ミルドレッド・ピアース(1945)



日本では未公開、戦後も公開されなかったそうですが
アメリカでは高い評価を受け(ジョーン・クロフォードがオスカー受賞)
マイケル・カーティス監督の最高傑作と言われているそうです

アプローチはダグラス・サーク監督の悲しみは空の彼方に(1959)
似ていますが「悲しみ・・」の娘、サラ・ジェーンが自分のしてきた
過ちに気づき後悔するのとは違い



こちらの娘、ヴィーダ(アン・ブライス)は最後まで母親を見下し
嘘つきで、身勝手で、上流の人間気取り
母親のミルドレッド(ジョーン・クロフォード)が
苦労して稼いだ金を惜しげもなく浪費します

それでもミルドレッドは娘を溺愛し
尽くし続ける甘い母親



これに近い母娘は今でもいますね
子どもに才能があると信じて、幼い頃から塾にお稽古
それが何より正しいと信じているのです

ミルドレッドもそうでした
だけど夫のバードは、次女のケイは活発で可愛いけれど
長女のヴィーダは今から金の亡者でわがままで偏見が強いと
妻の教育方針に反対します



バードが浮気へと逃げてしまうのも、当然かも知れないし
そのせいで、ミルドレッドが子どもたちに
ますます入れ込んでしまうのもまた、当然なのかも知れません

夫と離婚したミルドレッドに、色目を使うのが
やり手の不動産業者、ウォーリー(ジャック・カーソン
確かにお調子者のスケベではありますが(笑)
私はこの男が、いちばんマトモだと思います
損と得、バカとお利口の見分けがつく人間



ミルドレッドがレストランのオーナーとして成功したのも
実はウォーリーのおかげなのです

しかしミルドレッドはレストランの物件の持ち主であった
名家の御曹司モンティ(ザカリー・スコット)と交際します



セレブなモンティの生き方に憧れるヴィーダ
だけどモンティが持っているのは地位だけ
やがてミルドレッドの持つお金に寄生するようになります

モンティといったんは別れるものの
モンティを慕うヴィーダのために彼と結婚するミルドレッド
そのことはミルドレッドを破産に追い込み



義理の父親であるモンティとの結婚を望んだ
ヴィーダを破滅させることになるのです

モンティは生まれながらに邪悪な悪女である
ヴィーダの本性を、実は見抜いていたのです

それでもヴィーダを守りたい母親の気持ち



ミルドレッドは自分に惚れているウォーリーに
ヴィーダの罪を被せようと企みます
娘からの愛を得るための、浅はかな行い

わが子が罪人にもかかわらず
すべてを敵に回しても、それを撤回しようとする

そうか、ミルドレッドはヴィーダを愛しているよりもっと
ヴィーダから愛されたかったのです
それは夫から(または過去の経験から)大切にされなかった
愛情不足からなのか



そんなミルドレッドが愚かだと決めつけることはたやすいけれど
彼女の子どもを思う、我が身を捨てた行動に
身に覚えのない母親はいるでしょうか
自分の子がヴィーダのようでなかったのがただ幸運なだけ

後味の悪い物語ではありますが
誰でも持っている人間の本性に矛先を向けた、名作
親子関係の教訓も、今も昔も変わらないのです



【概要】ウィキペディアより
ジェームズ・M・ケインの1941年の小説『ミルドレッド・ピアース』の映画化であり、マイケル・カーティスが監督、ジョーン・クロフォードが主演した。クロフォードにとってはMGMからワーナー・ブラザースへ移った最初の主演作であるが、本作で初のアカデミー主演女優賞ノミネート・受賞を果たした。
日本では長らく劇場未公開であったが、『深夜の銃声・偽りの結婚』や『ミルドレッド・ピアース深夜の銃声』といったタイトルでテレビ放映されたこともある。日本では2013年にDVD発売。