梅切らぬバカ(2021)

タイトルの「桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿」は

枝の切り口腐りやすいためむやみに剪定してはならず

梅は無駄な枝を切らないと、良い花や実がつかなくなる

「個性に応じた手の掛け方が大切」という意味だそうです

 

テーマは障害者とその親の高齢化

かといって社会問題を躍起するものではなく

「お互いの個性を尊重しよう」というもの

加賀まりこさん、54年ぶりの主演作ということですが

自然体でしたね、本人まんま(笑)

パートナー(演出家の清弘誠)の連れ子さんが自閉症

やはりご自身の経験が活かされているのでしょうか

 

塚地武雅さんはよく研究したのだと思います

多才な方なんでしょうね

都会の古民家に住む80歳の母親、山田珠子(人気占い師)と

49歳の自閉症の息子の忠男こと「チューさん」

お隣に引っ越してきた里村家の奥さん、英子から

道路にはみ出ている梅の木が邪魔なので切って欲しいと頼まれます

珠子は謝り、近いうちに剪定すると約束しました

 

チューさんは毎日、起きるのも、朝食も、髭を剃るのも同じ時間

ゴミを捨てバスに乗り工場に向かいます

同じルーティーンでなければパニックになってしまう

そして「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い

Extremely Loud & Incredibly Close 2011という映画もありましたが

発達障害の特徴のひとつが、音に対して極度に敏感であること

チューさんも音に過敏で、場合によっては暴れてしまいます

 

ならばチューさんが工場に行っている間に切ればいいと思うわけですが

チューさんが梅の木は父親が植えた形見だと思っていること

枝の下を通る毎朝のルーティーンが変わってしまう

珠子は剪定することに踏み切れずにいました

そんなとき珠子に、工場長兼障害者向けグループホームの経営者大津から

空きが出たのでチューさんを入居させないかと声がかかります

チューさんの50歳の誕生日、珠子が「ここを離れて暮らせる?」聞くと
チューさんは意外にもあっさり「イエス

しかも「お嫁さんをもらいます」の結婚宣言(笑)

 

そこで珠子チューさんを連れホーム見学に行くと

近隣住民がホームの存続に反対する集会が行われていました

外出した入居者とトラブルがあり(それで退去させられ空き室が出た)

知的障害者は危険」「土地の価格が下がる」とクレームをつけてきたのです

その中のひとりが乗馬クラブを経営している奈津子でした

珠子は「乗馬クラブの馬もしょっちゅう脱走している」

迷惑をかけているのは「お互い様」と詰め寄りました

グループホームへの入居を検討していると

チューさんが里村家の敷地に入っているところを主人の茂に見つかり

怒った茂は「次に入ったら警察を呼ぶからな」と追い出します

チューさんは息子の草太に拾った野球ボールを届けにきただけでした

 

そこで転校先の学校にも塾にも馴染めないでいた草太は

ボールのお礼に梅の実を拾い珠子に持って行きます

珠子はその実で腰痛に効くという「梅肉エキス」を作り

草太は珠子とチューさんと仲良くなります

数日後、梅の木を剪定するため植木屋がやってきました

チューさんを刺激しないよう、小枝をハサミでちまちまと切っていると

通りがかった英子に「日が暮れちゃう」言われてしまいます

そこで植木屋がノコギリを持ち、枝をギコギコはじめると

チューさんは大パニック、作業どころではありません

その様子を見て、英子は簡単に「木を切ってくれ」と言えなくなります

 

やがてチューさんがホームに入ると、寂しがっている珠子のため

草太がチューさんの代わりにゴミを出したり

珠子の話し相手になってくれました

ある夜、同じホームのテツさん(行儀が悪い 笑)に

ジュースを奪われてしまったチューさんは

パジャマのまま抜け出し自動販売機でジュースを買っています

塾の帰りチューさんを見つけた草太は

馬好きのチューさんを連れて乗馬クラブに忍び込みます

ポニーを撫でたり、散歩させて楽しんでいましたが

厩舎の職員に見つかってしまいました

 

草太は逃げ、ポニーは脱走

チューさんは捕まってしまいます

しかも脱走したポニーが自治会長の北村とぶつかり、北村が怪我

チューさんは責任を取ってホームを退所

地域住民はホーム反対の署名運動を始めます

草太は両親に、チューさんを連れて行ったのは自分だと正直に話しますが

茂の答えは「黙っとけ」でした

しかし時間が経つにつれ、茂にも後ろめたさと罪悪感が芽生えます(笑)

勇気をもって珠子の家に謝りに行くと

 

そこには英子と草太の姿があり

チューさんのお帰りパーティをやっていました

ビールを勧められ、酔っぱらった茂は

「ここにグループホームを建てればいい」 と叫びます

翌朝からチューさんは、また同じ時間、同じパターンの繰り返し

出勤する茂を見つけた珠子が「本当に建てるわよ」と言うと

茂は何も覚えていない様子でした

 

設置基準のクリア、資金の調達、経営のノウハウのある取締役と

人員の確保ができれば、起業は夢でないそうです

「少人数型ケアホーム 梅の木の家」なんか素敵ではないですか

頑張れ茂、やるのはオマエしかいない(笑)

グループホームの経営の雑さや(夜中に入居者同士の喧嘩や脱走)

近隣住民とのトラブルなど、描き切れていない部分はありましたが

77分と短い尺で、わかりやすく見やすい

 

この作品を見たひとりでも多くの人が

障害者を理解し、支援に繋げていけるようになればいいなと感じました



 

【解説】映画.COMより

加賀まりこ塚地武雅が親子役で共演し、老いた母と自閉症の息子が地域コミュニティとの交流を通して自立の道を模索する姿を描いた人間ドラマ。山田珠子は古民家で占い業を営みながら、自閉症の息子・忠男と暮らしている。庭に生える梅の木は忠男にとって亡き父の象徴だが、その枝は私道にまで乗り出していた。隣家に越してきた里村茂は、通行の妨げになる梅の木と予測不能な行動をとる忠男を疎ましく思っていたが、里村の妻子は珠子と密かに交流を育んでいた。珠子は自分がいなくなった後のことを考え、知的障害者が共同生活を送るグループホームに息子を入れることに。しかし環境の変化に戸惑う忠男はホームを抜け出し、厄介な事件に巻き込まれてしまう。タイトルの「梅切らぬバカ」は、対象に適切な処置をしないことを戒めることわざ「桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿」に由来し、人間の教育においても桜のように自由に枝を伸ばしてあげることが必要な場合と、梅のように手をかけて育てることが必要な場合があることを意味している。加賀にとっては1967年の「濡れた逢びき」以来54年ぶりの映画主演作となった。

2021年製作/77分/G/日本
配給:ハピネットファントム・スタジオ