昼下りの決斗(1962)

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見たか、見ていないか

記憶に残らない西部劇のタイトルシリーズ(笑)

が、やっぱり見ていました

レビューも書いていました(4年前)

 

原題は「RIDE THE HIGH COUNTRY」(ハイカントリーに乗る)

イカントリーとは(寒地や乾燥の影響で草木も生えない境界線のある)

山岳地帯や高地のことで

ここではシエラネバダ山脈のこと

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サム・ペキンパーの「ワイルド・バンチ」(1969)と並ぶ

代表作であり傑作

やはり面白い映画は何度見ても色あせない

 

冒頭のフェスティバルで、馬とらくだのレースがあり

アメリカには砂漠が多いため、開拓時代には

多くのらくだが輸入されていたそうです

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その町の銀行の頭取から、シエラにある金山から

掘り当てた金の運搬を頼まれた

腕利きの元保安官スティーブ・ジャッド(ジョエル・マクリー55歳)

だけど頭取は「もっと若いのかと思っていたと」不安は隠せない

 

しかしジャッドは強気で契約書を確認し

帰りの山道は危険が予想されるため

報酬の他に1日10ドルで協力者2人を雇いたいと提案します

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そこに名乗りを上げたのが、インチキ早撃ちのショーで小銭を稼ぐ

元相棒のジル・ウェストラム(ランドルフ・スコット59歳)と

ウェストラムが推薦する軽薄そうな若造

ヘック・ロングツリー(ロナルド・スター)でした

しかも彼らの本当の目的は日当10ドルではなく

集めた金塊を盗むことだったのです

 

ジョエル・マクリーの枯れ具合がいいですね(笑)

かってはやり手で、今でも若い者には負けないけれど

サラリーマンでいえば定年間近

引退前に何か大きな仕事を成し遂げたいと思っているのです

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冬が来る前の紅葉の景色も見事で

男も散りゆく間際が一番輝くと

ペキンパーは考えていたのではないでしょうか

カメラはルシアン・バラード

 

金山に向かう途中、3人は寂れた小さな牧場に宿を求めます

牧場主(R・G・アームストロング )は

妻を亡くした敬虔なクリスチャンで

聖書の教えだけに従って生きる男

ひとり娘のエルサを厳しく躾け育てていました

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しかし年頃のエルサは若い男に興味深々、ヘックのほうも一目惚れ

しかしエルサは金山に住むビリーという男に結婚を申し込まれていて

ビリーと結婚するため、3人を追って家出して来てしまうのです

 

牧場主の父親は、金山は悪と欲望の巣窟だと

ビリーとの結婚を許さなかったんですね

でもエルサは反抗し、父親の勝手なエゴだと聞く耳を持たなかった

 

金山に着き、ジャッドとウェストラムが金を集めている間

ヘックはエルサを、ビリーの住むハモンド兄弟のテントに送って行きます

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ヘックもかなりのチャラ男だけど

ハモンド5兄弟を見たとたん不安になる

でも自分ではなくビリーを選んだエルサに何も言えません

 

その日の夜、ビリーとエルサは結婚式を挙げます

式場は娼館、式を挙げるのは泥酔した判事

エルサは何か違うと感じながら、ビリーを夫にすることを誓います

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披露宴が始まると、ビリーは酔っ払いエルサを放置

すると次々にエルサを襲おうとする兄弟たち

ここでは花嫁を、花婿の兄弟たちが輪姦していい

というルールがあったのです

いまさら父親言っていたことが、本当だったと気付いても襲い

 

そこにエルサを諦めきれず結婚式の様子を見に来たヘックが

エルサを兄弟から救い、ジャッドも加勢します

しかし法律上ではすでに、エルサはビリーの妻

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翌日、ジャッドは2日酔いの判事から結婚証明書を奪い

結婚は正式なものではなかったと主張

エルサを父親のもとに帰すことにします

 

