レネットとミラベル/四つの冒険(1986)

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エリック・ロメールが「喜劇と格言劇」シリーズと

「四季の物語」シリーズの狭間に残した「ガール・ミーツ・ガール」

原題も同じ「QUATRE AVENTURES DE REINETTE ET MIRABELLE

 

微笑ましい4つのドラマが続く、絵本のような映画

対称的な女の子同士の友情が微笑ましく、愛らしい

どこを切り取ってもフォトジェニック

美しい映像と色彩の素晴らしさ

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ロメールといえば他の追随を許さない

ティーンの女の子のリアルな描写と、女性からの圧倒的な支持と共感

なぜここまでウザくてクドい、女の子の心理を見事に表現できるのか(笑)

しかもどんなに肌を露出させても、色気やロリータ色を微塵も感じない

ロメールは元々リセ(高校)の教師だったということ

女性たちを庇護者として見ているように思えます

これがほんとうに可愛くて、心地いい

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登場人物の設定は大学生くらいですが

できれば小学高学年~中学生の女の子に見てほしい

同性とのかかわり、主張、自分と違う考えの人間との距離感

哲学と、心理学と、お洒落の入門書(笑)

たくさん学べて、きっと大好きな映画になるはず

 

 

ミラベル(ジェシカ・フォルド)

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ロメール作品の中でも屈指の美少女

お洒落でクールで魅力的、相手が誰であっても人の話をよく聞く(聞き上手)

レネットの暑苦しい話をニコニコ聞きながらツッコミを入れる

意地悪キュート♡に何度もキュン死してしまいます(笑)

 

レネット(ジョエル・ミケル)

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フェミニンスタイルだけど田舎臭く野暮ったさが抜けない

超ド天然で世間に馴染めず、福祉マインドに富みすぐ感情的になる、頑固

一方アートセンスには優れ、感受性は抜群

劇中の絵画は彼女の作品

 

カフェのボーイ(フィリッブ・ローデンバック)

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1日だけの日雇いカフェ店員

レネット小娘だからと舐め、なんのストレス解消か理不尽な接客をする

 

万引き犯(ヤスミナ・アウリー)

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万引きより、女性なのか女装なのかが気になる

 

詐欺師(マリー・リヴィエール)

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モンパルナス駅で小銭を騙し取る女

 

画廊の主人(ファブリス・ルキーニ

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お喋りで軽薄な画商

 

 

冒険1:青い時間]

 

休暇中のサイクリング、人気のない田舎道で自転車がパンクし

困っていたミラベルを、偶然通りがかった少女レネットが助けます

レネットは「おばあちゃん」の遺産の納屋を改造してひとり暮らし

学校には行っておらず、自給自足しながら独学で絵を描いて暮らしていました

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田舎での生活を「静寂ね」というミラベルに「これは静寂じゃない」

レネットは夜明け前「昼の鳥は目覚めず、夜の鳥は眠りに落ちた」

1分間だけ完全に無音なる「青い時間」があると言います

そしてその感動的な時間を知ってもらうため、ミラベルに泊まってもらいます

 

しかし翌朝のその時間、自動車が通り騒音で邪魔されてしまいます

「青い時間」は本当にあると、落胆するレネットに

ミラベルはもう一晩泊まると告げると、レネットは嬉々として

その日一日田舎の自然、生活、そこに暮らす人々をミラベルに案内します

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2泊目の夜明け、昨晩はしゃぎすぎたレネットをベッドに残し

部屋を出て真っ暗な夜道を歩くミラベル

が、野生児のレネットには完璧な体内時計があるのか(笑)

すぐさまミラベルに追いつき、やがて足音を消し

まるでふたりだけ宇宙空間に存在しているような

「青い時間」を体験します

 

大学に戻らなければならないミラベルは

美術学校に通いたいけどパリは家賃が高いから無理というレネットに

出て行ったルームメイトの代わりに部屋をシェアしないかと提案します

 

 

冒険2カフェのボーイ]

 

美術学校の帰り道、レネットはミラベルと待ち合わせしたカフェを探しています

そこで通りがかりの男性に「ゲテ通り」を尋ねると、隣の通りを行った先だという

別の男性は、いやいや墓場を通ったほうが近道だという

若い女性に墓場を通らせるなんて怪しい

遠回りさせるほうがヘンだ

男性同士が言い争っているうち

レネットは目的のカフェが目の前にあることに気付きます

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テラス席に座りコーヒーを注文、200フラン札を出したレネットに

小銭は無いのか、支払わない気なのだろう、見た顔だ、無銭飲食者だと

釣りを出すのを拒み因縁をつけてくるボーイ

 

カフェに着いたミラベルがレネットの疑いを晴らそうと500フラン札を出すと

ミラベルまでが無銭飲食者の共犯者扱い

しかも小銭が用意できるまで席を離れるなと命令します

 

ボーイが離れた隙を見てミラベルはルネットの手を引き逃亡

しかし律儀なルネットが再びカフェを訪れコーヒー代を払おうとすると

カフェの店員たちは「あ~」な雰囲気

 

昨日のボーイは1日限りのバイトだったらしく

レジ係は何も聞かず、渡した小銭を受け取るのでした

 

 

冒険3物乞い、窃盗常習犯、女詐欺師]

