「貧しいから弱くなるのか、弱いから貧しくなるのか」
舞台は鋳物の工場が立ち並ぶ埼玉県川口市
キューポラ(cupola furnace)とは、鋳物を作る溶解炉のことで
独特の形をした煙突が特徴
かっては戦争で需要があった鋳物工場は経営困難に陥り
大企業に買収され、近代化やオートメ化が進み
古い職人はリストラされる運命にありました
身体の悪い辰五郎(東野英治郎)も、長年勤めていた工場をクビになります
しかも家では妻のトミ(杉山徳子)に赤ちゃんが産まれ
長女のジュン(吉永小百合)は県立の名門高校を目指す受験生でした
同じ工場で鋳造工をしていた塚本克巳(いつもの浜田光夫)は
辰五郎を心配し退職金をもらえるよう組合に掛け合ったり
再就職先を探してくれるのですが
このクソ親父、プライドだけは高い
酒を飲んで暴言さえ吐けば自分の意見が全て通ると思ってる
俺は職人だ、組合がなんだと克巳の提案を拒否し
手元に残ったなけなしのお金まで、すべて博打ですってしまうのです
ジュンの親友のお父さんが紹介してくれた条件のいい仕事にも
(当時の日立の最新工場らしい)
頭よさげな若者に仕事を教えてもらうのが気に入らず辞めてしまう
かあちゃんの内職だけで生活できるはずもなく
ジュンは高校進学のためパチンコ屋でアルバイトをし
かあちゃんは飲み屋に働きに行くとこにします
だけどクソ親父が仕事を辞めてしまったことで
ジュンは親友と顔を合わせられず
おまけにかあちゃんが飲み屋で酔っ払いの客と戯れているのを見てしまう
修学旅行をボイコットし、朝鮮人のリスちゃんと夜遊び
そこで朝鮮人の不良グループにレイプされそうになるのですが
いつもの浜田光夫が警察を連れてやってきて、ジュンは助かりますが
それから「勉強などしてもムダ」と学校をサボるようになります
1960年代、高度経済成長と労働組合の誕生で
貧富の差で抑圧され続けていた労働者階級の人々の意識の高まり
そこに弟のタカユキと在日朝鮮人の少年サンキチとの友情や
バリバリの日教組(といっても今のように”なあなあ”ではない)の
担任教師、加藤武やクラスメイトとの心温まるエピソードが加わります
日本人も在日朝鮮人もお互い貧しく、子ども達まで生きる手段を選ばない
ある日、いつも通り牛乳を盗んだタカユキとサンキチは
牛乳配達の少年に見つかってしまう
川の小舟に乗り、少年から逃げて誇らしげに牛乳を飲むふたり
そんなタカユキとサンキチに転んで泥だらけになった少年は
オマエたちのせいで給料は差し引かれ
病気の親の薬が買えないと泣き叫ぶ
自分は貧乏で苦しいから、金のあるところから盗んで当然と思っていた
生きるためなら何をしてもいいと信じていた
だけど真面目に働いて給料をもらっている人間も
自分たちと同じ苦しみを抱えていることを
その時はじめて知るのです
バンザイの声に送られて帰還していく情景と
親に頼らず働きながら学ぶという、女性の自立
若い女性や少年たちの心情を見事に描いた
今村昌平の脚本が素晴らしい
なんでも今村の奥さんが近所の主婦を集め
「あしたのジョー」など人気アニメのセル画の採色した収入で
苦しい時代の今村を助けたのだとか(笑)
吉永小百合といつも浜田光夫の日活にしては、思った以上に傑作で(笑)
私が見た小百合ちゃん主演の中でも上位ランキング
当時の世相を知る意味でも貴重な映画でしょう
【解説】allcinema より
鋳物の町として有名な埼玉県川口市。この街にはキューポラという煙突が立ち並ぶ。昔カタギの職人の町にも時代の波が押し寄せる。旧来型の鋳物職人であるジュンの父は、働いていた工場が大工場に買収されたことからクビになってしまう。困窮に苦しむ一家だったが、ジュンはそんな境遇の中でも、自分の進路について一生懸命考え、パチンコ屋でバイトしながらも高校進学の学費を稼ごうとがんばる……。吉永小百合主演で、高度経済成長期の庶民の暮らしを温かなまなざしで描いた青春ドラマ。