ルーム(2015)

 

 

「よくないママね」
「でもママだよ」

 

 

 

第88回(2016)アカデミー賞では4部門ノミネート

主演女優賞受賞で気になってはいた作品

だけどその後日本では話題にならなかったのか、見逃していましたが

やはりよくできていました

 

物語は、実父のヨーゼフ・フリッツルにより24年間もの間地下室に監禁され
肉体的性的暴力、強姦され7人の子供(1度は流産)を産んだ
エリーザベト・フリッツルの「フリッツル事件」
(または「オーストリアの実娘監禁事件」「恐怖の家事件」と呼ばれる)
実話を基にしたエマ・ドナヒュー著(脚本も)の小説
部屋」が原作ということ
 
 

 

高校生の時、拉致監禁されてしまったジョイ(ブリー・ラーソン

そこがどこであるかわかりませんが

食料とテレビ、トイレや流しなど最低限の生活環境を与えられた”ルーム”

そこで監禁犯であるオールド・ニックとの間に産まれた男の子

ジャック(ジェイコブ・トレンブレイ)とふたりきりで暮らしています

 

母子が知る外界は天窓から見えるかすかな日差しだけで

ジョイの生きる望みは息子の存在だけでした

そこでジャックにお伽噺のような世界を教え込んでいます

 

しかしジャックも5歳となり知恵が芽生え

彼なりの意見や興味関心を持つようになります

いわゆる反抗期、職を失い金がないという

オールド・ニックにも耐えきれなくなり
ジャックを”ルーム”から脱出させようと計画するのです
 
 
 
 
案外と早く脱出劇は終わります

私がもし監禁犯なら、絨毯に巻かれた少年を確認するでしょう

遺体ももっとうまく処理するはず

だけど、そんなご都合主義が気にならなくなるほど

演出がうまくできていました

 

なんといってもジャックの演技が凄い

生まれてから母親とオールド・ニック以外の他人を見たことがないのです

「助けて」という声さえなかなか出てこない

母親(と観客)の期待どおりには動きはしません

肝心要の情報さえ、すべて忘れてしまうのです

 
 
 
 

 

それでも通りがかりの善良な中年男性と

有能な女性警官のおかげで、無事に母親も保護され

監禁犯も逮捕されることになるのです

家族との再会には心に熱いものが込みあげます

しかし、決してめでたしめでたしではありませんでした

 

「事件は解決しても、被害は解決していない」というTVCMがありますが

その通りだと思います

 
 
 
 
はじめのうちは母親ジョイのほうが
社会に適応していたように思われました

ジャックは母親意外とは話もできないし、顔を見ることすらできません

挙句には”ルーム”に帰りたいとさえ言います

だけれど、その立場はやがて逆転します

 

「監禁犯によって子どもまで産まされた女性」という世間の目

実の父親でさえ、ジャックを受け入れることができないのです

娘を持つ父親にとっては、あまりにショックで

事実を受け入れられないのでしょう

 

ジョイは自分の置かれた立場を恨み、悩みます

そして最愛の息子さえ愛せなくなってしまうのです

そんなジョイを救うのは、やはりジャックでした

 

 

 



“ルーム”だけが世界だったジャックには

そこに別れを告げるイニシエーションが必要だったのです

名前をつけた雑多なものたちに

ひとつづつ「バイバイ」(区切り)をしていく

そして母親にも別れを告げるように言うのです

「バイバイ、ルーム」

 

 

女性の拉致監禁、性奴隷が実際に世界で続いているという事実

そして無事に保護されたとしても、その後社会に適応する難しさに

私たちはもっと関心を寄せ、決して好奇の眼差しではなく

救いの手を差し伸べるべきなのでしょう

 

それでもここには辛さだけじゃない、愛も詰まっています

パンケーキは美味しい、レゴは楽しい、犬は可愛い、友達とサッカー

そして何よりママを愛している

 

幼い子どもが持つ、「救い」パワーは凄いと、思う瞬間ってあります

この作品でもまさにジャックに救われます

自分も子どもの時代があったはずなのに

それはどこに消えてしまったのでしょう(笑)

 

 

とにかく子役のジェイコブ・トレンブレイ君の演技は必見

とても苦しい作品にもかかわらず
見終わった後には温かい気持ちになれます
 
 

【解説】allcinemaより

エマ・ドナヒューのベストセラー『部屋』を「ショート・ターム」のブリー・ラーソン主演で映画化した衝撃と感動のサスペンス・ドラマ。7年間もひとつの部屋に監禁されているヒロインと、その間に生まれ、部屋の中しか知らない5歳の息子が辿る予測不能の運命を描く。監督は「FRANK -フランク-」のレニー・アブラハムソン。
 5歳の誕生日を迎えたジャックは、狭い部屋に母親と2人で暮らしていた。外の景色は天窓から見える空だけ。母親からは部屋の外には何もないと教えられ、部屋の中が世界の全てだと信じていた。2人はある男によってこの部屋に監禁されていたのだった。しかし母親は真実を明かす決断をし、部屋の外には本物の広い世界があるのだとジャックに教える。そしてここから脱出するために、ついに行動を開始するのだったが…。