原題も「Tar」(主人公の名前)
突然エンドクレジットから始まるこの映画
アメリカ映画は組合の要請で
キャストリストの他に(わずかでも)映画にかかわったスタッフや
企業の名前を全部出すという決まりがあるそうです
だからやたらと長いんですね
なのでエンドクレジットの途中で退席してしまう人を
防止するためと思ったんですけど、違いました
ラストを際立させるためだったそうです
それが「どっきり」かよ!くらいのオチで
私なんて椅子から落ちそうになりましたよ(笑)
アメリカでは劇場内が騒然となったそうです
「なに?なに?どういうこと?」って(笑)
幽霊(人影)が映っているという指摘もありますが
そこは心理状態を現わす演出だと思いました
実際に起こったオーケストラ指揮者の職権乱用事件
ニューヨークメトロポリタンオペラの首席指揮者だった
ジェームズ・レヴァイン、などがモデルだそうです
テーマはパワーハラスメントと
キャンセル・カルチャー(いわゆる炎上)ですが
見どころはやはり、リハーサルシーン
昔「指揮者たちのリハーサル」という番組を見たことがあるのですが
これがすごくよかった
(クラッシックを知らなくても)解りやすいマエストロの解説
作曲家がどのような思いで曲を書いたか、どのようなイメージか
上質のドラマの朗読を聞いているような面白さ
ケイト・ブランシェット演じるター、マエストロも
ひとつひとつの音に細かい指示を出していきます
終盤では子どもの頃見た指揮者のリハーサルビデオを見つけて
涙を流すシーンがありますが、それくらい共感するんですよ(笑)
冒頭のインタビューだけでターがどれほど凄い人物かわかります
民族音楽に造詣が深くアマゾンのシピボ族の歌を研究、ハーバード大卒
「EGOT」(イゴット)のひとり
(エミー賞の「E」グラミー賞の「G」アカデミー賞のオスカーの「O」
トニー賞の「T」全てを制覇した人のことで歴史上15人しかいない)
アメリカの5大オーケストラの指揮を務めたのち
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団初の女性首席指揮者
名門ジュリアード音楽院で指導し、多くの優秀な人材を音楽界に送り出している
現在は唯一未録音の「マーラーの交響曲第5番」のライブ録音を控えている
ターの仕事を支えているのが、自らも指揮者を目指すフランチェスカ
付き人をしながらマエストロの勉強をしているんですね
ターから推薦を受けるため、我儘にひたすら耐えています
もうひとりクリスタという女性がいましたが、ターに破門された様子
クリスタからのメールは無視
贈られてきた本(「Challenge」の初版 )はトイレのゴミ箱に捨てる
ターは横暴な女なんですよ
ジュリアードの授業では、緊張で足が震えてしまう男子学生にイラつき
学生が「あまりバッハとか好きじゃない」と答えると
あらゆる知識をぶつけ、論破して辞めさせてしまう
パートナーでもあるシャロンから
養女のペトラが(両親がレズだと)いじめられていると聞くと
そのいじめっ子に「今度ペトラをいじめたら、あんたの人生を潰す」
「誰かに言いつけても無駄」「私は有名人、大人は皆私のほうを信じる」と
10歳くらいの女の子を、本気で脅すんです(笑)
長年ベルリン・フィルに尽くしてきた副指揮者を意見が違うからとクビ
次に選んだ副指揮官は、フランチェスカではなくカナダのベテラン
お気に入り研修生オルガの得意曲「エルガーのチェロ協奏曲」
一応オーディションは行われたものの、ほかの奏者は準備に間に合わない
結局オルガが選ばれます
ベルリン・フィルのメンバーは皆、内心はタ―に不満を持っています
でもマエストロに口答えできる奏者やスタッフはいません
それはフィルを辞める時だから
でもタ―にも悩みはありました
耳が聞こえすぎて夜眠れない
ちょっとした雑音や(冷蔵庫の電子音など)
ものすごく遠くの車の音まで気になってしかたがない
さらにクリスタが自殺したという知らせが入り
クリスタの両親から告発され
副指揮官に選んでもらえなかったフランチェスカは姿を消し
