オープニングの最後に現れる
「to Sharon」(シャロンにささぐ)の文字
これは気が付かなかった
ナスターシャ・キンスキー(当時17歳)はシャロン・テートと似ている
ドイツ人で英語がまだ苦手だったキンスキーがテスを演じる事に
周囲からかなり反対があったそうですが
ポランスキーにとってはキンスキーとの出会いのほうが重要で
原作云々は後からついてきたものなのでしょう
牧師から貴族の末裔だと知らされた父親によって
親戚だと名乗りダーバヴィル家に奉公にやられてしまうテス
苺の赤、ピンクの薔薇、そしてテスの美しさ
薔薇の棘が痛いというテスに「美しさには代償がいる」というアレック
不幸を暗示するようなその言葉通り
犯され、情婦にさせられ、生まれた子は死んでしまいます
これが世渡り上手な女なら美貌を武器に男たちを手玉に取り
セレブな生活と浮気を満喫したのでしょうが
テスには信念があって、嘘が付けない
でも貧しくてお金が必要だという現実との板挟み
初めて愛を知ったエンジェルには
過去を打ち明けたとたんに捨てられてしまう
男の処女愛の残酷
それはテスをさらなる破滅へ向かわせます
テスがストーン・ヘンジで眠るラストは
(舞台がフランスなので)原作にないものだと思いますが
そんなポランスキーの願いがあったのではないでしょうか
ギスラン・クロケのカメラの素晴らしさ
過激な映像なしに、ここまでエロスの描写を成り立たせる
文豪ハーディの名作を、ポランスキーが英国ロマンの薫りふんだんに映像化した大作メロドラマ。19世紀末、ドーセット地方の貧農の娘テス(キンスキー)は遠縁のダーバビル家に奉公に出される。その息子にかどわかされ私生児を孕んだ彼女だが、実家に戻って生んだ子はわずか数週間で死んでしまう。後に働きに出た農場で牧師の息子(ファース)と美しい恋に落ち結婚するが、テスの過去を初夜に知った彼はそのまま外国に去っていく。流転の人生の果てに再び彼とめぐりあうテスだが、もはや新たな選択は破滅を意味した……。誘惑の苺に奮いつく唇の艶かしさ、野卑な農婦の中で際立つ清楚さ、テス=キンスキーの美しさが多くを担う作品だが、P・サルドのスコア、G・アンスワースのキャメラともに流麗にして甘美。珍しく風景に大いに語らせるポランスキーの演出作法も堂に入ったもので、ラスト近く、度々映し出されるストーンヘンジの崇高なシルエットが意味ありげだ。