
原題は「El lugar de la otra」(他人の場所)
原作はアリア・トラブッコ・セランの「Las homicidas」(殺害する女性たち)で
その中で紹介されている4つの殺人事件のひとつ
1955年、人気作家マリア・カロリナ・ヘールがホテル・クリヨンで
恋人のロベルト・プマリノ・バレンズエラを5回撃ち殺害した
「マリア・カロリナ・ヘールの恋人殺害事件」にインスパイアされ映画化

といっても、法廷裁判ものでもなければ
事件を真相を推理するサスペンスでもない
メルセデス(架空の人物)という女性の視点から
階級主義、家父長制、女性の生き方について描いいたもの

緊迫感もなくドライ、期待して観ると肩透かし
(マイテ・アルベルディ監督の3度目のノミネートにならず)
でも100%女性目線で、既婚で仕事をもっている女性なら
共感できる部分が必ずあると思います(笑)

裁判所に判事の秘書として務めているメルセデスは
自宅兼撮影スタジオの狭いアパートで
カメラマンの夫とふたりの息子に囲まれ家事に追われる日々
夫と息子たち中心の生活で、自分のことは二の次
食事にさえありつけないときもあります
人気女流作家のマリア・カロリナ・ヘールが一流ホテルのレストランで
恋人を銃で殺害するという事件が起こり
収監されたマリア・カロリナの着替えをとりに行くことを頼まれたメルセデス

マリア・カロリナの自宅の鍵を受け取り、豪華なアパートを尋ねる
高価な化粧品や衣服を目の前にして
メルセデスの「女」の部分が目を覚まします
マリア・カロリナの化粧品で化粧し、彼女の服を着る
やがてそこが自分の家であるかのように出入りし始めます

マリア・カロリナへの調査では、彼女がなぜ恋人を殺したのか
彼女を知る人物から証言が集められます
恋人のロベルト・プマリノはマリア・カロリナに夢中だったこと
マリア・カロリナとの交際に疲れほかの女性と婚約したこと
マリア・カロリナに電気床磨き機をプレゼントしたことで大喧嘩になったこと
(「僕の美しい人だから」で年上の彼女に掃除機を贈るのはこれが元ネタか)

電気床磨き機は当時女性が欲しい家電ナンバーワン?だったようです
でもマリア・カロリナにとって床磨き機は
「男の理想である家庭的な女性」の象徴
冗談じゃないわ、なんで女だけが掃除しなきゃならないのよ
見下さないでよ(というのは私が思ったセリフ 笑)
マリア・カロリナの頭の中は怒りでいっぱい、床磨き機を川に捨ててしまいます
良き妻、良き母を演じてきたメルセデスですが
マリア・カロリナの部屋で、彼女のガウンを着て、著書を読み
だんだんとマリア・カロリナに同化していく

ある日マリア・カロリナの男友達のひとりが尋ねてきて
メルセデスはマリア・カロリナのいとこだと嘘をつきます
そこでマリアがロベルト・プマリノを殺害した理由について
1941年、マリア・カロリナが殺人事件を起こしたのと同じホテルで
政治家であり女流作家のマリア・ルイサ・ボンバルが
恋人のエウロジオ・サンチェス・エラスリスを銃で撃ち(殺人未遂に終わる)
マリア・ルイサが無罪になった事件にマリアが影響されていたこと
作家仲間でマリアの大統領恩赦を求めると聞かされます

マリア・ルイサは時代の流れに縛られない
女性の内面に焦点を当てた前衛的でな作家で
恋人を撃ったことに対し「彼を殺すことで、私は私の不運を殺した」
と答えたそうです
メルセデスが自宅に戻ると、夫はメルセデスが浮気していることを疑います
酒の臭いを漂わせ、仕事だと言われても
濃い化粧に見たこともないスーツに高価なアクセサリー
(この男はそこでやっと妻が何度も修繕を頼んでいた床磨き機を直す)

夫の姉の家族が泊りに来て、部屋を空け渡したメルセデスが
夫と狭いベッドで寝ると夫のいびきにうんざり
ひとり出かけてマリア・カロリナの部屋で過ごしていると、夫がやって来ます
メルセデスのあとをつけてきたのです
ところがそこは愛人の部屋でなく、殺人犯の部屋
妻のことが理解できずに泣いてしまう夫
メルセデスは夫を慰め
翌朝夫が泥で汚したカーペットを掃除するのですが
やはりデリカシーがない夫は変えられない(笑)

判事はマリア・カロリナの判決をどうするか悩み
世論からの批判を考え3年の懲役刑という重い実刑を宣告します
今の常識で考えると殺人罪で3年ってとても軽い気がするのですが
当時のチリで女性に実刑判決が下されることは少なかったそうです
服役中マリア・カロリナは「Cárcel de mujeres」(女性刑務所)を出版
それまで女性刑務所内での生活が知られることがなかったため
この本は世間に大きな衝撃を与え、彼女の代表作となります

その後、作家仲間のガブリエラ・ミストラル、アマンダ・ラバルカ
マリア・カロリナが敬愛するマリア・ルイサらが恩赦を要求し
カルロス・イバニェス・デル・カンポ大統領によって許可されます
ひとりになれるオアシスにさようなら
自宅に帰ってきたマリア・カロリナを
メルセデスは向かいのカフェで見守っていたのでした

この時代から70~80年経っても男が女に求める理想像は変わらない
でも誰もがマリア・カロリナのようにはなれない
メルセデスのように家族といるときでさえ自由な時間はなく
男社会の中で上手く立ち回らなければいけないのです
なので奥さんが、こっそり外に高価で美味しいものを食べに行ったとしても
旦那さんは見逃してあげてください(笑)
【解説】Netflixより
チリの作家マリア・カロリーナ・Gが恋人を殺害し、裁判所で秘書として働く内気なメルセデスはこの事件に強い関心を抱く。やがてこのふたりの女性の人生が、思いがけない形でつながり始める。
出演:エリサ・ズルエタ、マルシアル・タグレ、フランシスカ・ルーウィン
2024|年齢制限:13+|1時間 35分|ヒューマンドラマ