マイケル・ムーアの世界侵略のススメ(2015)



これは良かった、万人にお薦めしたい


面白い、わかりやすい、勉強になる、考えさせられる

社会的メッセージと、切り口のセンス、押し付けがまさのなさ

トータルバランスも素晴らしいノンフィクション


マイケル・ムーアが欧州各国を巡り、現地の人々と対話を重ね

そこで知った自分が良いと思う、政策や、制度や、文化を”略奪”し

アメリカに持ち帰るというドキュメンタリー

私が特に刺激を受けたのはフランスとフィンランドでした




最初に侵略した国はイタリア

イタリアを代表する著名人のひとりが、なんとスーパーマリオ(笑)


イタリアでは年の有休休暇が8週間

昼休みが約2時間ある会社も存在しているといいます
そのうえに、12月には1ヶ月分の給料の上乗せ


日本ではイタリアのように長い有休こそ取りにくいものの

GWやお盆やお正月には連休がありますし

ボーナスを年に2回支給する会社がほとんど


しかし、アメリカには有休休暇制度も

ボーナスもないというのです


ムーアは長い昼休みや休暇こそが

生産性をあげ、社員の幸福度に繋がると思い

アメリカへアイディアを持ち帰る事にします




次に侵略したのはフランスの小学校

フランスでは決して豊かでない地域の、公立の小学校でさえ

シェフが栄養バランスを考え料理を作り、コース料理を提供していました

食器もアルミやプラスチックではなく本格的なもの

なのに給食費アメリカの学校よりも安いのです


医療費は無料、保育園も無料

税金はものすごく高いけれど、それらのサービスが税金で賄われているため

国民の負担やストレスは少ないというのです

そして自分の給与明細には、自分の支払った税金が

何にいくら使われたか全て記載されているのです


しかしアメリカでは自分が支払った税金が何にいくら使われたか

全く書いていない

それは日本も同様です

さらに、性教育の充実

避妊率はアメリカの2倍で、性感染症も少ない

ムーアは食育と性教育アメリカに持ち帰ることにします




次に侵略に訪れたのが、学力世界一のフィンランド

元々フィンランドアメリカ並の学力水準だったそうです


しかし、学校教育のシステムを見直し

宿題の廃止②選択式テストの廃止 ③全国統一テストの廃止

その時間で④外国語学習の実施

だからすべての生徒がトリリンガル三言語話者)か

マルチリンガル(四言語以上の話者)

これに対しアメリカ(日本も)は

授業時間は長い上に、試験対策に時間を費やされ

美術や、音楽といった芸術分野の授業のほか

公民のような政治を学ぶ授業さえも削られている

大人から一方的に幼児教育の重大さを唱えただけのもの


ムーアは宿題廃止による学力向上を、アメリカに持ち帰ることにします




次に侵略したのはスロベニア
スロベニアも教育水準が高く、しかも大学の学費が無料

優秀な学生が借金をしなくても、大学に進学できるのです

さらに、他国の学生でも無料で大学に通えるのです

ムーアは大学の学費無料という制度を、アメリカに持ち帰ることにします




次に侵略したのは、ヒトラーという黒歴史を持つ国ドイツ

アメリカにとって、正義を誇るための、今でも最大の敵


ドイツは仕事でストレス過多になった場合

3週間スパに滞在に滞在できる制度があるというのです

それは過労による深刻な病気を未然に防ぐことで

高い治療費を払わないためだそうです

就業後、社員にプライベートに介入するのも禁止


そして歴史的過ちと真摯に向き合い、罪を忘れず

過去の過ちを教訓にして、日々努力しようと心がける

ムーアは過去の過ちに学ぶ、という思想を

アメリカに持ち帰ることにします



次に侵略したのは、かっての麻薬犯罪の国ポルトガル
ポルトガルでは麻薬対策が積極的に行われ

今では麻薬に関わる逮捕者が15年間ゼロ

そこには「無料の治療制度」がありました

ムーアはこれも持ち帰ることにします




次は殺人事件発生率は世界一低く、再犯率は世界最小というノルウェー

ムーアは重犯罪者が収監されている、離島刑務所を訪れます
そこでは115人の囚人に対し看守は4

施錠もされず、社会復帰を目指しています

別の刑務所では、浴室やトイレ付の清潔な個室が用意され

テレビやゲームまで与えられて、看守は銃や武器を持っていません

受刑者にも投票権があり、大量殺人鬼も凶悪犯も人間らしく扱われます


被害者家族までが、加害者に報復や復讐したいとは思わない

「罪を許す」という国民性

ムーアは侵略国の中でこのノルウェーの制度にいちばん驚きました




続いての侵略国は、新憲法で女性の権利の向上を目指したチュニジア

差別の無い男女平等の社会を確立し

政府出資の無料女性クリニックを提供


最後にムーアが侵略したのは世界最初の女性大統領を生んだアイスランド
ここでも女性差別を無くし、権利向上の為に一致団結

男女平等を勝ち取り、女性も様々な職業に就けるようになりました


ムーアは女性の権利をアメリカに持ち帰ることにします



ここで紹介されているのはヨーロッパの「いい面」ばかり

高い失業率や、難民問題については取り上げていません


それも敢えてムーアは「良い部分のみを撮影しに行った」そうなのです

「いい部分に注目し、そのコントラストを見せたいんだ」

外を見て内を知る

他人を優先できて、自分も進歩できる

それを知らないアメリカ人


ムーアはそんなアメリカ人に、世界の多くのいいところを

興味を持って欲しいのです




MakeAmerika Great Again

古い制度に囚われるのではなく

金儲けとか虚栄に走らず

それは新しい、若いアイディアから生まれてくるもの


そして挿入歌の「Weare the world

こんなにいい曲だったなんて

Weare the world

私たちはみんな仲間
Weare the children
私たちはみんな神の子供たち


マイケル・ムーアが私にとって、ナイス・デブのひとりになりました

お気に入りです





ボウリング・フォー・コロンバイン」「華氏911」のマイケル・ムーア監督がアメリカを飛び出し、ヨーロッパで“侵略”の旅を敢行、アメリカに持ち帰るべき様々な良き制度や文化を略奪しようと各国を巡り、現地の人々と対話を重ねていくさまを記録したドキュメンタリー。年間8週間もの有給休暇や小学校の給食がフルコースといった、アメリカ人には信じがたい様々な驚きの“常識”が次々に紹介され、アメリカの市民が置かれている現状を改めて問い直していくとともに、取材を進める中で、さらにアメリカ人を驚愕させる皮肉な真実をも明らかにしていく。