木と市長と文化会館/または七つの偶然(1992)


原題はL'ARBRE,LE MAIRE ET LA MEDIATHEQUE OU LES SEPT HASARD(木、市長、メディア図書館、または七つの危険

 

究極の政治ディスカッション劇

 
日本でも「インフラ整備」の名の下に

不必要だと思われる建物が乱立し

やがて維持費に悩まされているような気がしますが(笑)

 

田舎町の美観の一翼を担う大きな木がある場所に

新市長が文化会館を建てようとします

小説家の恋人も、その町の校長も

景観の美しさを損なう会館や駐車場はいらないと反対しますが

 

市長は景観を損なわないように配慮するし

会館が出来たら都会から人がたくさん来て

農村地帯の活性化になると譲りません

 

しかし実のところは、村人たちのためというより
パリの政界進出の足がかりにしたいという目論見と
自分の市長としての軌跡を残したいためでした

 

そんな市長に校長の娘は、でっかい公園が欲しい

田舎には緑がたくさんあるけど、人々がくつろいだり

おしゃべりしたり、散歩や読書するための公園がないと訴えます

 

ドキュメンタリー風で、登場人物も演技ではなく
まるでそこに住んでいる人のようで

TBSの「噂の東京マガジン」という番組の

「噂の現場」というコーナーみたいです(笑)

 

でも「噂の現場」とは違い、こちらの市長はちゃんと「対話」します

そして7つの偶然が重なって、小さな村の政治が変わっていくのです

 

これは、政治家が何かシンボルを作ろうとしたときは

その本当の思惑を疑う必要があるという強烈なメッセージ

 

だけどユーモアも交えながら軽妙で、重苦しさは一切ありません

そして突然村人たちが歌い出す、ラストのあっけなさ(笑)

 

文化政策というテーマや、このような作りの映画があることに驚きで

その点は面白いですし、政治について考えさせられもしますが

 

下記の淀川長治さんの解説ほど

そんなめちゃくちゃいい、とまではいきませんでした(笑)

 


【解説】淀川長治の銀幕旅行より

ルノワールとクレールを思い出す間違いなきフランス映画。ものものしい題名も、映画を見終わると幼児の絵本の題名を思うほど、これは可愛い映画。政治と文化教育を説きながら、ここにあるやわらかさはどうだ。フランスはコブシを振って演説などせぬ。
監督が「海辺のポーリーヌ」(1983)のエリック・ロメール。脚本もロメールの1992年フランス映画のカラー。1時間51分。このロメール、ことし74歳。このさわやかさ、この若さに見とれてしまう。
話は、もしもあの時ああなら、そのもしもの7つが語られてゆくが、映画はそれをメロディーのひとつひとつのように流してゆく。
田舎の市長が名を高めるため、広い土地を利用して文化会館を建てようと計画。ところがそこに百年の樹齢の柳が一本、これを愛した小学校の先生が悲鳴をあげて反対。そんなことで、と市長は相手せぬ。
ところがその学校の幼女のひとりが、それよりここに公園を造ってとびっくりすることを言い出す。みどりの広い土地に何が公園かとしかるが、幼女はたじろかない。公園を造るとみんな集まり、みんな話し合うが、文化会館など建てると村の人は怖がっていかなくなってしまうし、畑仕事で忙しい村の人は話し合うこともなくなり、村はお友達をつくらなくなる。ここで大人たち、特に市長が考えこむ。
映画はせりふの洪水だが、そのせりふ、その表情、その笑顔。相手の反対を受けてもだれもが笑顔で答えるこのフランスのこの“村ものがたり”にほれぼれするばかりか、映画の風格、俳優のせりふエロキューション(せりふまわし)、それにこの童話を思わせる演出、それなのにフランスここにありのフランスが薫る。

フランスは死んではいない。アメリカの何とかリストの作りとえらい違い。美術であり、このロメール・タッチこそ芸術だ。

市長(パスカル・グレゴリー)、教師(ファブリス・ルキーニ)、市長の娘と教師の娘が偶然で仲良しになるこの二人の幼女もうまい。とにかくフランスは映画を持っている。