愛しのシバよ帰れ(1952)

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原題は「COME BACK, LITTLE SHEBA (戻ってきて、リトルシバ)

シバ」とはかつて飼っていた犬のこと


ある朝、部屋を探している女子大生マリーがローラを訪ねてきます

ローラから話を聞いた夫のドクは渋りますが

再訪してきたマリーを一目見たとたん

ドクは洋裁部屋を貸すことを快諾します

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どう見ても奥さんのほうが、人格的にちょっと危ない感じなんですが

実は夫のほうが断酒会に通う元アルコール依存症

これはアルコール依存症患者が断酒したとしても

ちょっとした不満や不安がきっかけで

再び依存症に戻ってしまう可能性を描いているのですが

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実はイネイブラーについても考えさせられる作品

「イネイブラー」とは嗜癖(しへき=有害な習慣)から生じる問題行動

依存症や中毒、ひきこもり、摂食障害、窃盗癖・・する人を助けようとして

実は嗜癖を助長している患者の身近な人間のこと

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ドクは名門医大に通っていたにもかかわらず

ローラが妊娠し父親によって家から追い出されたため

大学を中退して結婚、指圧師として働きますが

ローラは流産してしまいます

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夢を諦め、子どもにも恵まれることはなく

ドクは酒に溺れ、親の残した遺産を酒代で使い果たしてしまいます


ローラはドクがまた酒を飲むのではないかと怯える日々を送り

朝起きれず、食事の用意も掃除もほとんどすることはない

ラジオを聞いて好きなダンスを踊り

いなくなったシバのことばかり考えている

(シバは本当に犬なのか、本当に飼っていたかは疑問)

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そんなふたりは若いマリーと遠距離恋愛中のブルースに

かっての自分たちを見たのかもしれないし

流産した子が成長していたらと、マリーと重ねたのかもしれない

ドクは聡明なマリーを大切に思うようになります

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しかし可愛いマリーがタークという

やり投げの陸上競技選手と付き合いだしたのをきっかけに

マリーがタークをモデルにしたポスターを描いたり

夜中にマリーの部屋にタークが入っていくのを目撃して大激怒

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もちろんマリーはセックスを強要するタークを断り

故郷の恋人ブルースとの結婚を選びます

ローラはそれを歓び、マリーを迎えに来るブルースのために

家を掃除し、部屋を飾り、料理を作る

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それを知ったドクは、ローラの妊娠は本当に自分の子だったのか

という疑念を抱いてしまった

ブルースも俺と同じように女に騙されたバカな男なのだ


ドクの被害妄想が、再び酒瓶を手に取りどこかに行ってしまう

マリーとブルースを祝福することもなく

翌朝帰ってきたときは泥酔で正気を失っていました

ナイフを握りローラを襲い、首を絞めて殺そうとします

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バート・ランカスターの豹変ぶりがすごい(笑)

普段は穏やかな人間がアルコールによって全く別人になってしまう

暴言、暴力、その奥にある嫉妬や憎しみといった感情の揺れを

見事に表現しています


ローラから連絡を受けた断酒会のエドとエルモ

意識を失ったドクを私立病院(精神病院)に入院させました

そこでベッドに縛り付けられ、昏睡状態に陥ったドクは

「愛しいローラ」と何度もうなされていました

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義務ではなかったのに、愛していたから結婚したのに

勇気がなくて真実を見つめることができなかった

複雑にして、悪いほうにばかり考えて、酒を飲んで忘れようとする


そんな夫によかれと思って、余計な口出しをしてしまう

それは相手を苛立たせ、ついには怒りが爆発して暴力を受けてしまう

それでもそのあとの過剰な夫からの優しさに

「彼を助けられるのは自分しかいない」という愛し方の勘違い

これがイネイブラー

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お喋りで、オドオドしていてだらしなく、

思わず殴りたくなるような(でも理性のある人間なら殴りません)

イラつく主婦をシャーリー・ブースが好演

アカデミー主演女優賞を受賞していますね


退院したドクは「見捨てないでくれ」とローラに謝罪し

ローラはマリーとブルースが結婚したことを報告し

これからは料理も掃除もすると

そして「もうシバの話はしない」と約束するのです

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過去を振り返っても、後悔しても、やりなおすことはできない

未来に生きるしかないと悟ったふたり


でもこれで酒を止めるか止めないかは、また別の話(笑)

朝起きて後悔しても、夕方には忘れるのが依存症なのだから



【解説】映画.comより

ウィリアム・インジの舞台劇の映画化で、「底抜け落下傘舞台」のハル・B・ウォリスが製作にあたった1952年作品。脚色はケッティ・フリングス、監督は舞台の演出を担当したダニエル・マンである。撮影は「その男を逃すな」のジェイムス・ウォン・ハウ、作曲はフランツ・ワックスマン。主演は舞台と同じシャーリー・ブース(52年アカデミー主演女優賞獲得)と、「真紅の盗賊」のバート・ランカスターで、テリー・ムーア(「猿人ジョー・ヤング」)、リチャード・ジャッケル「暴力帝国」、フィリップ・オーバー、リザ・ゴルム、ウォルター・ケリーらが助演する。