早春(1956)

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この映画を夫婦で一緒に見て
もし夫が池部良のような表情をしたら
浮気している可能性ありますよ(笑)

 

杉山(池部良)と結婚8年目の妻、昌子(淡島千景
暗闇の中で目を開けて寝ている妻の横顔の長いショットで
夫婦仲がすでに冷え切っていることがわかります

杉山は丸ビルの煉瓦会社に勤めるサラリーマンで
いつも蒲田駅から同じ電車に乗り合わせることから仲のよくなった
青木、辻、田村、野村、キンギョと呼ばれる金子千代(岸恵子
退社後はまっすぐ家に帰らず集まって麻雀したり
パチンコにふけるのが日課

ある日曜日、皆で江ノ島へハイキングに出かけ
その日から杉山と千代の仲が急速に接近
そして杉山のオフィスに電話がかかってきます

 

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こういうシーンの小津の演出って本当に巧くて(笑)
杉山は「ああ、君か」「いいよ」しか言わない
それだけなのに相手がキンギョだとわかる
家から電話があって急用ができたから入院している同僚の見舞いに
行けなくなった、と同じ会社の男に言うのも嘘だとわかる

そして横顔だけを、また少し長いショットで見せる
表情はない、なのにこれから起こることを暗示させます
案の定、杉山はキンギョと一夜を共にしてしまう
しかし朝になると他人行儀になり冷たい態度をとるのです

本当に小津作品って完全に男目線(笑)
今度は妻にも嘘の外泊した理由を説明する
もちろん昌子は、夫がキンギョと泊ったと勘づくわけですが
責めたりせず、ここでも表情だけで見せる
その顔がまた怖い、美女の怒った顔は怖い(笑)

 

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ふたりには幼い息子を疫痢で亡くした過去があるんですね
昌子はその傷が癒えていないのに、夫は命日さえ忘れている
しかも遊んでばかり、酔っぱらって戦友を家に泊めたり
あげくの果てに仲間につるし上げられたキンギョが
杉山に会いに家にまでやってくる
そりゃあ我慢も限界、家も出ていくわ(笑)

でもおでん屋を営む昌子の母(浦辺粂子はすでにこの時、浦辺粂子)は
「私が嫁に来た夜、亭主は吉原に行った」
「怒るってことは、まだ亭主のことが好きなんだね」と
杉山を許してやりなさいと

一方の杉山にも上司の小野寺(笠智衆)が
「いざとなると、会社なんて冷たいもんだし
 やっぱり女房が一番アテになるんじやないかい」と
家族の大切さを伝えるのです

杉山はひとり岡山県の三石に赴任
そこは山に囲まれた侘しい町でした
(東京のサラリーマン生活に文句ばっかり言ってるからよ)

 

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出発の時、キンギョは目に涙を浮かべていたけど
杉山は別れられると安心しただろうな
数年後東京に戻ってきたときには、美人だし”ズベ公”(死語)だし
誰かと結婚してるだろう

三石に着任してしばらくして、工場から下宿に帰った杉山は
昌子の姿を見つけます
そしていつも通りの夫婦の会話が始まるのです

 

「早春」とは、”冬の終わり”のこと
子どもを失ったり、夫が浮気をしたりという危機を
小津は夫婦の「冬」にたとえたんじゃないかな
それを乗り越えたらまた春が来る
そういうことだと思います

 


【解説】allcinemaより
 小津安二郎野田高梧とともに書いたシナリオを監督し映画化。不倫に揺れる昭和30年代のサラリーマン夫婦を描く。
 蒲田に妻と住む杉山正二は、丸ノ内への通勤途中で知り合ったサラリーマンたちと仲良くなり、退社後に遊びに行くのが日課となっていた。妻は退屈な毎日から逃れるように、おでん屋を営む母の実家へ帰ったりしている。通勤仲間と出かけた江ノ島で、杉山は金子千代と接近。千代の誘惑に耐えきれず、関係を持ってしまう。二人の関係に気づいた杉山の妻は家出して、旧友のアパートに転がり込んだ。同僚の死をきっかけに、杉山は自分の生き方を振り返り、千代と別れようと考え始める。ちょうどその頃、会社で地方工場への転勤話が持ち上がった。