ドリームプラン(2021)

原題は「KING RICHARD」(リチャード王)

でも「プラン」が物語を支配するキーワードなので

この邦題は最近では珍しく好い出来(笑)

 

公私ともに親ばか(というよりバカ親)をやらせたら

ウィル・スミスにかなう俳優はいない(笑)

しかし2021年のアカデミー賞授賞式で

妻を侮辱されたと思い込んだウィル・スミスが

プレゼンターのクロス・ロックを平手打ちにしたことで

映画の影は薄くなり、見る気さえおきなくなった災難な作品

ビーナスとセリーナ、共演者たちに同情します

だけど映画に罪はない(笑)

サクセスストーリーは多くあるけど、毒親が主人公は珍しい

でも差別や暴力を受け続けると

子どもを守るため行き過ぎた愛情をかけてしまうのはわかるし

何より子どもたちが可愛いので、いやな気分にはなりません

カリフォルニア州コンプトンで

妻のブランディ(ソジャーナ・トゥルースを敬愛している)

5人の娘(上の3人は妻の連れ子)と暮らすリチャードは

ビーナスとセリーナふたりの娘の才能をテニス関係者に売り込んでいます

しかし見ず知らずの黒人の男の話になど誰も耳を貸しません

ビーナスとセリーナは地元の汚れたテニスコートで練習するしかない

そこでは不良たちが娘に絡んで来て、リチャードも袋叩きにあいます

それでもリチャードは諦めない

彼には「プラン」があり、それを実行することが全てだからです

リチャードはポール・コーエンというコーチに会いに行き

(マッケンローとピート・サンプラスが練習している)

リチャードのあまりのしつこさに

ポールは渋々ビーナスとセリーナをコートに入れますが

ふたりのテニスの才能に驚き

無料でふたりをコーチする余裕はない

姉のビーナスだけ預かることにします

「プラン」「プラン」といってもほとんどがビーナスのためのもの

スポットライトはビーナスに当てられているのです

落ち込むセリーナ

母のブランディはセリーナを励まし

ビーナスの練習ビデオを研究しセリーナをコーチします

実はリチャードよりブランディのほうがコーチとして上だと思う(笑)

ポールはビーナスをジュニアトーナメントに参加させ

ビーナスは初大会で優勝します

するとリチャードは喜ぶ姉妹たちに「シンデレラ」を見せ

謙虚であることを説教するのです(まずオマエが謙虚になれ)

連勝を続けるビーナスのトーナメントのひとつに

セリーナは両親に内緒で勝手に申し込み、10歳の部で優勝します

やがてビーナスをプロにしたいと著名なエージェントが現れますが

リチャードは言葉尻を捕えては

上流社会の白人に馬鹿にされたと受け止め

ジュニアトーナメントに出場させることを完全に拒否

今まで世話になったポールまで解任してしまうのです

そこにフロリダにある全米プロテニス協会(USPTA) から

ふたりのプレーを見るためリック・マッシがやって来ます

リチャードはビーナスとセリーナを彼の施設で訓練させる条件として

(大学に通う長女を除く)家族全員で引っ越すこと

家とキャンピングカーを用意することを条件に出します

さらに試合には出さず、普通の女の子と同じように

学校と教会(エホバ)に通わせること

なのでその後3年間、ビーナスはトーナメントにも

メディアに出ることもありませんでした

代わりにカメラの前に登場するのは、毒を吐くだけのリチャード(笑)

まわりの子がどんどんプロデビューしていくなか

試合に出れず我慢できなくなったのは、リックでなくビーナスでした

リックになんとかパパを説得してと頼むビーナス

そんなときリックの教え子のひとり

ジェニファー・カプリアティの麻薬所持が報道され

娘を麻薬中毒者にはしないと、またまた出場を拒むわけですが

ブランディから離婚まで切り出されたら、渋々同意するしかない

(生活費は全てブランディが看護師として働いている)

驚くべきはこんな封建的な親父に娘たちが反抗もせず

(隣家から虐待で通報されるくらいだから、たぶん相当なもの)

素直に、しかも文武両道すくすくと育ったこと(母親のおかげだろうな)

 

制作総指揮に加わったセレナとヴィーナスによれば

映画は「可能な限り」現実に忠実に再現されたそうです

 

そしてついにビーナスのプロデビュー戦

バンク・オブ・ザ・ウェストクラシックの日がやってきます

最初からアメリカンドリームにはならなかった

ビーナスは2回戦でサンチェス・ビカリオから

技術よりむしろメンタル

初めて負ける、という屈辱を味わいます

試合後、無言でコートを見つめるセリーナの姿がいいですね

カメラはロバート・エルスウィット

 

でも家族がスタジアムを出ると、そこに待っていたのは

多くのサポーターと歓声でした

そして9か月後、ビーナスは15歳でリーボック1200万ドル

1ドル130円として156千万円)で契約

ウィンブルドン5回優勝

世界ランキング1位になった最初のアフリカ系アメリカ人女性

 

年後プロになったセリーナ23回のグランドスラムチャンピオン

テニス史上最高の女性プレーヤーと見なされていま

 

もしリチャードがビーナスのエージェントを断らなければ

ビーナスにもさらなる栄光が待っていた気もしますが

宿命ばかりはどうにもならない

暗転後のホームビデオの映像にはウルっときますね(笑)

こんな父親のために、こんな父親だから

娘たちも母親も、たゆまぬ努力と苦労を捧げたんだね

だけどリチャードはビーナスとセリーナの成功の後、ブランディと離婚

若い奥さんと再婚し息子を授かり(その女性とも2017年に離婚)

さらに結婚以外でも息子をもうけ

(最初の結婚では妻と幼い5人の子どもを棄て失踪している)

 

ビーナスとセリーナの異母姉妹は

今ではリチャードのことを

精子提供者」と呼んでいるそうです



【解説】allcinema より

ウィル・スミスが女子テニス界のスーパースター、ビーナス&セリーナ・ウィリアムズ姉妹を育てた破天荒な父親を演じた伝記ドラマ。テニス未経験にもかかわらず、娘たちを世界チャンピオンにするという固い意志と独学による型破りな指導法で、不可能とも思える夢を実現させた父親と娘たちの驚きの実話を映画化。共演はアーンジャニュー・エリス、トニー・ゴールドウィンジョン・バーンサル。監督は「ジョー・ベル ~心の旅~」のレイナルド・マーカス・グリーン。
 カリフォルニア州のコンプトンに暮らすリチャード・ウィリアムズは、2人の娘ビーナスとセリーナを最高のテニスプレイヤーに育てると決意し、そのための詳細な計画書も作成していた。治安の悪い劣悪な環境の中、独学で姉妹を指導していくリチャード。姉妹もそんな父の熱意に応えてみるみる成長していく。いよいよ専門的な指導が必要になってくるが、貧しいリチャードには一流のコーチを雇うためのお金もコネもなかった。それでも、なんとかして姉妹にコーチをつけようと奔走するリチャードだったが…。