痴人の愛(1934)

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「恋愛は皮肉だ。愛する者と愛される者が一致しない」

原題は「OF HUMAN BONDAGE

bondage”には束縛、屈従 、奴隷の身分、とりこの状態

いわゆる「自由な行動を奪われる」という意味があるそうです

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原作はサマセット・モーム自伝的小説「人間の絆」

ヒロインミルドレッド文学史上、最低最悪の性悪女に例えられ

当時の女優はそれこそイメージが大切で、なり手がいなかったミルドレッド役に

自ら立候補したというベティ・デイヴィス

 

ベティのファム・ファタールぶりは演技を超えていますね

もう、本物(笑)本当に憎たらしい

DVによる被害者女性は擁護しなければならないけど

もしこんな女なら、彼氏や夫が殴ってしまうのも理解できます

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でも主人公フィリップ演じるレスリー・ハワードは

画家になるのを諦めた、足に障害のある真面目な医学生

ミルドレッドにどんなに酷い仕打ちをされても、彼女を殴るどころか

聡明な女流作家の恋人と別れてまで、支援し続けるのです

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しかしミルドレッドはフィリップに恩を感じるどころか

フィリップの言動にイラつき、罵り、裏切るのです

金を盗まず燃やしたのは、物欲よりなによりも

彼を苦しめることが目的だから

 

ミルドレッドのせいで医学部は退学となり、住む場所もなくなり

破滅へと追いやられていくフィリップ

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だけど無一文になり、障害者というコンプレックスが邪魔をして

ミルドレッドからの愛を施しで得ようとした、傲慢な自分を知った時から

フィリップに幸運が舞い込んできます

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教授が医学的挑戦という理由でしてくれた足の手術が成功

元患者の家に住まわせてもらい、デパートの仕事にありつく

元患者の娘で家庭的なサリーと恋人になる

叔父の遺産がで、医学部に復学し卒業、就職も決まります

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そんなとき、今度はミルドレッドが病気だと知らされます

(このグリフィスという男のおせっかいは何なんだ!)

フィリップは病院に行きたがらないミルドレッドを受診し

肺病の処方箋と、お金を渡すのですが

 

ミルドレッドが危篤で病院に運ばれたと知り

またもや懲りずに会いに行くフィリップ

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しかしそこで見たものは

「ミルドレッド・ロジャース 25歳」の破かれたカルテでした

思えばこの女も、幸せには縁のなかった女だ

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ミルドレッドが死んだことによって

やっと「主従」の関係から解き放されたフィリップ

サリーとの結婚を迷わせたミルドレッドは、もういない

フィリップは改めてサリーにプロポーズするのでした

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ミルドレッドが死んだのは自業自得だけど

私だったら、「青白くて謎めいて冷たい君」の死で

フィリップが発狂して終わったほうが、もっとヨカッタかな

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映画は評判になったものの、ベティはオスカーにノミネートされず

観客や批評家からはデモや抗議が起こり

それ以降、アカデミー賞で投票が可能になったそうです

 

 

【解説】KINENOTEより
「秘密」「永遠に微笑む」のレスリー・ハワードが主演する映画で、「雨」の作者サマセット・モーム作の小説を「人生の行路」「砂上の摩天楼」のレスター・コーエンが脚色し、「砂上の摩天楼」「世界と其の男」のジョン・クロムウェルが監督し「若草物語(1933)」「猟奇島」のヘンリー・ジェラードが撮影した。助演者は「失踪者三万人」「舗道の三人女」のベティ・デイヴィス、「若草物語(1933)」のフランセス・ディー、「狂乱のアメリカ」のケイ・ジョンスン、「肉弾鬼中隊」のレジナルド・デニー及びアラン・ヘール、レジノルド・オウエン、レジナルド・シェフィールド等である。 上品で敏感な学生フィリップ・ケアリーは右足が不自由であった。彼は学校の近くの料理店の給仕女で、下品な利己主義のミルドレッドに不思議な愛着を感じた。彼女は障害者の彼を頭から蔑視したが、彼が小遣銭に不自由しないのを知ると、急に彼を虜にしてしまう。そのためにフィリップは試験に落第し、彼女に結婚を申し込んだが、彼女はそれを拒絶し、下等な外国人ミラーと関係して出奔する。失望したフィリップだったが女流小説家ノラに恋されて幸福な安穏な勉学生活が出来るようになった。ところがミラーはミルドレッドが身重になったと知るや、無情にも打ち捨てて全然顧みない。泣きつかれてフィリップはミルドレッドがお産をし、生まれた赤ん坊を里子にやるまでの面倒を見てやった。ノラは失望してフィリップとは別れてしまった。こうまで親切を呈したが、ミルドレッドはフィリップの同級生グリフィスの情婦となって彼に再び苦杯を嘗めさせた。その後、フィリップは病院で近づきになった近郷の田舎紳士アセルニーの娘サリーと愛し合う仲となるが、彼はミルドレッドの事を考えると、思いきってサリーに結婚を申し込む勇気は無かった。果たして、ミルドレッドがグリフィスに棄てられ、赤ん坊を抱いて路頭に迷っていると知るや、やはり自分の部屋に引き取って世話をしないではいられなかった。ところが些細な口論の結果、3度ミルドレッドは出奔した。しかもフィリップの学資たる公債投書を全て焼き捨てて。このために彼は退学した。その時ジェコブス教授が手術をして彼の不具の足を癒してやった。そしてアセルニー邸に寄食し、百貨店に勤める身となった。またミルドレッドは彼に救いを求めた。赤ん坊は死んでしまい、売笑生活の報いか彼女は肺を病んでいた。フィリップはいくらかの金子を残して帰った。その後叔父の遺産を貰って再度入学した彼はついに大学士となった。そして豪州航路線の船長となり、赴任しようとするとき、ミルドレッドは施療病院で淋しく死んだ。初めて開放された気持ちになったフィリップは船長を勤め、サリーと結婚し晴れやかに人生にスタートしたのである。