辞めた男子学生の(編集された)動画が拡散
オルガに気に入られようと、ソロレッスンするものの
彼女が住んでいる場所まで送っていくと
そこは廃墟で、犬に吠えられ転んで顔に大怪我
オルガを講演のためのニューヨークに連れて行っても
オルガは講演に興味なく、男の子といちゃつき
影ではLINEでターの悪口を友人に送っています
オルガはベルリン・フィルでNO.1チェロ奏者になるため
ターがレズビアンなのを利用しただけなのです
しかもオルガと講演会場に入る動画が「次の被害者」だと炎上
シャロンにオルガとニューヨークに行ったことがばれ
シャロンから娘のペトラより、オルガを過ごすことを選んだこと
告訴のことを秘密にしていたのも許せない
離婚を突き付けられてしまいます
仕事場で寝泊まりするようになったター
今度は隣の部屋のオーナーから(元々住んでいたばあさんが死んだ)
アパートを売るのに騒音(音楽)で価値が下がると苦情を言われます
(その気持ちをアコーディオンを奏でて歌うばかばかしさよ)
因果応報って本当にあるから
自分のしたことは100%の確立で自分に戻ってくるから(笑)
トイレから出て、燕尾服で颯爽と会場に向かうター
しかしすでに演奏は始まっており・・
ターは指揮をするエリオットに殴り倒し
警備員に取り押さえらてしまいます(あたりまえ)
それからターは「アーティストマネージメント社」に登録し
実家に身を隠していました
やがてフィリッピンから日本人作曲のオケに招かれます
現地の人々は温かく、若いスタッフと川を上り滝まで泳ぎにも行きます
(川は「地獄の黙示録」の撮影で持ち込んだワニが繁殖し泳げない)
ホテルでマッサージを希望すると、高級そうなお店を紹介してくれますが
なんだか不思議なシステムで、店を出たとたんターは吐いてしまいます
(どんなサービスだったか気になるんですけど 笑)
リハーサルではベルリン・フィルのときと同じように
熱心に楽譜を研究し
ターが紐解いた曲の意味をオケに解説します
そしてついに再出発のコンサート
かってのコンサートホール(2,440席)とは違い、小さめで照明は暗い
ナレーションが入り、スクリーンにはエンブレム
ファンで埋め尽くされたこの劇場に、力強い演奏が響くのでした
この作品、もともとはLGBTや性差別を描くものではなく
主人公も男性だったそうですが
現在活躍する俳優でマエストロを演じられるのは
ケイト・ブランシェットしかいない!ってことで
脚本を女性に書き換えたらこうなったそうです
「エブエブ」もですが、映画の世界も時代が変わりました
はっきりいってこれ、若者にしかウケないネタです(笑)
でも面白かったですよ
階段で転んで顔を大怪我したとか(転び方がまた上手い)
吹き出しそうになりましたから(私だけ? 笑)
【解説】映画.COMより
「イン・ザ・ベッドルーム」「リトル・チルドレン」のトッド・フィールド監督が16年ぶりに手がけた長編作品で、ケイト・ブランシェットを主演に、天才的な才能を持った女性指揮者の苦悩を描いたドラマ
ドイツの有名オーケストラで、女性としてはじめて首席指揮者に任命されたリディア・ター。天才的能力とたぐいまれなプロデュース力で、その地位を築いた彼女だったが、いまはマーラーの交響曲第5番の演奏と録音のプレッシャーと、新曲の創作に苦しんでいた。そんなある時、かつて彼女が指導した若手指揮者の訃報が入り、ある疑惑をかけられたターは追い詰められていく。
「アビエイター」「ブルージャスミン」でアカデミー賞を2度受賞しているケイト・ブランシェットが主人公リディア・ターを熱演。2022年・第79回ベネチア国際映画祭コンペティション部門に出品され、ブランシェットが「アイム・ノット・ゼア」に続き自身2度目のポルピ杯(最優秀女優賞)を受賞。また、第80回ゴールデングローブ賞でも主演女優賞(ドラマ部門)を受賞し、ブランシェットにとってはゴールデングローブ賞通算4度目の受賞となった第95回アカデミー賞では作品、監督、脚本、主演女優ほか計6部門でノミネート。
2022年製作/158分/G/アメリカ
原題:Tar
配給:ギャガ