原題も「West Side Story」
1957年、アーサー・ローレンツ原作のブロードウェイ初演
ロバート・ワイス版が公開されたのが1961年
それから60年、一流のエンターテイメントとして蘇りました
ダンスや音楽の技術の進歩はもちろん
(特に「マンボ」と「アメリカ」がゴキゲン)
バースタインやジェローム・ロビンスへのリスペクトを
ここまでちゃんとした形にできたのも、スピルバーグだからこそ
リタ・モレノを製作総指揮や主演に招いたのにも誠意を感じられます
展開が早くテンポもいいので、2時間37分の長さもあっという間
カメラはヤヌス・カミンスキー
しかしいくら映画の出来がよくても、メロドラマとして見せるのは
ロバート・ワイスのほうが巧いかなと思いました
「ウエスト・サイド・ストーリー」最大のクライマックス
「中立地帯でのダンスパーティー」(ありえるわけない)での出会い
ダンス、キス、非常階段で駆け落ちの約束
どうしたことか、まったくトキめかないのです(笑)
そして、とってつけたようなトランスジェンダーの描き方
ガチすぎるし、喧嘩強すぎるし、パシリだし
スピルバーグはエンタメ一筋
悲恋ものと、LGBTものには、手をださないほうがいい(笑)
ワイス版と違ったところで、一番印象的だったのは
マリアからの伝言をトニーに伝えるためヴァレンティナの店に行き
「ジェッツ」のメンバーに集団でレイプされそうになったとき
ジェットガールズ(レフの彼女)が必死に食い止めようとしたところ
もしこのシーンがなかったら、東欧系移民には
最低のクズしかいなくなったことでしょう
ハドソン川沿岸地域でセントラルパークの西側のこと
第二次大戦後はスラム化したものの、兵士の復員によって復興が始まり
やがて住宅地域の開発が進むようになります
そんなアメリカの経済が「黄金時代」に突入したニューヨークの貧民街
ポーランド系移民の「ジェッツ」と、プエルトリコ人の「シャークス」という
ふたつの不良少年グループが対立していました
実際には、今でも黒人や、他の欧州系移民など
多くの人種が住んでいるのでしょうが
元ネタが「ロミオとジュリエット」なので、そこは無視(笑)
冒頭からプエルトリコ人の住む土地に行き
プエルトリコ人の経営する店に嫌がらせをしたり
壁に描いた国旗にペンキを塗ったり
喧嘩を仕掛けるのはいつも「ジェッツ」から
ウエストサイドを取り仕切るシュランク警部補は
そんな「ジェッツ」のメンバーたちに
住宅開発が進めば、お前たち東欧系はプエルトリコのドアマンに
締め出されるようになるんだと脅します
だから喧嘩はやめて仲良くしておけと
「シャークス」のリーダー、ベルナルドはプロのボクシング選手
実際にプエルトリコではボクシングが盛んで
世界チャンピオンも何人も生みだしているんですね
ベルナルドの恋人アニータはお針子をしていて
いつかニューヨークで自分の店をもつのが夢です
故郷に帰って家庭を作りたいベルナルドと結婚には至っていません
ベルナルドの妹マリアはデパートで掃除婦として働き
ベルナルドがマリアのパートナーにと選んだチノは
夜は経理学校に通い、加算器の修理で生計を立てています
一方「ジェッツ」のメンバーに仕事をしている様子は見受けられません
(主人公のトニーもプエルトリコ人のヴァレンティナの店で働いている)
しかも父親はアル中だ、母親はヤク中だ、社会不適切合者だと
劣悪な環境で育った可哀そうな人間なのだと訴えます
いわゆるアメリカの海外領土という背景があるんですね
なのでニューヨークでは、東欧系移民よりプエルトリコ人のほうが
アメリカ人扱いされているのです
白人で、しかも祖父母や親の代から先に住んでいるのに
新参のプエルトリコ系移民のほうが、自分たちより待遇がいい
そのうえ(トレーラーハウスで生活しているため)開発で追い出されようとしている
そんな鬱憤がプエルトリコ人に向けられ
喧嘩で勝てば解決できると疑わないのです
対決の日、お互い素手で戦うと約束したものの
「シャークス」のリーダーはプロのボクサー
「ジェッツ」のリーダーのリフは銃を買い、ナイフやパイプのなどの武器を持つ
それに備えて「シャークス」のメンバーも武器を持つ
まずレフがベルナルドに刺され
逆上したトニーがベルナルドを刺してしまう
レフからトニーが預かった銃をチノが拾い
トニーは「自首する」と伝えるためマリアに会いに行く
なのに自首するどころか、その夜トニーとマリアは結ばれ
ふたりで逃げる約束をして、朝帰り
(これに共感できる女性はひとりもいないでしょう)
しかしバカどもがアニータをレイプしようとしたせいで
マリアが死んだと思いこんだトニーは、チノに背中から撃たれてしまいます
トニーを撃った銃の銃口を皆に向けて泣き叫ぶマリア
仲間に運ばれていくトニーの遺体
警察に連行されるチノ、真面目で優しい男だったのに
最後まで、誰も幸せになれない
和解することもない
同じ結末でもワイス版では
「分断や壁をなくそう」「なくしたい」という気持ちにさせるけど
スピルバーグ版に希望は見つけられない
これが今、描かなければならないアメリカだから
(最近のアカデミー賞受賞の兆候を計算したとは思わせないでくれ 笑)
ダイナミックでパワフルなミュージカルシーンは
ぜひとも劇場で見る価値があり
ただストーリーや結末については
好き嫌いが分かれるのではないでしょうか
【解説】映画.COMより
スティーブン・スピルバーグ監督が、1961年にも映画化された名作ブロードウェイミュージカル「ウエスト・サイド物語」を再び映画化。1950年代のニューヨーク。マンハッタンのウエスト・サイドには、夢や成功を求めて世界中から多くの移民が集まっていた。社会の分断の中で差別や貧困に直面した若者たちは同胞の仲間と集団をつくり、各グループは対立しあう。特にポーランド系移民の「ジェッツ」とプエルトリコ系移民の「シャークス」は激しく敵対していた。そんな中、ジェッツの元リーダーであるトニーは、シャークスのリーダーの妹マリアと運命的な恋に落ちる。ふたりの禁断の愛は、多くの人々の運命を変えていく。「ベイビー・ドライバー」のアンセル・エルゴートがトニー、オーディションで約3万人の中から選ばれた新星レイチェル・ゼグラーがマリアを演じ、61年版でアニタ役を演じたリタ・モレノも出演。「リンカーン」のトニー・クシュナーが脚本、現代アメリカのダンス界を牽引するジャスティン・ペックが振付を担当。2022年・第94回アカデミー賞では作品、監督賞ほか計7部門にノミネー
トされた。