アルゼンチン1985 〜歴史を変えた裁判〜(2022)

原題は「Argentina, 1985

1976年から1983年まで続いた独裁政権(汚い戦争)で

アルゼンチンを支配した軍事政府のメンバーの

司法裁判(フンタス裁判)の再現ドラマ

 

アルゼンチンの歴史を知らなくても、法律に詳しくなくても

わかりやすく、感情移入できると思います

映画としてもサスペンス要素があって面白い

法のうえでは上級も下級も平民も国民は平等

忖度など一切ありません

日本よりよほど三権分立している

 

しかも、政府高官に逆らえば出世できない

クビにされるのレベルではないのです

家族が誘拐されるかも知れない、殺されるかも知れない

それでも立ち向かうって、本当に強い信念と

勇気がないと出来ることではありません

汚い戦争時代、不当に逮捕・監禁・拷問された被害者は3万人以上

行方不明になった人たちも多くいます

アルフォンシン政権が、それらの指導者たちを逮捕するため

検事に任命したのはフリオ・セザール・ストラッセラと

ルイス・モレノ・オカンポ副検事

(後に最初の国際刑事裁判所の主任検察官になる)でした

フリオは裁判未経験のルイスと組むのを不安に思いますが

逆にそれがよかった

若く正義感があり、なにより「しがらみ」がない

 

数千人の被害者や目撃者から証言を集めるための「失踪委員会」でも

ルイスと同じように軍事政権下での「なあなあ」な仕事に不満を持っていた

若いメンバーを採用することにします

ハイライトは、拷問された当事者や家族による証言シーン

拷問は妊娠した女性でもおかまいなし

何の証拠もない冤罪、いくら拷問されても答えられるはずがない

軍や警察もそれはわかっている

彼らも最初は命令され

自分を守るためやるしかなかったと思うんですね

でもアウシュビッツと同じ

やがて感覚は麻痺し、被害者をひざまずかせ奴隷のように扱い

権力をふりかざす快感を覚えてしまったのです

恐怖を与えることによる支配

フリオとルイスはそのことを

軍の指導者の指示により行われたという証拠を掴むため

過去資料を全て調べることにします

ファシストによる非道な軍事政権下であっても記録は記録

日本のように黒塗りされてはいませんでした(笑)

準備に準備を重ね、ついに裁判の初日

裁判所爆弾を仕掛けたという脅迫電話があり

弁護士チームは安全が確認されるまで

裁判を無期限で延期することを主張します

それは永遠に裁判が行われない可能性を意味していました

それだけは断じて避けなければならない

フリオの訴えを裁判官は承諾し裁判は決行

裁判官がマトモな人でよかった()

クライマックスの最終論告のスピーチは感動

法の下の平等をいかに訴えるか

どんな政府高官あろうと罪は償わなければいけない

 

結果は、ホルヘ・ビデラ将軍とエミリオ・マッセラ提督に終身刑

ロベルト・ヴィオラ将軍に17

アルマンド・ランブルスキーニ提督に8

オーランド・アゴスティ将軍に4年半

他は無罪放免となります

全員終身刑を目指していたフリオは落ち込みますが

息子が「やったね」と励まします

「次は全員終身刑だ」

 

その言葉に、フリオは上訴することを決める

そこで映画は幕を閉じますが

2006年、元将軍で警察長官ラモン・キャンプの右腕だった警察官

ミゲル・エチェコラッツが終身刑の判決を受けた直後

裁判で証人として発言したフリオは突然姿を消し

未だ行方不明のままだそうです

 

 

【解説】映画.COMより

1985年のアルゼンチンであった軍事独裁政権の弾圧に対する裁判を映画化したリーガルサスペンス。フリオ・ストラセラ検事、ルイス・モレノ・オカンポ副検事、そして法を信じる若者たちが一丸となり、強大な相手との裁判に挑む姿を描いた。
1976
年のクーデターによって樹立されたアルゼンチンの軍事独裁政権は、国民に過剰な弾圧を行っていた。政権崩壊後の1985年、弾圧の犠牲者たちに正義をもたらすため、フリオ・ストラセラ検事らは限られた準備時間のなか、脅しや困難にも屈せず、軍事独裁政権の幹部たちの責任を追及していく。
主演は「瞳の奥の秘密」などで国際的にも知られるアルゼンチンの名優リカルド・ダリン。監督は「サミット」などでもダリンとタッグを組んできたサンティアゴ・ミトレ。2022年・第79ベネチア国際映画祭コンペティション部門出品。Amazon Prime Video20221021日から配信。

2022年製作/141分/アルゼンチン・アメリカ合作