「ブルーは好きだが、ロレンツォは好きになれないな」
原題は「UN BACIO」(キスを一つ=じゃあ、またね)
イタリア映画にしてはずいぶん保守的で差別的な映画だなと思ったのですが
それもそのはず2008年にアメリカ・カリフォルニア州でおこった
ゲイの少年が同級生に射殺された「ラリーキング事件」がもとになっているそうです
映画と同じくラリー・キング君も養子として育てられていました
10歳のとき自分がゲイだとカミングアウト
同級生からは「オカマ」「軟弱」といじめを受け続けます
それでも彼は自分のアイデンティティを貫き、高校生になると
女性用の服を身につけ、メイクをして学校に通うようになります
登校中の彼に生徒たちは中傷の言葉を投げかけ、服装を問題視する教員もいましたが
カリフォルニア州の州法で「服装選択の自由は保障された権利」であるため
学校側は電子メールで通達します
加害者はBrandon Mclnerney
15歳の2月11日、ラリー・キング君は学校の廊下でマクナーニー君に
「愛してるんだ(Love you, baby)」と告白します
事件の数日前、バスケのゲーム中のマクナーニー君に
チームメンバーがからかう目の前でバレンタインの予定を尋ねました
マクナーニー君もまた、複雑な家庭環境に育ち
両親ともに前科持ち、母親は薬物依存症の矯正施設に入退所を繰り返していたため
父親と暮らしていました
不安定な環境のためか、やがてナチス思考や白人至上主義に傾倒していきます
ナチスや白人至上主義は、白人であることはもちろんですが
遺伝学的に正常か否かだけで「優秀」を判断する主義思想で
同性愛者は嫌悪すべき劣等人種
2月12日、マクナーニー君は父親の22口径リボルバーを鞄にいれて登校します
一度はやめようかと思いますが、ラリー・キング君が名前をLeticiaに変えると聞き
(性同一性障害が認定されたということか?)再び犯行を決意
教室に入ると背後からラリー・キング君の後頭部に2発の弾丸を撃ちこみます
2月13日、ラリー・キング君は脳死状態のため、法的に死亡が確認
臓器提供のあと家族の同意の下でスイッチを切られました
2月14日、バレンタインの夜でした
マクナーニー君は3年間に渡る裁判の後、21年の懲役刑を言い渡されます
このような衝撃的な内容なんだれど、青春映画としてもよくできていて
10代の恋と性、親との確執、学校での虐めや差別が実にうまく描かれている
ラストが苦しすぎて忘れそうになるけど、レイプされてる動画を見せられて
はじめて集団レイプたと気づくのも重いシーン
【ここからネタバレあらすじ】
やさしい里親夫婦に引き取られ、トリノの施設から
北イタリアのウーディネへやってきたロレンツォ16歳
ファッションと音楽が大好きで、翌日は新しい高校にダンスしながら派手に登校
早速学校中の生徒からオカマと罵られ、ゲイっぽいシャツと馬鹿にされますが
ロレンツォは気にも留めません
隣の席になったブルーも「ビッチ」と壁に落書きされ、仲間外れにされていました
明るく前向きなロレンツォに思わず吹き出し2人は意気投合
ブルーはロレンツォがゲイであることを受け入れ2人は仲良くなりました
ブルーには年上の彼とその友達4人で乱行したのがばれたことを打ち明けます
すぐさまネットで「アンチロレンツォの会」というサイトが開かれ
ロレンツォへの中傷が始まりました
書き込みをしようとしたロレンツォですが、思いとどまり
自分はクラスの人気者だという妄想で乗り切るのです
ロレンツォは、クラスで誰とも口を聞かないアントニオが気になります
バスケ部ではチームの得点源として活躍していますが
知的障害だとみんなからばかにされていました
一方アントニオはブルーのことが好きですが、話しかけることができず
夜中にこっそり壁に書かれたブルーの悪口を消しています
ロレンツォはブルーと計画し、アントニオを夜のレストランに招待しました
派手な古着でおしゃれして、お酒を飲んでアントニオとも仲良くなります
今まで敵しかいなかった学校が楽しくなる、成績も上がっていきます
(ロレンツォは秀才)
ある日、バスケの練習のあとのシャワールームでいやがらせを受けたアントニオは
バスケ部のリーダーの全裸を盗み撮りします
