原題は「COME BACK, LITTLE SHEBA」 (戻ってきて、リトルシバ)
「シバ」とはかつて飼っていた小犬のこと
ある朝、部屋を探している女子大生マリーがローラを訪ねてきます
ローラから話を聞いた夫のドクは渋りますが
再訪してきたマリーを一目見たとたん
ドクは洋裁部屋を貸すことを快諾します
どう見ても奥さんのほうが、人格的にちょっと危ない感じなんですが
実は夫のほうが断酒会に通う元アルコール依存症
これはアルコール依存症患者が断酒したとしても
ちょっとした不満や不安がきっかけで
再び依存症に戻ってしまう可能性を描いているのですが
実はイネイブラーについても考えさせられる作品
「イネイブラー」とは嗜癖(しへき=有害な習慣)から生じる問題行動
依存症や中毒、ひきこもり、摂食障害、窃盗癖・・する人を助けようとして
実は嗜癖を助長している患者の身近な人間のこと
ドクは名門医大に通っていたにもかかわらず
ローラが妊娠し父親によって家から追い出されたため
大学を中退して結婚、指圧師として働きますが
ローラは流産してしまいます
夢を諦め、子どもにも恵まれることはなく
ドクは酒に溺れ、親の残した遺産を酒代で使い果たしてしまいます
ローラはドクがまた酒を飲むのではないかと怯える日々を送り
朝起きれず、食事の用意も掃除もほとんどすることはない
ラジオを聞いて好きなダンスを踊り
いなくなったシバのことばかり考えている
(シバは本当に犬なのか、本当に飼っていたかは疑問)
そんなふたりは若いマリーと遠距離恋愛中のブルースに
かっての自分たちを見たのかもしれないし
流産した子が成長していたらと、マリーと重ねたのかもしれない
ドクは聡明なマリーを大切に思うようになります
しかし可愛いマリーがタークという
マリーがタークをモデルにしたポスターを描いたり
夜中にマリーの部屋にタークが入っていくのを目撃して大激怒
もちろんマリーはセックスを強要するタークを断り
故郷の恋人ブルースとの結婚を選びます
ローラはそれを歓び、マリーを迎えに来るブルースのために
家を掃除し、部屋を飾り、料理を作る
それを知ったドクは、ローラの妊娠は本当に自分の子だったのか
という疑念を抱いてしまった
ブルースも俺と同じように女に騙されたバカな男なのだ
ドクの被害妄想が、再び酒瓶を手に取りどこかに行ってしまう
マリーとブルースを祝福することもなく
翌朝帰ってきたときは泥酔で正気を失っていました
ナイフを握りローラを襲い、首を絞めて殺そうとします
バート・ランカスターの豹変ぶりがすごい(笑)
普段は穏やかな人間がアルコールによって全く別人になってしまう
暴言、暴力、その奥にある嫉妬や憎しみといった感情の揺れを
見事に表現しています
ローラから連絡を受けた断酒会のエドとエルモは
意識を失ったドクを私立病院(精神病院)に入院させました
そこでベッドに縛り付けられ、昏睡状態に陥ったドクは
「愛しいローラ」と何度もうなされていました
義務ではなかったのに、愛していたから結婚したのに
勇気がなくて真実を見つめることができなかった
複雑にして、悪いほうにばかり考えて、酒を飲んで忘れようとする
そんな夫によかれと思って、余計な口出しをしてしまう
それは相手を苛立たせ、ついには怒りが爆発して暴力を受けてしまう
それでもそのあとの過剰な夫からの優しさに
「彼を助けられるのは自分しかいない」という愛し方の勘違い
これがイネイブラー
お喋りで、オドオドしていてだらしなく、
思わず殴りたくなるような(でも理性のある人間なら殴りません)
イラつく主婦をシャーリー・ブースが好演
アカデミー主演女優賞を受賞していますね
退院したドクは「見捨てないでくれ」とローラに謝罪し
ローラはマリーとブルースが結婚したことを報告し
これからは料理も掃除もすると
そして「もうシバの話はしない」と約束するのです
過去を振り返っても、後悔しても、やりなおすことはできない
未来に生きるしかないと悟ったふたり
でもこれで酒を止めるか止めないかは、また別の話(笑)
朝起きて後悔しても、夕方には忘れるのが依存症なのだから
【解説】映画.comより
ウィリアム・インジの舞台劇の映画化で、「底抜け落下傘舞台」のハル・B・ウォリスが製作にあたった1952年作品。脚色はケッティ・フリングス、監督は舞台の演出を担当したダニエル・マンである。撮影は「その男を逃すな」のジェイムス・ウォン・ハウ、作曲はフランツ・ワックスマン。主演は舞台と同じシャーリー・ブース(52年アカデミー主演女優賞獲得)と、「真紅の盗賊」のバート・ランカスターで、テリー・ムーア(「猿人ジョー・ヤング」)、リチャード・ジャッケル「暴力帝国」、フィリップ・オーバー、リザ・ゴルム、ウォルター・ケリーらが助演する。