水の中のナイフ(1962)

原題も「Nóż w wodzie」(水の中のナイフ)

舟と、ふたりの男とひとりの女の映画として思い浮かべるのは

太陽がいっぱい」(1960)「冒険者たち」(1967

狂った果実」(1956)と、そして本作(笑)

ポランスキーのデビュー作として有名ですね

脚本はイエジー・スコリモフスキ

当時ポーランド人民共和国ソ連に従属する衛星国で

(独立はしているが、大国に主権を握られている国)

ポーランド統一労働者党共産党独裁体制のなか

このような映画を撮るには大変な苦労があったそうです

なんでもマズリアの湖ポーランドの観光地)での

優雅な週末の魅力を見せるため、という口実

撮影の許可を得たとか(笑)

しかし「西側のモデルを模倣」「現実からの分離」「若者に悪影響」

と言う理由で国内では2週間で上映禁止

一方で共産党当局は本作をヴェネツィア、プラード(フランス)

ニューヨーク、テヘランなどの映画祭に送り(矛盾してんなあ 笑)

アカデミー賞ではポーランド映画初の外国語映画にノミネート

(結果フェリーニの「8 1/2」に敗れる)

ポーランドにとって貴重な輸出品のひとつになるわけですが

 

ポランスキーポーランドでの映画製作に未来を見出せずフランスに亡命

当局は彼を「国家的裏切り」と批判したそうです

簡単なストーリーは

若い男の前で妻にいい恰好を見せようとして

逆に最低の男を演じてしまい、妻に浮気されてしまう夫の話

 

ジャーナリストのアンドジェイ(レオン・ニェムチック)と

妻のクリスティーナ(ヨランタ・ウメッカ)は

ワルシャワから湖水地方へドライブして

自家用ヨットでセーリングするのが毎週末の日課

そこに若い男(ジグムント・マラノビッチ)がヒッチハイク

それも危険に道を塞いでいる

アンドジェイは19歳の学生を名乗る青年(名無し)に激怒するものの

彼を車に乗せ半ば強引にセーリングに誘います

 

すると青年はクリスティーナの重そうな荷物を運んだり

保存食の黒大根を出したり、食器を運ぶのを手伝ったりと

親しげなふたりにアンドジェイの嫉妬心が芽生えます

ブルジョアな生活を見せつけ、「もやいを巻け」 と命令

中州でヨットをロープで引かされたり、甲板掃除に熱い鍋

アンドジェイのサディズムエスカレートしていく

(妻に渡した穴の開いた浮き輪のシーンはギャグだけど 笑)

 

やがて凪になり、暇をもてあました青年は

どうしても帰りたい言い出しオールで漕いだり

マストのてっぺんまで昇ったりします

やがて台の上で手の指の間にナイフを突き立てる遊びを始めます

トントントントン・・・

その青年が大事にしているナイフを

自分のガウンのポケットに隠してしまうアンドジェイ

怒った青年とアンドジェイは揉み合いになり

アンドジェイはナイフ投げ、ナイフは湖の底に沈んでしまいます



湖に飛び込む青年

彼は泳げないのよ、とダイブして助けに行くクリスティー

でも青年は見つからない

・・・溺れ死んでしまった

警察に通報しなきゃと言うクリスティーナに

あんな名前も知らない奴、死んでもバレないと

アンドジェイは彼のバッグを湖に捨てようとします

 

警察に行くのが怖いんでしょ

あの子を乗せてあげたのも自慢したかっただけ

あんたなんてただの見栄っ張りだと罵るクリスティー

このヒステリーのアバズレ、警察なんて怖くないと湖に飛び込み

岸に向かって泳ぎだすアンドジェイ

そこにブイの影に隠れてしがみついていた青年が、ヨットに上がってきます

泳げないと嘘をついていたのねと、青年にビンタするクリスティー

大声でアンドジェイを呼び戻しますが、クリスティーナの声は届きません

冷静になったクリスティーナは青年に呟く

あんたは彼とそっくり子どもね

私にも経験あるわ、狭い寮で共同生活、あの人もね

六人部屋でろくに眠れやしない、勉強するのも一苦労

なけなしの奨学金で学食とタバコ(寮の玄関で)キス

でもあなただって彼みたく(金持ちに)なれるわ、努力すれば

冷えきった青年の服を脱がせ

バスタオルで身体を拭いてあげるクリスティー
やめろよ!
やっぱりまだ子どもね
何だと?
いいのよ


見つめ合いキス

2度目のキスで青年はクリスティーナを抱き寄せます

クリスティー船着き場前の岸辺で青年を下船させ

元気を取り戻した青年は颯爽と走り去って行

船着き場ではアンドジェイがクリスティーナの帰りを待っていました

 

警察には行ったの?
パンツ姿で行けるか、車の鍵も持ってない

(飛び込む前にわかるだろ 笑)

家へ帰る?
警察だ

警察は中止よ 彼は生きていたのよ

そんな嘘はよせ 夫を守るけなげな妻のつもりか

彼は生きて 私を抱いたわ

なぜ浮気したなんて言うんだ
ごめんなさい 取り消すわ

俺こそ悪かった

アンドジェイは自らの行為が過ちであったことを認めることで

妻に青年のように挑戦的な若造とは違う

責任ある大人の男であることを解ってほしかった

 

青年は尖ったナイフ

水の中に沈んだナイフは中年男のことか

そして夫婦とは航海と同じ、嵐や凪を乗り越えていくもの

倦怠期の夫婦は新しい関係を再生させたのでした

妻が主導を握るという(笑)



【解説】allcinema より

 亡命作家ポランスキーが祖国ポーランドに残した唯一の長篇。「早春」(70)のスコリモフスキーが共同脚本。強烈な戦争体験からメッセージ性の強い作品を放ったワイダなど旧世代とは異なる、より内省的な作風が彼らの共通項で、本作も登場人物は僅かに三人。裕福な知識階級の壮年の夫と美しいその妻のヨット遊びに、ヒッチハイクで拾った反抗的な貧しい若者が同行する。ヨット上で過ごす二日の間に起こる、それぞれの感情の揺れを鋭利な映像感覚で紡ぐ。ことごとく対立する夫と若者の新旧の価値観の間で不安げに佇む妻はやがて青年に傾斜していくが……。沼沢地帯の空と水の光陰を鮮やかに切り取るリップマンのキャメラが素晴らしい。当時、音楽学校の学生だったヒロインのウメッカの官能的な存在感も忘れ難い(後にもう一本に出演しただけで映画界を退いた)