巴里の屋根の下(1930)

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「お代は結構だから お嬢さんも一緒に唄ってください」

原題も「SOUS LES TOITS DE PARIS


トーキー半分、サイレント半分
トーキー初期の作品なので、このような音楽と無声が入り混じった

スタイルになったのかと思いましたが

実は完全に計算しつくされているのですね(笑)

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セリフがあっていいようなシーンでも、あえて無声で芝居させ

それでいて時の流れや気持ちの変化を表現する巧みな演出はさすが

 

展開は「男はつらいよ」をクラッシックで超お洒落にした感じ(笑)

比較的日本人の好みにあうと思います

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アルベールは、街角コーラスで人を集め楽譜を売って身銭を稼ぎながら

スリを働いている友人を見過ごしたりかばったりしています

そこに好みの美女、ポーラがやって来てつい楽譜をサービスしてしまう

スリにあえば、お金を見つけてあげたふりをして親しくなろうとする

でも彼女にはゴロツキな彼氏、フレッドがついていました

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夜になって飲みに行くアルベール

スリの友人は(ポーラからスッたお金を返されたからか)金も払わず帰り

残ったルイとサイコロで支払いを決める

煙草が1本しかなければ半分に折って吸う

喧嘩しても両成敗、ルイとはそんな大親

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そんな帰り道、フレッドに鍵を隠されたポーラが路頭に迷っていました

アルベールはポーラを自分の狭い部屋に招き泊めるようになります

一緒に暮らすようになりアルベールはポーラとの結婚を考えますが

友人のスリから預かったカバンに盗品が入っていたため警察に逮捕されてしまう

 

残されたポーラはアルベールの親友ルイを頼り

やがてふたりは深い関係になるのです

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アルベールがポーラのために用意したファーのサンダルは埃にまみれ

ミモザは枯れ、朽ちたパンを食べにくるネズミが

アルベールとの関係が終わったことを示します

 

だけどやさしくて色男なルイは、当然女性からモテる

嫉妬したポーラはフレッドとヨリを戻しダンスホールに行くのです

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そこに無実が証明され釈放されたアルベールがやってきて

アルベールとフレッドは決闘することに

アルベールの窮地を助けたのはポーラから知らせを受けたルイでした

 

男から男にはしご、これだけを見れば

ポーラはなんてノータリンな女だと思うわけですが(笑)

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ポーラはルーマニア人からの移民なんですね

フランスは第一次世界大戦の勝利国ですが、戦後ファシズムの台頭で

ヨーロッパ中からパリに移民が押し寄せたそうです

そんな移民たちのおかげで文化の進歩や

人権といった理念の象徴が確立されたのも確かでしょうが

 

戦後の混乱の中、若い女性ひとり生きていくため

それはただ部屋と、食事と、綺麗な洋服のためにかも知れないけど

ゴロツキの情婦になってもしょうがない

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アルベールのことも、好きになったわけじゃないけど

真面目で、親切で、フレッドのようなヤクザじゃないから付き合っただけ

こういう男と結婚したほうが幸せになれると思っただけ

 

でもフレッドと別れ、アルベールがいなくなり

辛くて、寂しくて、行き場のない自分を助けてくれたルイに

今度ばかりはポーラのほうが惚れてしまったのです

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そしてフレッドも喧嘩を止めようと仁義を大事にしたり

スリの男も、自分が有罪になってもアルベールの無実を証明したり

決してただの悪い男には描かれていません

 

フレッドが逮捕され、ポーラとの再会を喜ぶアルベールでしたが

すぐにポーラが愛しているのはルイだと気づきます

もしかしたらルイも最初からポーラが好きだったかもしれない

サイコロの賭けに負けたから身を引いただけ

 

今度はサイコロの賭けに負けるふりをして

粋に身を引いてみせるアルベール

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たとえフラれてもしんみりしないのが、さすがフランスの寅さん(笑)

次の日には、また可愛い女の子を見つけて楽譜のサービスをするアルベール

何度だって新しい恋をしていいのです

 

第一、女の気持ちは男がいくら頑張ったって変わらないのだしね(笑)

 

 

 

【解説】allcinema より

クレール最初のトーキーで、その音の使用には目をみはる(?)ものがある(鉄道のガード下の決闘などその効果を最大限に発揮)人情喜劇だ。そして素晴らしいセット(パリの実景は一つも出てこない)。リアルだが、おとぎ話の中の町のように親しみやすい“どこにもない”場所で展開される、男女の素朴な物語……。有名な主題歌はタイトルでは流れず、まず題名通り、雨で濡れるパリの屋根屋根を捉えたカメラが、路地で雨宿りをする若者アルベールとルイを映し出す。その二人の間をレインコートの娘ポーラが通り抜ける暗示的な開幕。彼女を見る二人の視線の交わしようで彼らの関係が如実に分かる。舗道の向かい側で娘を野次る与太者フレドを見せ、さっと最初のシークェンスで主要な登場人物を出し、台詞らしい言葉は喋らせないのは、クレールがトーキーの真意をよく理解している証拠だ。さて、翌日。屋根から降りたカメラが街角の人だかりを捉え、次第に歌声も届く。例のシャンソンが演歌師のアルベールによって披露されているのだ。ポーラの姿もそこにあった。その夜、悪漢フレドに部屋の鍵を奪われたポーラは、夜更けの街で再会したアルベールの部屋に転がり込む。こうして二人は一緒に暮らすようになったが、トラブルに巻き込まれたアルベールは逮捕されてしまう。そしてポーラは、彼が留置所で過ごすうちに、親友ルイと恋に落ちてしまった……。