道行くたび出会う物乞い(乞食)に小銭を渡すレネットに

ミラベルはパリには何万人もの物乞いがいて

全員に寄付するのは無理だと言いますが

レネットは、今食べるものさえない困っている人こそ

最優先で助けるべきだと主張します

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レネットに感化されたミラベルは、自分もホームレスに小銭を寄付したり

スーパーで見つけた万引き女を万引きGメンから救おうとします

しかし思わず万引き女の盗品が手元に残ってしまう

 

それをレネットに差し出すと「誕生日なのを覚えてくれたのね」と彼女は大喜び

だけどミラベルは正直に食料品を手に入れたいきさつを

不可抗力だったと打ち明けます

だけど堅物のレネットは盗品を盗品したことは犯罪だと決して許さない

(平和主義のミラベルはレネットのため何らかの形で返却したでしょう)

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そしてある日の駅の切符売り場

レネットはバックを盗まれてしまったという上品な女性から

帰るための切符代(決して大きな額ではない)

譲ってもらえないかと頼まれます

彼女に小銭をあげている間に電車に乗り遅れてしまったレネット

電話しようにも今度は小銭がない

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両替を求めて通行人に声をかけても誰も相手にしてくれない

しかも”バックを盗まれた上品な同様の手口で他の通行人からも

小銭をせびっているのを見てしまう

電話をかけるため、恵んだ小銭を返してくれと女に頼むレネット

 

レネットのやさしさや正義感はパリでは通じない

でもそんな不器用な彼女だから、ミラベルは信用しているのです

 


冒険4絵の売買]

 

ミラベルから今月家賃の支払いを督促されたレネット

「お金がない」「祖母の遺産は」「学費のために」

 

でももし美術学校の知り合いのツテで絵が売れたら、お金になるかもしれない

しかし絵を売りに行く日がまさか、レネットミラベルが大喧嘩して

レネット「一言も喋らない」と約束した

喧嘩していたにもかかわらず

画商との交渉を全てミラベルに委ねることになってしまいます(笑)

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画商はレネットの絵を褒め称えるものの

レネットの希望額2000フランを値切ろうとし

現金では200フランしか支払えないという

ミラベルがいくら頑張っても、相手は大人で商売のプロ

泣いてしまうレネット

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そこに常連なのか、絵を見に来たセレブ風なご婦人二人組

慌てた画商は即座にレネットに現金2000フランを渡し追い払うことにします

嬉々として画廊を後にするレネットとミラベル

 

そしてご婦人たちがレネットの絵に気付き

「いい絵ね」「おいくら」と尋ねると

画商は何事もなかったようにすまし顔で「4000フラン」と答えるのでした

 

 

「自然の中の静寂は本当は怖いのよ」

「夜と朝の狭間には、世界が沈黙する『青の時間』があるの」
「世界の終わりがあるなら、あの時間帯よ」

「秋は木と見まちがう
また明日があるわ
明日はどこ?
よかったらここに残るけど
泣かない?
変な子ね
分かることが大切じゃないの本当よ 苺だって食べてみなきゃ味がわからない

「雨は髪にいいのよ」
「何回学校に行ってもダメだった」

私生活は自分だけの秘密

「コーヒー一杯じゃ客とは呼べない」

「前にも同じ手段に合ったから騙されない 前に騙したのもお前だろ」

「あの男の言った通り踏み倒したのがいやなの」

「万引き犯は司法の下に引き渡して裁いてもらうのが正しい」

「更生の余地を残してあげるために見逃してあげるべき

「治すと助けるは違う」

「他人を罰する正義を認めるのね」

「人に厳しく自分に甘い」
「心に語らせる唯一の方法は沈黙することなの」
「絵に言葉はいらない」

「絵を褒められると心が直接通じ合った気がして嬉しい」
「いやに無口じゃん、なんか喋んなよ」

あんたがずっと喋ってるから喋れないんでしょうが

「パリジェンヌは今を生きる」

 

 

ロメールはインタビューで
ふたりの女の子、ひとりは主義主張をもっており、ひとりにはそんなものはない

一方は道徳に肩入れしていて、一方は自由を望む

そんな対立を中心になにか撮ろうとした、と答えたそうです

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そして「ブヴァールとぺキュシェ」(ギュスターヴ・フロベールの小説で

ふたりの友人が,自ら知的であることを誇り

自然科学から文学まで森羅万象の研究を競うが

すべてが中途半端で失敗に終わるというもの)を作り直したかった

それは「いかにしてタイヤを再びふくらませるか」

 

この作品の冒頭にも繋がっています

 

 

【解説】allcinema より

緑の光線」の撮影を終えるやいなや、その編集作業もさておき、16mmで衝動的に撮りあげたロメールの瑞々しい四本の短篇オムニバス。ある夏、田舎道で偶然に出会った少女二人、レネットとミラベルは、共に空き家の農家でバカンスの日々をすごすことになる。その第一話「青の時間」の自然、道、田園のスケッチと少女の友情の芽生えを限りなく巧みに綴る語り口が素晴らしく、以下に続く3つの挿話--あるパリのカフェのボーイに関する二人の喧々諤々を描く「カフェのボーイ」、犯罪ごっこの話の「物乞い、万引き、ペテン師」、レネットの描いた絵をいかに売るか、の「絵の販売」--も一気に見せる。彼女たちのその後が知りたい!と思わせる、ロメールの至高の話芸。