ロレンツォは「アンチロレンツォの会」に書き込まれた根も葉もない噂への復讐のため
マリファナの力を借りてニュース動画を作成し、ネットで
クラスの意地悪女子3人組の秘密やバスケ部のリーダーの全裸写真を公開し大炎上
次の日、仕返しが怖いアントニオは学校に行くことができませんでした
それならとロレンツォとブルーはアントニオを誘って町に行き
ブティックでファッションショー(結局何も買わない)
その間に、親たちに学校から3日間の謹慎の連絡がきます
謹慎中3人は川に泳ぎに行くことにしました
ブルーが水着に着替えに行っている間、川辺で服を脱ぐアントニオを見て
抑えきれなくなったロレンツォはアントニオを後ろから抱擁し
股間に手をしのばせようとしました
アントニオはロレンツォを突き飛ばし、逃げるように帰ってしまいます
それからロレンツォが何度電話してもメールをしても返事をしないアントニオ
学校で話しかけても完全無視
そんな時ブルーが出版社からブルーの母親あてに来た手紙を見ると
母親のブログへの評価がありました
慌ててそのブログを読むと、そこにはブルーとアントニオやロレンツォのことまで
赤裸々に書かれていたのです
怒ったブルーは教室を飛び出し、家に帰ると母親のパソコンを水道の水に浸し
母親を罵るのでした
アントニオを諦めきれないロレンツォはアントニオの誕生日に
プレゼントを渡すためバスケットコートを訪れます
チームメイトから嘲笑されたアントニオはついに爆発してロレンツォを暴行
それは、それまで除け者にしていたチームメイトが止めに入るほどでした
ブルーは何カ月ぶりかに帰ってきた年上の彼に、おしゃれをして会いに行きます
「やっぱりブルーが最高だ」と言う彼に嬉々としながら
「本当は浮気していたんでしょ」と問い詰めると
「動画で寂しさを紛らわせていた」「見るかい?」とスマホに映し出されていたのは
4人の男が泥酔して嫌がるブルーを無理やり押し倒して淫行する恐ろしいものでした
彼氏からひどい扱いを受けていたことを知ったブルーは傷つきます
ある晩、アントニオがロレンツォから渡されたプレゼントを開くと
3人が仲良く映った写真の入ったフレームでした
アントニオはロレンツォの家へ行き、ふたりはどちらともなくキスを交わしてしまう
翌朝、学校を遅刻したアントニオは帰ろうとしますが職員が門を開けてくれました
アントニオは教室に入ると、親しげに自分のほうに向かってきたロレンツォに
鞄から父親の銃を取り出し発砲します
その頃ブルーは母親と警察にレイプの被害届を出しに行ってました
事件を知ったブルーは涙を流しながらバイクを走らせるのでした
「永遠にふたりは友だち」
もしあの川に遊びに行った日、もう少し心に余裕があれば
3人の関係が壊れることはなかったのに
【ネタバレあらすじ終了】
ロレンツォやブルーと違って、アントニオは気持ちの弱い人間なんですね
他人の目や親の評価をとても気にする、自分はダメな人間だと思ってる
それを唯一は励ましていたのが死んだ兄の亡霊
ブルーのことが好きだけれど、自分の中にあるゲイの部分に気が付いてしまう
(ゲイの人は、ゲイ同士見抜ける素質があると思う)
実際ロレンツォは人間的にとても魅力的で、いつか成功する素質をもっている
でも固定観念で認めることができない
兄の亡霊(心の声)がアントニオを犯行に及ばせてしまった
死んでしまったら(殺したら)、ロールプレイングゲームのように
もういちど別の未来を選ぶことはできない
銃規制を含め、監督は若者たちにそう言いたかったんだろうな
ガガ様の「born this way」が心に沁みます
【解説】映画.comより
イタリアの高校を舞台に、かけがえのない絆や未来を無知ゆえに破壊してしまう若者の残酷さを描いた青春ドラマ。「ミラノ、愛に生きる」の脚本家イバン・コトロネーオがアメリカで実際に起きた殺人事件をもとに執筆した小説を、自ら共同脚本を手がけメガホンをとった。イタリア北部ウーディネ。愛情深い里親に引き取られ、トリノからこの町の学校に転校してきたロレンツォは、個性的な服装で周囲から浮いた存在になってしまう。やがてロレンツォは同じく同級生たちになじめないブルーやアントニオと親しくなるが、自分たちを阻害する生徒たちに復讐を試みたことをきっかけに、運命の歯車が狂いはじめる。