もちろん嫁を奪われた兄弟も黙っちゃいない

ジャッドは命を狙われることになるのですが

それでもなぜこんなバカ女を助けるのか

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ジャッドはウェストラムに、自分も若い頃はいかに悪さをして

刑務所に入ったこともあるという話をします

自分の人生は失敗だった

だからヘックとエルサのこともわかるんだと

 

数々の金言もありました

「貧しい男が死ぬ時着ているのは誇りの衣 着ていても暖かくもない服だ」

「私はただ 正しく死にたい」

 

砂漠の流れ者/ケーブル・ホーグのバラード」(1970)もですが

ペキンパーの穏やかな一面を感じられる

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一方で金山で暮らす人々にも

私たちにすれば、全く倫理がないように見えるけれど

彼らには彼らなりに守ってきた、正義や秩序があるのです

しかも他人の妻を連れ出すなんて許せることではありません

 

そんな最中、ウェストラムとヘックがエルサを残し

金塊を盗んで逃げようとします

そうなることは予想していた、だけど信じようとしていた

ジャッドはウェストラムの両腕を縛り

町に戻ったら法廷に突き出すことにします

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仕返しにやって来たハモンド兄弟との銃撃戦

秘かに死んだ兄弟のひとりの馬と銃を盗み

ジャッドから逃れたウェストラム

 

ジャッドとヘックとエルサが牧場に到着すると

すでに父親は殺され、待ち伏せしていた兄弟に

ヘックは足をジャッドは腹を撃たれてしまいます

そこにジャッドを見捨てきれず戻ってきたウェストラムは

ジャッドにどうしたいかを尋ねます

 

「決闘だ」

「俺もそう思っていた」

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ハモンド兄弟だって決して卑怯なわけではない

決闘を申し込まれたらなら、正々堂々と受ける

 

お互い相手にプレッシャーをかけ

ジリジリと相手を狙える位置まで歩み寄る

実際の決闘も(早撃ちだと正確に弾が当たらないため)

ギリギリまで近づいて撃つのが正当だったそうです

 

倒れるジャッド

反撃するウェストラム

 

「ひとりで死なせてくれ」

墓もなく、野生動物に食われるのか

それともただ朽ち果てていくのか

老ガンマンの悲壮

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だけど美しい

ペキンパーは美しい

鳥肌がたつ

 

そして何より素晴らしいのが

ジョエル・マクリーとランドルフ・スコット

有終の美を飾るに相応しい作品になったこと

 

はたしてウェストラムは、金を本当に届けるのでしょうか

生まれつきの嘘つき男の言葉が信用できないことはわかってる

でも約束を守らなければ、一生後悔し

不幸な人生を送ることになるのもわかってる

ジャッドと同じ、彼を信じるしかないのです

 

 

【解説】allcinema より

カリフォルニアの鉱山で掘り出された金を町の銀行へ預けるため、搬送人として元保安官のスティーヴが雇われた。責任重大な任務を受けたスティーヴは、旧知の仲のギルとその若い相棒ヘックを助手に抜擢すると鉱山へ出発。道中立ち寄った家で会った若い娘エルザも、恋人のビリーが鉱山で働いていることから三人と同行することになった。だが一行が鉱山に着いた時、ヘックがエルザをめぐってビリーたちハモンド兄弟と対立してしまい、抗争の火種を作ることに。一方、ギルとヘックは元々計画していた金の強奪に及ぶもスティーヴに見つかり失敗してしまう。そんな中、一行はハモンド兄弟の襲撃に遭うのだが…。
 金山からの金塊輸送を引き受けた元保安官とその旧友。途中で同行するようになった少女が原因で、やむなく鉱夫の荒くれ兄弟と対決する事になるが……。もう若くはない主人公の一徹な生き様は、後のペキンパー作品の男たちに通じるものがあり、密かに裏切りを企む旧友との友情も泣かせる。西部劇スターとして名を馳せたR・スコットとJ・マクリーはこの作品を最後に引退したが、それにふさわしい名編となった。