袋小路(1966)

原題も「CUL-DE-SAC」(袋小路=行き詰まり)

クラッシック映画の名作を見て思うことは

とびきりの美人女優が出ているだけで傑作になること

その役がアバズレだろうがビッチだろうが

可愛い小悪魔にしか見えないことを、名匠はわかっている

ロケ地はイングランドの北東海岸沖にある潮汐(ちょうせき)の島

リンディスファーン(ポランスキーは「マクベス」でも撮影に使っている)

潮汐とは満潮時に通路が水没する自然の孤島で

有名なのはベネディクト会修道院のあるモンサンミッシェル

 

そんな古い城付きの島を、若くて美人で自由奔放な後妻と

ふたりきりで暮らすために買った元工場主のアマチュア画家

(島を買ってお金がなくなった)

でも退屈な奥さんは若い男の来客があれば浮気しています(笑)

そこに銀行強盗に失敗したアメリカ人のギャングがやって来て

夫婦を振り回し、自分も振り回されるという

プチ「ストックホルム症候群」のブラック・コメディ

(シュールで笑えないけど 笑)

故障した車を押す片腕に傷を負ったディッキー(ライオネル・スタンダー)

運転席には背中に銃弾を受け動けない相棒アルビー

ディッキーはボスに助けを求めるため、ひとり電話を探しに行き

丘の上にある城を見つけます

そこでディッキーは食料を漁り、疲れて眠ってしまう

(その間満潮がアルビーを襲う)

城の主人ジョージ(ドナルド・プレザンス)と

若妻のテレサフランソワーズ・ドルレアック)が帰り

コスプレプレイに夢中になっていると、不審な物音

我に返ってボスに電話するディッキーと鉢合わせ

(ボスは電話に出ず、代わりの仲間が "好きにしろ" と伝言)

ディッキーは夫婦に銃を振り回し

アルビーを迎えにいくことを強要します

なんとか島まで運んだものの瀕死のアルビー

慎重で臆病なジョージと、好奇心旺盛なテレサ寝室に閉じ込められますが

窓から抜け出したテレサは酒を持ち、墓穴を掘るディッキーを手伝います

翌朝アルビーは死んでいました

アルビーと一緒にジョージを埋めようと悪戯するディッキー

海に泳ぎに行く自由なテレサ

 

ヘリコプターが飛んでくると「ボスだ」と喜ぶディッキー

あれは毎朝飛ぶ巡回だと説明するジョージ

 

車が来れば「ボスだ」と喜ぶディッキー

それはジョージがあまり歓迎していない友人一家

 

沖にボートが到着すると、ついに「ボスだ」

現れたのはテレサの愛人(笑)

来客の前でテレサはディッキーを「リチャード」と呼び

お酒を出して、場所は知ってるわね

料理を作って、と言いたい放題

ディッキーも臨機応変に奥さま、旦那様

腕を怪我してチキンは無理、オムレツならと答えます

テレサは来客の若旦那とイチャイチャ

若奥さんはサングラスで無言のジャクリーン・ビセット

小僧は憎たらしい悪ガキ

テレサと海老捕りに行きたい間男

ジョージもディッキーもストレスMAX

ブチ切れて彼らを追い出しますが

切られた電話線や

悪ガキが持ち出したライフル(弾は抜かれてる)が

うまい伏線になっています

 

いつまでたってもボスが来ないことに苛立ったディッキーが

もう一度連絡をしようと、電話線を繋ぐのに必死になっているとき

テレサはディッキーの上着から銃を盗み

ジョージに撃ってと命令します

一方繋がった電話の先で、ディッキーは仲間から

ボスは来ないことを知らされます

テレサが「アイツに襲われた(犯された)」と嘘をついても

ディッキーを襲えないチキンなジョージ

 

さすがに高級車を盗み本土に帰ろうするディッキーと

喧嘩になったとき(妻より車かよ)思わずジョージは発砲

重症を負ったディッキーは鶏小屋に隠した車から

トミーガン(古いマシンガン)を取り出し銃口を向けます

テレサを盾にしようとするジョージ

(これが本当のレディ・ファースト 笑)

が、ディッキーはそのまま倒れ

のび太ジャイアンを偶然倒したってやつ)

正当防衛よ、城を捨てて逃げましょうと説得するテレサ

でもジョージはショック状態で思考が働かない

そこに突然車が近づいてきます

今度こそ本当にボスが来たかと、食器棚に隠れるセシル

それはライフルを忘れた昼間の若旦那でした

セシルはイカれた旦那を置き去りにし

警察に通報するため去っていきます

 

ひとり残されたジョージは潮が上昇していく岩の上に座り

(前妻の名前)アグネスを呼んでいました

美しい若妻を手に入れるため、何もかも捨てたはずのに

最後に会いたいのは古女房という皮肉

女はこんな裏切り男、二度と会いたくないけどね(笑)

 

逆にディッキーは粗野な極悪人だけど

すでに手遅れの相棒を助けようとしたり

(双眼鏡やラジオを持ち出すのも相棒のため)

自分たちを捨てたボスを待ち

全裸同然の人妻を目の前にしても、性欲の対象にはしません

少年のようにピュア

初期のポランスキーは(ヴィスコンティもだけど)

禁断へのチャレンジ

正統的な映画の美学を目指しながらも

「ありきたり」を徹底的に拒否する願望に駆られたそうです

 

16ベルリン国際映画祭では金熊賞を受賞

そして冒頭でも述べた通り、とびきりの美人女優が出ているだけで傑作

フランソワーズ・ドルレアックの ファム・マタールぶりが

何より本作を引き立てています

バスローブとか、ジーンズとニットだけで

なんでこんなにカッコいいんだ(笑)

服はブランドでなく、体系やストーリーで着るって本当

 

25歳の若さでの交通事故死は、ただただ惜しい

もっとたくさんの主演作が見たかったですね

 

 

【解説】allcinema より

ポランスキーの長篇三作目はいよいよ神経病めいて、この作家は本性を露にしている。満潮時には外界と遮断される孤島の古城に若く美しい妻(ドルレアック)と住む初老男(プレザンス。不気味に好演)。この閉ざされた世界で理想の暮らしを営もうというわけだが、そこへ見るからに凶悪そうな面相の何やらしでかして逃亡中の男(スタンダー)が瀕死の相棒を連れて闖入。この浪藉者にしたい放題されてただ黙っている主人に女房の方はとっくに愛想を尽かしており、島に遊びに来た一家の青年と密かに通じている。悪漢は意外と素朴な所もあって、妻と泥酔したりするクセに手を出しはしない。けれども、彼女は夫に彼を殺させ、半狂乱の夫を置いて島を出て行ってしまうのだ。現代人のナントカと説明をするのも空しい。この歪んだ人間把握は全くポランスキー独自のものだ。モノクロの映像美が秀逸。