鏡の中の女(1975)

無信仰者のまじないがある
「出会いによって実在できる日が来ますように」
「いつか実在できますように」

と繰り返すんだ

原題は「Ansikte mot Ansikte」

英題は「Face to Face」(顔を向きあわせて)

タイトルは新約聖書のコリント書からの引用

もともとは全4回、3時間のテレビ用のドラマを

114分の劇場用に編集したということですが

スウェーデンではこんなのテレビで流すのか(笑)

日本でも安倍元首相の襲撃事件後

宗教2世問題として、虐待、金銭的搾取、家庭崩壊、性暴力、PTSD ・・

などが取りざたされましたが、これって新興宗教だけでなく

他の宗教でも起こっている問題なのですね

保護者が、神の教え、教会の教えは正しいという思い込み

子どものため、躾という名の体罰

その傷は、大人になったとき大きな空洞をぱっかりと開ける

かって親の奴隷だった自分、今は何者になったのだろう

存在さえあるのだろうか

ヒロインのイェニーは優秀な精神科医

夫はアメリカのシカゴに出張中で、娘はサマーキャンプ

新居が出来上がるまでの2カ月間、祖父母と一緒に住むことにします

イェニーは幼い頃事故で両親を亡くし祖父母に育てられました

歓迎してくれるおばあちゃん

「昔のままにしているのよ」という、かっての子ども部屋をみて

ふと暗い気持ちになる

それからというもの、黒目の老婆の幻覚を見るようになります

担当する患者マリアの治療による改善がみられず

(意思疎通できない状態で自慰にふけっている)

同僚は脳の手術をしたほうがいいと勧めます

それだけは避けたいイェニー

同僚の元妻のパーティでは婦人科医のトーマスと知り合います

イェニーはなぜかトーマスには何でも話せました

夫が出張先で愛人を作ったこと、愛娘に避けられていること

トーマスの家まで付いていくものの

突然拒否って帰るからタクシーを呼んでくれという

自分から映画に誘っておきながら

いざそういう雰囲気になるとセックスを拒否してしまう

空き家でマリアが倒れていると連絡を受たイェニーが

かけつけ救急車を呼ぼうとすると

マリアを連れ込んだ男2人にレイプさせそうになりますが

男たちは「入らない」と諦め出て行きました

イェニーはトーマスに何が起きたかを必死に説明しようとします

「やってほしいという衝動に駆られた」

「体はこわばり 硬く閉じ 乾いていた」

唐突に始まる「笑い」「慟哭」「絶叫」

トーマスに眠りたいからと睡眠薬をねだり

セックスなしで添い寝して、手を握っていてほしいと頼みます

なのにまた突然帰ると言い出す

自分の部屋に戻り、壁紙の模様を指でなぞり

ブラームスの子守歌の旋律を口ずさむと、夢に落ちていく

赤いマントに赤い頭巾

ダリオ・アルジェントの「サスペリア」は

ベルイマンのオマージュだったのね(笑)

臭い、ヘンな臭いがする 、部屋が息苦しい

「老人は臭い」

「おばあちゃんに触られるのも気持ちが悪い」

パパがママと祖母に「ダメ男」と痛罵されてる

泣いてしまうパパ
「愛してるパパ 愛してるママ でも憎んでる」

扉を閉じてしまうパパとママ

厳格な祖母にドアの前に立たされる

クローゼットに閉じ込められる
祖母の声が責め続ける

「私はお婆さまの愛する子」

「お婆さまのところはいつも静かで安全」と何度も唱える

目が覚めると

おばあちゃんから3日間眠り続けていたと教えられます

職場には休むと電話しておいたわ

「不思議な感覚は残ってるけど不快じゃない」

コーヒーを淹れようとしたとき、再び黒目の老婆を見る

シェイドをおろしたイェニーは

睡眠薬の中身をひと瓶すべて飲み、自殺を計るのでした

封印していた記憶が、実家に戻ったことと

男たちに襲われそうになったことで、蘇ったのです

イェニーが性行為ができなくなったのも、不感症なのも

おばあちゃんに厳しく礼儀作法を教えられたトラウマから

恐怖で男性を心から愛せなくなり

娘には自分がされたのと同じように辛く当たってしまった

「許しておくれ 私が悪かった」

夢の中でおばあちゃんが謝り、安堵する

気が付くと病院で、トーマスが担当医だといいます

産婦人科医なのに? 笑)

夫がアメリカから駆け付けてきてくれましたが

仕事で明日戻らなければいけないといいます

(奥さん自殺未遂したのに?)

娘のアンナはママは偽善者だと

「ママに愛されていると思ったことはない」と言い残し去っていきます

(この母親から早々に精神的に自立できたのはいいこと)

退院し祖母の家に戻ると

悩みを打ち明けてくれればよかったのに、と心配するおばあちゃん

イェニーが「なんでもないの」と答えると(自殺しといて?)

「おじいさまが発作を起こし、もうダメな予感がするの」

”イェニーの心の声”

二人の老人を見ていた

二人だけの親密な関係だ

二人のゆるやかな動きは神秘的で恐ろしい点へと向かっていった

そこで二人は離れ離れになる

私はそこに人間の尊厳と本性を見た

愛がすべてを包み込んでいた

死さえも

おばあちゃんが犯した罪も「愛」しているからこそ

イェニーは祖母を赦すことにしたのでした

 

Face to Face

無言の老婆(死神か)は私

愛欲を求め狂ったマリアは私

じっと話を聞き我慢に耐えるトーマスは私

私は一生心の病を抱えて生きていかなければならないのだろう

でも自分を救えるのは自分しかしないのです 

(セルフ・カウンセリング)

 

イェニーは電話を取り

「明日7時に出勤する」と伝えるのでした

 

もしかしたら、自殺したことも

「夢」または「願望」だったのかもしれません

 

 

【解説】映画.COMより

女医が突然精神的な病いに陥りはじめて絶望的な苦悩を経験するという、生と死と愛をテーマにした人間ドラマ。製作・監督・脚本は「秋のソナタ」のイングマール・ベルイマン、撮影はスヴェン・ニクヴィストモーツアルトの『幻想曲』ハ短調のピアノ演奏はチェービー・ラレテイ、編集はシブ・ラングレン、製作デザインはアンネ・ハーゲゴード、メークアップはセシリア・ドロットが各々担当。出演はリヴ・ウルマン、エルランド・ヨセフソン、アイノ・トーベ・ヘンリクソン、グンナール・ビヨルンストランド、カリ・シルバン、シフ・ルード、スヴェン・リンドベルイなど。

1975年製作/スウェーデン
原題:Face to Face Ansikte mot Ansikte
配給:東宝東和