な風潮に倉本氏は

「作品の美に、作者や時代の裏付けが必要か」という疑問をもち

なんとか映画にしたいと思ったそうです

 

主人公の孤高の画家は倉本氏本人がモデルかも知れませんね(笑)

1974年の大河ドラマ勝海舟」での演出めぐりNHKのスタッフと大喧嘩

そのまま北海道行きの飛行機にあてもなく乗ってしまい

おかげで(大企業や大都会での暮らしへの異議をとなえた)

日本ドラマの傑作のひとつ「北の国から」が生まれたそうです

もうひとつは北海道の天塩町の海岸で見た「迎え火」という風習

漁師が海で行方不明になると、その人が戻って来れるよう

「ここがあなたの国、あなたの場所」だという目印に

何日も大きな火をたくそうです

 

そういうひとつひとつのエピソードはよかったものの、失敗作(笑)

やはり連続テレビドラマ向けのストーリーかなと

映画にするなら(観客動員数は見込めないけど)

三部作は必要だったと思います

2時間弱にあれもこれも詰め込んだせいで内容が薄くなり

かってのアイドルたちが「老けた」ことを実感しただけ(笑)

日本を代表する画家のひとり田村修三(石坂浩二)は

自身の最も有名な代表作のひとつ「落日」が

贋作であることに気づき記者会見を行います

しかもその贋作が自分の「元の絵よりも優れている」と伝えます

「落日」の所有者は長野県の地方にある美術館でした

「落日」を3億で購入した館長の村岡(萩原聖人)は非難を浴び自殺

遺書には「たとえ贋作であっても、心を打つ絵は本物だ」と書かれていました

 

田村の妻、安奈(小泉今日子)は贋作の作者に思い当たる節がありました

田村と共に世界的画家である安奈の父の弟子で、美大でも同窓

天才画家と呼ばれた津山竜次(本木雅弘

石坂浩二とモックンが同級生という無理やり 笑)

下北半島にある漁村出身の津山には

父親から受け継いだ「彫師」という一面も持っていました

安奈の父の作品を塗り潰して「海の沈黙」という絵を描いたうえ

当時付き合っていた安奈の背中に刺青を彫ろうとしたことで

怒った安奈の父により引き裂かれ、破門させられ、行方不明になってしまう

その後安奈は田村と結婚します

でも津山のことを忘れてはいませんでした

(一方の田村にも愛人と子どもがいる)

自身が経営するキャンドルショップでは

火を灯せば溶けた蝋が涙のように流れるという

津山そっくりの顔のロウソクを作っている・・ほど未練がましい

北海道小樽ではバーで働くあざみ(菅野恵)のもとに

牡丹(清水美砂)という女性が現れ

津山から刺青を彫ってもらうというあざみに

「抱いてもらいなさい」と語ります

その後海岸で入水自殺をした牡丹の遺体が発見されると

警察は牡丹の全身にまるでカタログのような刺青があるのを発見

牡丹がヨーロッパで噂の刺青のモデルではないかと予想します

津山は小樽の廃校で、スイケン(中井貴一)に支えられながら

創作活動を続けていました

スイケンは食事の面倒から、画商(田中健)との売り買いにいたるまで

津山の身の回りの世話の全てを仕切っているんですね



スイケンの案内で30年ぶりに津山と再会した安奈は

「こんなことしていますの」と津山にキャンドルを渡します

スイケンが連れてきたあざみの身体を津山は「いい」と評価し

その背中に(モネの)睡蓮を彫ろうと準備しようとしますが

咳と体調不良のため思うようになりません

(裸で温めあうとかいう設定がまた昭和過ぎ 笑)

制作途中のキャンバスに向かって吐血してしまったり

(あんなにたくさん血って吐けるもんなのかい)

ドガの贋作者としてインターポールからまで追われ

ちょっと漫画っぽい演出

東京に戻った安奈が、田村の受勲祝賀パーティに出席する準備をしていると

スイケンから「今夜が峠です」電話があります

羽田から新千歳空港、そこからタクシーで小樽の病院へ

 

病室では津山がスイケンに、あずみに刺青を「彫らなくてよかった」

若い女を綺麗なままにした、正しかったと語ります

(手切れ金を渡され自殺した牡丹の立場は?笑)

病院を抜け出した津山は、夢の中でバーに行きあずみと言葉を交わします

津山が病院から消えたことを聞いたあずみは

地元の漁師仲間と津山のアトリエへ急ぎます

そこには最後の作品を仕上げ、スイケンに抱えられた津山の姿

安奈が病院に到着すると、津山は静かに息を引き取ります

津山が最後まで描こうとしてのは、愛していたのは

安奈でも牡丹でもあざみでもない

幼いころ海で亡くしてしまった両親なんですね

「迎え火」を目印に泳いで帰ってくると信じていた、だけど帰らなかった

それからの生涯を「迎え火」を描くこと捧げたのです

 

男って最期まで自分勝手

女に(あるいはスイケンのような男に)母親からの愛情を望み

支えてくれるのがあたりまえだと信じている

倉本氏には申し訳ないけど

そんな晩年の男の気持ちは察することができました

 

【解説】映画.COMより

「前略おふくろ様」「北の国から」など数々の名作ドラマの脚本を手がけてきた巨匠・倉本聰が長年にわたって構想した物語を映画化。「沈まぬ太陽」「Fukushima 50」の若松節朗監督がメガホンをとり、本木雅弘小泉今日子中井貴一石坂浩二仲村トオル清水美砂ら豪華キャストが共演した。
世界的な画家・田村修三の展覧会で作品のひとつが贋作だと判明する事件が起こる。事件の報道が加熱する中、北海道・小樽で女性の死体が発見される。このふたつの事件をつなぐ存在として浮かび上がったのが、新進気鋭の天才画家と称されながら、ある事件をきっかけに人びとの前から姿を消した津山竜次だった。かつての竜次の恋人で、現在は田村の妻である安奈は小樽へ向かい、二度と会うことはないと思っていた竜次と再会を果たすが……。
真の美を求め続ける竜次の思いが、安奈や、竜次に長年仕える謎めいたフィクサーのスイケン、贋作事件を追う美術鑑定の権威・清家、全身刺青の女・牡丹、竜次を慕うバーテンダーのアザミら、それぞれの人びとのドラマと交錯していく。

2024年製作/112分/G/日本
配給:ハピネットファントム・スタジオ