ウィル・ペニー(1967)



初老の男の悲哀と、純愛

興行的成功はしなかったしなかったそうですが、なかなかの名作
私が見た中ではチャールトン・ヘストンのベスト演技だと思います
身の程をわきまえた男のいじらしさに胸が詰まる


雇われカウボーイのウィル(ヘストン)は仲間内では最年長
料理番のオッサンからビスケットを盗みをたしなめられたり
不味い豆料理を腹に詰め込んで仕事に向かったり
給料をもらうとき字が書けなくて周りを気にしながら名簿に×と書く
雇い主にカンザスの仕事を誘われても帰郷したい若者に譲ってしまう
この男がどういう人物かわかる、冒頭から描写が丁寧ですね

カメラはのちにサム・ペキンパーなど
巨匠と組むようになるルシアン・バラ-ド




新たな仕事を求めて仲間のダッチアンソニー・ザーブ)
ブルーリー・メジャース)と旅立つウィル
しかし旅の途中、狂信的説教師クイント一家と
肉(鹿)の取り合いで銃撃戦になり、ブルーは瀕死の重傷
息子を殺されクイントよって執念深く追われることになってしまいます

この怪我をしたブルーを医者に連れていく途中の食堂で
子連れの美人の奥方、キャサリーンに介護してもらったブルーが
仲間に見捨てられ、アパッチ100人と戦ったみたいな美談をするんですね
美人の前だ、ブルーを立てウィルもそのホラ話に乗っかるのです
そのせいでとことんキャサリーンに軽蔑されてしまうことになります



食堂の亭主と怪我人が医者のいる町まで持つかどうか50ドルの賭けたり
やっと運び込んだ医者の家では、医者に
「これでは怪我で死ぬより凍死する」と言われてしまう
またそのことがラストへの見事な伏線になっているのです

そしてウィルはアレクスという男が管理している草原の小屋で
冬中の牧草の手入れを任されます
条件は草原を誰かが通るのはいいが、決して留まらせないこと
しかしなんとその小屋にはキャサリーン母子が住んでいました
荷物運びの案内人に逃げられてしまい行く当てがなかったのです



しかもウィルを軽蔑しているキャサリーンですので()
ライフルを向け彼に対する剣幕は相当なもの
しかたがなくウィルは寒い中野宿することにします

そんなある日、冬の食糧を運ぶ仕事の途中
ウィルはクイント一家に襲われてしまい、着ぐるみを剥されたうえ
重傷を負ってしまいます

やっとの思いでたどり着いた小屋
さすがのキャサリーンもその無残な姿に
ウィルを介護するしかありませんでした




やがて傷は回復し、男らしい仕事ぶりを目の当たりにする
息子もウィルになつき、尊敬しているように見えます
一方のウィルも無学な自分と違って教養あるキャサリーンに憧れる
戸惑いながらクリスマスソングを歌う姿にはジーン・・ときます

息子に抱きつかれたときの嬉しいような恥ずかしいような困惑した表情
いままで好きではなかったヘストンを見直す思いがしました

きっとこの母子とうまくいくんだろうな
キャサリーンと結ばれるのかもな、と思った矢先
再びクイント一家が襲ってきます
ウィルを縛り、キャサリーンに息子のどちらか一人を選べと言う



どうにか小屋を抜け出しキャサリーンの救出に向かうウィル
そこにウィルを助けにやってきたのは、かっての仲間のダッチとブルー
そして雇い主のアレクス一家でした

やっぱり人間ね、真面目で誠実に仕事をしていれば
困った時には誰かが助けてくれるのです(と、信じたい)

そんなウィルにキャサリーンは一緒に農場をして欲しいと頼みます
カリフォルニアに去った夫には捨てられたも同然
逆プロポーズです

普通の西部劇のラストなら、そこでハグしてキスして終わりでしょう
しかし違いました

ウィルはもう自分は50なのだと、カウボーイしかできないのだと
たとえ農場をしたとしても怪我でもしたら家族が路頭に迷うと
頑なにキャサリーンの申し出を断るのです

今と違って、昔は寿命も短いし、ましてや銃社会
年の差婚が難しかったのだと感じます



でも一番可哀そうだったのは、ウィルに懐いていた息子かな
逞しくて、なんでもできる、男の子の憧れ
生き方を教えてくれる、実の父親以上の存在

寂しいけれど、最後に「さよなら」を言えたのはよかったね



【解説】allcinemaより
老練なカウボーイ、ウィル・ペニーが、カリフォルニアをめざして旅をしている女性カザリンと知り合う。ならず者の一団と争ってケガをしたウィルを、カザリンは手厚く看護するうち、ほのかな愛情をおぼえていく。だが50歳になるウィルには、カザリンと一緒に暮らすことを希望することはできなかった……。