奇跡の丘(1964)




私は地上に平和ではなく
 剣をもたらすために来た

 人とその父を敵対させ
 娘とその母を
 嫁とその姑を
 家の者がその人の敵となる

 私より父母を愛する者
 子を愛する者は
 私にふさわしくない

 命を得ている者は失い
 私のために命を失うものはそれを得る」


原題は『マタイによる福音書



未成年の青年への淫行の容疑で、共産党から除名)
そのせいか、無神論者の私が観ても面白

キリストの偉大さをドラマチックに描いた大作よりも
飾り気がないこちらのイエスほうが魅力的に感じます

余計なものも、無駄も一切無い
エス言葉の羅列と、イエスのアップばかり

俳優が素人というのも絶妙で、かえって神秘的に思えました

しかも老いたマリアは監督の実の母親で
12使徒は友人たちなんだそうで()



セリフはほぼ聖書の聖句だけ

だけど、人間の行為として聖書を読み解いているので
どんな見事な演出をした作品より真に迫っていて
逆にわかりやすいですね

「奇跡」を否定するのではなく、ひとつの現象として捉え
「神」が「奇跡」を行うのではなく
「奇跡」が「神」を創るのだ、という見かたをしているのです

現世を捨て、傲慢にも「神」になろうとするイエス
逆に、現世での人間としての救いを求めようとするユダ

「その人の名は知らない」と3度言う
ペトロのエピソードは、ちょっと切ない

そして、自分の息子としてイエスを愛するマリア
それぞれがとても人間らしいのです



ヨハネの首が欲しいと、ダンスする少女サロメ)の描写もいい
爽やかで可愛い、それがかえって恐ろしいから

最大の見せ場である「キリスト復活」
「ここにはいないよあっちへ行ってごらん」って()

しかし、この客観的なあっけなさが
かえって難解で、クドクドしくせず
良かったのかも知れません



これも間違いない、名作、傑作でしょう

ただ、イエスが十字架から外されるときに
遠くで悠々と車が走っているのには
さすがに笑ってしまいます()

スマホでTV映像を撮ったので粗さはごめんなさい)



【解説】allcinemaより
マタイによる福音書”をコミュニストとして知られるパゾリー二が映像化し、意外にも、どんなハリウッド製のキリスト伝より感動的な作品となっていることに、改めてイタリアの信仰心にふくよかな風土に思いを馳せずにはいられない。出演は全て素人。音楽に使われるのは黒人霊歌や革命歌。カメラはあくまで素朴に人間キリストを中心に捉え続けるが、こうした表現の自由さが、真理を獲得した信徒たちの生き生きとした喜びの表情を自然に導き出す。終幕の復活劇のごくあっけらかんとした反ロマン的表現も、むしろ神話的な力をより印象づける効果がある。